とある煉丹術術師の感想
彼此2時間ほど、まるで旗のように棒に立ってる。その人の名はサーシャスカ・サブーリン。
やる気とか言うものをかけらも感じないのに一切の隙もなく、意識しないとその存在すら忘れてしまうかの様に気配も薄い。
草むらとかに寝転がっていたら多分気がつかない。
「あの大道芸の修行に何の意味があるんですか?」
同じ様に彼女の弟子達がやろうとしているが、勿論出来ない。いや、オゴーと言う南の島出身の少女は数分その姿勢を保って崩れている。が、まぁ、
「体の使い方だよ。
あれ、無駄に筋肉に力を入れて力まないから変な動きにならずにああやってバランスが保てるんだ。んで、体幹がイカれてるから彼此2時間近くああして居眠り出来る訳」
「は?」
近付いて見ると確かにスースーと寝息が聞こえた。
「何この人……仙人じゃん……」
仙人とは仙術を極めた存在で不老不死の存在だと言われている。曰く、木を手を使わずに登ったり千里も先の事を見通せ、天候を操るとか。
薬術にも秀でており、その知識で丹薬、つまりは不老不死の薬も作れるので我々煉丹術士にも深い関わりがある。まぁ、見た事ないんだけどね。
「そんなジジババじゃ有りませんがー?」
私の声が聞こえていたのかサブーリンはやれやれと棒から降りてくると、弟子君のユーリ君の前に。
「理屈が分かったらあとは実践あるのみ。
頑張ってねー」
「理屈が分かったから余計に出来ねーんだよ!」
どーなってんだ!とユーリ君は手にした棒を棒術の様に突き出した。
彼は魔力量も同年代の子供よりも多く、魔力を練る方法や体内に巡らせる方法も我が国の将軍クラスに勝るとも劣らない。
きっと魔術も長けているのだろう。
「君は魔術は使えるのかい?」
「少しは。
でも、才能はないからからっきしだよ。サーシャよりは使えるけど」
指先に火球を作って見せてそれを剣術の打ち込み人形に投げる。人形はボンと爆発して黒焦げになった。
「まだまだですわね」
脇でお茶を捌いていたサブーリンの嫁で神祖の吸血鬼であるクリスティーナが指をパチンと鳴らすと目にも留まらぬ速さで火球が生まれて飛んで行き、人形を吹き飛ばした。
「な?」
ユーリ君は上には上が居るんだ、と苦笑していた。
「落ち込む事はないさ。
君は、物語の勇士と同じレベルの力量はあるはずよ。君は私達と同じただの人間。種族が違う吸血鬼や不老不死で不死身の力を持った月の騎士と一緒に並び立てなくて当然だろう。
私は君の様に多彩ではない。煉丹術しかやってこなかったから君の様に武術は出来ないし、無詠唱で指先に火球を作ることすら出来ない。
君の卑下は私からすれば嫌味にも聞こえる悩みだよ」
肩を竦め、指先に火球を灯して見せる。そして、残った人形に投げてもユーリ君の様にまだ黒焦げにはならず一部が黒くなるだけだ。
「そうだ。気晴らしに君に煉丹術を教えよう。
月の騎士の弟子である君に教える事で何か良い発見やヒントになるかもしれない」
「えーいーよ別に」
「煉丹術とか言う術習えるなら習いなさーい。
ついでにこっちの言葉も覚えてー」
彼の師匠たるサブーリンの許可も得た。
「えー……
何に使うんだよ、レンタンジュツって」
ユーリ君は渋々と言う顔で私にあてがわれた部屋について来た。と言ってもユーリ君の部屋の隣の使われなくなった古い台所なのだが。
此処に実験用の器具や機材を持ち込んで日々研究とサブーリンの観察やら協力やらで使ったり何やりする薬などを作ったり調合したりしているのだ。
「君達の国で言う所の煉丹術は錬金術、つまりは無から金を作ると言う方法は我々煉丹術の通る道でもあるんだよ」
「はぁ、それはなんかちらっと聞いたな」
「うん。そうだろう。
金も丹薬を作るのに大量に必要だからね」
見てて、と拳大の石炭を見せる。
それを私が作り上げた魔法陣に乗せて魔力を込めつつ呪文を唱えていく。5分ほど念じると石炭は眩い光と共に親指程の金剛石に変わった。
「え、凄え!?
何で!?石炭が宝石になった!!」
「ど、どうだい?こ、これが、錬丹術、だよ」
魔力の殆どを使い切ったので、脇にある椅子に倒れ込む様に座る。
ユーリ君が居なきゃ多分、気を失うかもしれない。
「何でそんなに疲れ切ってんだよ!?」
「は、はは。あ、良いところをね、見せようと、ね」
ウィンクをして見せるが上手く出来たか分からない。
「君、なら私位にはすぐなれる、さ。
君は物覚えが良い、はー……だから、君には是非とも、錬丹術士にもなって欲しい、ね」
「まー、宝石作れるなら、いざって時には便利かもなー」
ユーリ君は笑いながら私に水を差し出して来た。
「ほら、飲めよ。
んで、こっち。魔力切れなんだろ?ちゃんと寝ろよ。
今、ポーション持って来てやるから」
ユーリ君は私を抱き上げるとそのまま私のベッドに寝かせ、部屋に戻っていった。
私、初めて男の人にお姫様抱っこされた……そんな事を感じる間も無く、私は気を失うように眠った。
全く持っていい子だ。
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