第96話 お漏らしの錬丹術師

 翌日、殿下はこの国の政治家どもとのお話合いに呼ばれた。

 私は来なくて良いと言われたので、中庭みたいな場所で昨日見た大道芸の真似事をしている。

 棒のバランスをとりながら斜めにしつつ、足を引っ掛けて体勢を保つ。斜めになった人間の旗みたいな格好。


「何であれで倒れねーんだよ」


 脇で見てるユーリが椅子の後ろ脚立ちを失敗しながら呆れていた。


「身体の使い方よー

 慣れれば簡単」


 ハッハッハッと笑って居ると次女がやって来た。

 何かマーマー言っており何も分からん。脇に待機して居る通訳はカタリナ様が来ましたと言った。


「呼んでいーよー」


 暫くするとカタリナが通訳と侍女を伴ってやって来る。


「殿下は留守でーす。

 クリスティーナと一緒になんかむずかしー話してまーす」


 通訳が口を開こうとして、カタリナがそれを止める。それからマーマー何か言うと通訳は頭を下げて下がって行った。


「おいおい、君帰ったら会話出来ねーでしょーが」

「いえ、ワタシは貴女の言葉を分かりマス」


 しゃべったぁぁぁ!!


「あーそれは良いですねー

 帰って良し」


 通訳は再度頭を下げて去って行った。ユーリ達が俺たちはどうする?と言う顔で見て居るので通訳に言葉を教えて貰えと告げるとユーリは嫌そうな顔をして、お江はハイと頷いて去って行った。


「殿下はおりませんがー?」


 話の続き。私の格好は相変わらず旗のポーズ。


「イエ、私の用件は貴女デス」

「はぁ……何か?」


 カタリナは顔をうっとりとさせて語り出す。自分の研究から始まり過去の研究とか何かよく分からん話ばかりしていたが、要約すると不老不死の研究してるが行き詰まったので私を研究したいとの事だった。


「私は確かに死なないですがー

 何故死なないのか知りませーん。聞くならコルネットに聞いてくださーい。私を不老不死にしたのは彼女なのでー」


 答えるとカタリナが固まった。


「え、不老不死の秘術を完成させたのデスカ?

 ワタシ、貴女は月より産まれ出た不死身の騎士と聞きワクワクしてマシタ」

「ふつーに母親と父親がネンゴロして母親の股から生まれましたがー?」


 貴女と一緒で、と答えるとカタリナがその場でぶっ倒れる。


「はぁー?」


 取り敢えず棒から降りて、ぶっ倒れて動かなくなったカタリナを覗き込むと鼻血と泡を吐いていた。

 なんかやべーから人を呼びベッドに寝かせる。一時間程すると殿下達が慌てて帰って来た。昨日の暗部リーダーも居る。


「何をしたので?」

「何もしてないので?」


 殿下がどーせお前だろ?みたいな目で見て来る。


「何でもかんでも私のせいにされても困りまーす。

 この変な人が勝手に鼻血と泡吹いて倒れましたー」


 良い加減起きて欲しい。

 試しに頬を引っ叩いてみるとパッチリと目を覚ます。


「エ、何故今ビンタを?」

「あ、起きた。

 無事そうなので帰ってモロテ」


 元気そうなので出てけと外を指差すともう少し安静にさせてあげようと殿下が言い出した。

 部外者をあんまり居させたくない。


「それで、何で鼻血出して泡吹いたの?」

「逆に聞きますガ、何千年もの間人々が追い求メ、ソシテ辿り着けズニ死んで行った夢ヲ叶える方法ガ、何の代償もなく魔術トシテアルと聞いたらドウデスカ?」

「あー……成程」


 殿下は納得していた。


「何の代償も無いわけではないですが?」

「貴女が死ンデ、それから復活したのでショウ?

 神話の世界の神デスカ?」

「じゃあ、千年後には神様として崇められてますねー

 崇めよ」


 止めなさいよ、と殿下が首を振る。


「サブーリン殿が神になったら、それは破壊神か良くて戦神でしょうね」


 大変に失礼。クリスティーナをみるとクリスティーナは殿下を睨んでいた。


「サーシャは武神ですわ。

 そして、守護神です」

「そーじゃねーのよ」


 そっちじゃねーよ。

 もうええわ。


「で、あーたはまだ私に何か用で?」

「ワタシ、アナタを研究したいデス!

 血を下サイ!」


 次の瞬間クリスティーナがそれはもう素晴らしい勢いでカタリナの首目掛けて鋭い爪を繰り出したので手首を押さえて防ぐ。

 いや、余り強く握るとクリスティーナの手首とか赤くなるのでギリギリを攻めたら普通に少し突き刺さり、軽く血が出た。


「サーシャの血は私の物です。

 私の物を共有してるのはコルネットさんだけですわよ。

 死にます?」


 クリスティーナは笑みすら浮かべずに言い切る。その言葉に周りは凍り付いてるし、当人はオシッコを漏らしていた。

 尚、私は笑っている模様。


「俺のベッド!!」


 そして、ベッドの持ち主が脇で叫んだ。ドンマイユーリ。


「そーゆー訳でー血はあげれませんねぇ」


 ハッハッハッと笑いながら、お帰りのご様子だ、と近衛騎士達に告げる。騎士達は頷いてカタリナの両腕を掴み、そのまま連れて行った。


「何なんだよ彼奴!

 俺のベッド……」

「まーまー

 変えて貰えば良いよー」


 ハッハッハッと笑い、その場は治った。暫くするとクソでかい行列がやって来て、家の周りを軍に囲まれる。

 正面の玄関からはアホみたいに着飾った女が降りて来る。殿下は王妃だと言うので殿下の後ろに傅いておく。

 王妃の後ろにはカタリナが立っていた。


「サブーリンさん、クリスティーナさん」


 そして、開口一番話しかけられる。


「何でしょうか?」

「貴女達の周りにカタリナを置かせて欲しいの」

「理由を伺っても?」


 カタリナを見ながら尋ねる。


「貴女達が死な無いからよ。

 我が国の煉丹術は不老不死や不死身の薬や魔術を作り出すことが目的なの」


 人体錬成とかしてそう。


「私のそばにいても変わらんと思いますけどねぇ〜」

「それでも、です」


 殿下を見ると頼むよと言ってくる。アホかなコイツ?


「まー、いーですけどー」


 クリスティーナを見る。


「私は別に構いませんわ。

 変な事したら殺しますけど」

「まー私やクリスティーナに変な事しても死なないけど、殿下にされたら死んじゃうのよねー」

「なら、この国の皇帝が死ぬ魔術を掛けますわ。

 そこの女が我々に少しでも敵意を見せたら皇帝が死ぬ魔術」


 クリスティーナが指を振る。誰も止める間も無く。あーあー、しーらない。


「これで良いですわ。

 貴女の行動一つで皇帝が死ぬので注意なさいな」


 クリスティーナがオーッホホホと高笑いをし、私とクリスティーナ以外の全員が冷や汗を掻いていた。


「不老不死の代償と考えれば安いものでしょう。

 それに、変な事しなきゃ皇帝も死なないですしー」


 彼等はアホなのだろう。私達の仕事は殿下の命を守る事。殿下の身近に毒殺がいとも容易くできる人間を置くならそれ相応の代償を払うと言う事は、我々からすれば当然なのだ。

 エドワード殿下は少し楽観的だが、次期国王なんだぞぉ?

 此処で死なれたら私が陛下に殺される。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る