第95話 取り敢えず、何処でも戦う近衛騎士

 ムキムキマンは棒を持って前に出る。棒術か。初めて戦うな。こっちでは。

 リーチと振りの速さが売りで斬撃ダメージは無く、打撃系のダメージがある。反面、打撃故に鎖帷子やクッション入りの防具にはめっぽう弱いし、所詮は棒。木の棒ならば折れるし、金属だと重くなり速度が損なわれる。

 棒かー


「素手でいいか」


 考えるのも面倒くせぇ。

 怪我させるなって話だし。


「武器を持たないト!」

「あーだいじょぶだいじょぶ」


 ヤクトゥーが慌てて居る。

 相手も何やらマーマー言っていた。


「その人!この国でもカナリ強いヨ!」

「私は王国周辺で最も強いと書いてさいきょーなのでー」


 カモンと煽ると普通にビキッた。やっすい挑発に乗るなよ。

 顔面を捉えた一撃。普通に避ける。躱すだけで当たらない。


「あー……」


 そこから突きの連打。速いけど、対応出来る。見える。つまらない。動きは早いし正確だが、気持ちが怒りに優って雑になる。型通り故に避け易い。やはり、人間はつまらない。

 いや、ドラクロア団長は楽しいな。うーん。

 一際強い視線を感じたのでそちらを見ると、ただの柱。何が居るのか?繰り出された大振りは間合に入って喉に一撃。相手は武器を落とす。その武器を拾って、柱に向かって投擲。

 柱にスカンと突き刺さった。すると他の所からも殺気が飛んで来た。みると天井だ。


「あー、この国の暗部か」


 天井には3人くらい居る。真上にも。


「あー、あっ、喉潰しちゃった。

 やっべ」


 泡吹いてビクンビクンしてる。まーいーや。

 席に戻り、残って居る肉料理を一口。


「喧嘩売ってくる割には腹ごなしにすらならんのは勘弁して欲しいですねー」


 ねーっと殿下に告げると殿下は額を抑えていた。


「怪我をさせないようにって言ったんですが?」

「いやー申し訳ない。

 あそことあそこに暗部いてーつい……」


 テヘペロして見ると殿下が真上と柱を見た。


「何も分からない……」

「まー殿下では無理かとー」

「私も何となく分かりますわよ」


 吸血鬼スゲーな。


「クリスティーナ、スゲー」


 ユーリが肉を頬張りながらじっと真上を見詰めるが、もう其処にはいない。


「其処じゃなくてこっちですわ」


 クリスティーナがユーリの頭の角度を動かして誘導。うん、その方向だ。


「某にも分からないです……」


 どの柱に?とお江も首を傾げて居るのであの柱、と誘導。


「うーん……」


 2人して分からんと首を傾げていたので笑っておく。


「本当にいるので?」


 殿下も見上げていた。


「居ますがー?

 あ、増えた。ほら、あっちにも。あ、其処に出入り口あるのかな」


 置いてあったナイフを投げ付ける。天井に突き刺さった。


「あそこから出入りしてて、えっとね……」


 近くからナイフを回収して待機してる箇所に投げ付けておく。


「今突き刺した場所に居る。

 あー慌てて逃げちゃった」

「そりゃ、下からナイフを正確に投げ付けられたら逃げるよね」


 殿下が止めなさいよ呆れ顔していた。


「少しイイカ?」


 そんな話をしていたら美人さんがやって来た。エロいチャイナドレスを着ている。

 胸は無い。


「なんでしょー?」

「アマリ、私の部下達イジメるの止めるネ」


 暗部のリーダーらしい。

 エロいチャイナドレスの癖に胸が残念だ。


「オマエ、私と変わらないネ」

「しつれー」


 クリスティーナを見ると暗部リーダーの方を見て笑っていた。


「その服、良いですわね。

 私にはキツそうですが」


 オホホホとクリスティーナの高笑い。私とリーダーはお互いに自身の胸を見合い、それからクリスティーナの胸を見た後、チャイナドレスを見る。


「オマエ、嫌いヨ」


 リーダーはクリスティーナを睨み付けると私に余分な事しないからオマエもするなと去っていった。

 クリスティーナは二度とくるなよーと手を振っていたので止まさせる。


「もう少し、仲良くな出来ないのですか?」


 殿下が呆れ返った顔をして私達を見ていた。


「それをするのは貴方の仕事。

 私達は殿下の身の安全を確保するのが仕事。そして、比重は私達の方が上。何故なら殺されかけてまでニコニコする必要はないし、我々はそもそもこの国と国交を持ったのもつい最近ですから。

 違いますか?」


 因みに、何故こんなに国交がなかったのかといえば前世で言う所のシルクロード的な道しかなく、広大な砂漠と数々の山脈があるので中々あっちに行くのも怠いのだ。

 故に陸路で一年、下手するともっと掛かり殆どが船で行く事になる。

 そして、我が国は海を持たない内陸国故に別に山と砂漠超えた先に興味も無く今に至ると言うわけなのだ。


「それはそうだが、君等の活動が今後僕の命に関わって来るとかは思わないのかい?」

「そうなる前にこの国から帰れば良いのです」


 違いますか?と肩を竦める。


「君は「失礼致しまス」


 其処に通訳らしいヤクトゥーと同じ格好をした男が話しかけて来た。

 男の横には馬鹿クソ派手な服で着飾った女とその次女が立って居る。次女達は一様に頭を下げて居るだけだ。


「皇后陛下のリョーラン妃です」


 殿下が慌てて立ち上がり、貴族の礼をする。私とクリスティーナもその背後に立ち、私は騎士の礼でクリスティーナは貴族の礼。


「この度はこの様な豪勢なパーティーにお呼び頂き、感激の極み。

 エドワードと申します」


 通訳がマーマーと訳し皇后はミャーミャーと答えた。そして、通訳が話す。なんて事のないお世辞の応酬アホらしい。

 そんなことを考えていたら変な視線を感じたので、顔を上げて視線の先を見る。1人の赤髪の女がこちらを見てうっとりしていた。

 なんだあの女?


「どうした?」

「変態がいるのでお気を付けを」


 指差すと全員がそちらを向く。それからリョーラン妃が困った様に笑って居る。

 カタリナは此方に頭を下げた。


「皇室薬師デ錬丹術師のカタリナ様デス」

「カタリナ、この国の人間ではないので?」

「生まれも育ちもこの国デス。

 彼女の両親が貴方達の地方から来たボウケンシャでしタ」


 成る程なぁーどーでも良いが。


「呼びましょうカ?」


 全員が私を見る。


「いえ、別にー

 用も無ければ興味もないのでー」

「そ、そうですカ」


 それからリョーラン妃は殿下と話をして去って行った。

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