第45話 触手令嬢と不満の原因
そして修行開始から数週間。
わたくしとヒロ様はくる日もくる日も、仮想世界にその身を投じ。
ヒロ様はあらゆる衣装で、わたくしの前に素晴らしいボロボロ姿を晒してくださいました。
体操着に女子セーラー服、背広姿にウェイトレス姿に執事服、果ては花魁衣装まで。
わたくしもおじい様の仰った通り、出来る限り力をセーブしつつ修行に挑みましたが――
毎回、ものの数秒でヒロ様は衣装の半分以上を剥ぎ取られ、あられもない姿になってしまいました。
最初の数日はそれが最高だったものの、何度も同じことが続くとさすがに飽きがきます。
趣向を凝らし、同じセーラー服でもスカートの長さを変えてみたり。
女子用のスク水を着せてみたり、はたまた騎士姿や流行りのドレス姿なども試してみました。
勿論こちらが繰り出す技も電撃だけでなく、炎であぶってみたり氷漬けにしてみたり、風の刃で切り刻んでみたり。
それでも結局、ずぶ濡れ泥まみれにして身体を触手で絞め上げるオチは変わりませんが。
「はぁ……
毎回コレでは何だか、我ながら芸がないですわぁ~」
「こっちの台詞だバカヤr……へ、へ、へックシュ!!」
半裸になったヒロ様を触手で拘束しながら、彼に突っ込まれつつ、可愛いクシャミと同時に修行終了。
それが毎度のように続き、さすがにマンネリ化が目立ってきました。
それでも、ヒロ様の耐久時間――つまりわたくしの攻撃に耐えられる時間がほんの少しずつ長くなってきたのは、成果が出ていると考えていいのでしょうか。
わたくしが力をセーブしているおかげか、それともヒロ様が強くなっているのか。
両方であれば良いのですが。
最大の問題は、わたくしが抱えている欲求不満が、いつまでたっても解消されないことでした。
元の世界に戻るなり、ぜいぜいと荒い呼吸を繰り返しぐったりしてしまうヒロ様。
そのほっそりした身体を眺めつつ、わたくしは考えます。
うむむむむ……これも良いのですが、何かが足りない。
何かが、圧倒的に足りない。
一体どういうことなのでしょうか。
そんなある日のこと。
いつも通り、わたくしとヒロ様は仮想世界に入り、衣装の準備を整えておりました。
「ヒロ様、胸元のリボンが曲がっていますわ。ちゃんと結び直してくださいまし」
本日のヒロ様は、何とも可憐なメイド姿。
たくさんのフリルに彩られた純白のエプロンに、深緑を基調にしたロングのワンピース。ちらりとスカートをめくると、しっかり黒ストッキングも装着されていました。
膨らんだ両袖に、細い腰をきゅっと締める大きなリボン、エプロンの色に合わせたヘッドドレスもポイントですね。
「って……
どうせ後で滅茶滅茶にするだろ。お前が」
最早完全に諦め顔で、わたくしに胸元を直されるがままのヒロ様。
ちなみにわたくしの方は、空色を基調にしたフレアビキニです。胸やお尻を覆うフリルが可愛らしいですが、お臍や腰のラインなど、出るところはしっかり出ているタイプの水着。
ヒロ様の妄想も、最初のスク水からほんの少しずつ進化してきたようです。正直、たまには水着じゃないものを着たいのですが。
「何をおっしゃいます。
きちんと整えられた清潔な服だからこそ、後の乱れ具合がそそるというものですわ。
この麗しく清らかな状態を、曇りなき眼にしっかり焼きつけ!
その衣装が激しく乱され汚され引き裂かれたその瞬間、脳裏でビフォーアフターを比較する!
きちんと身体を覆っていたあの清楚な純白が、無惨にも切り裂かれ引きちぎられ、ドロドロのボロボロにされて素肌までがチラリと……!
という恍惚感こそ、至上の喜びではありませんか」
「正直すぎてため息もでねぇ」
頬を膨らませてぷいっと横を向くヒロ様。大分女装には慣れてきたものの、やっぱりその頬は若干赤く染まっております。
この表情だけでわたくし、色々滾ってまいりましたが――
それから十数分後。
雄大な森と清らかなせせらぎの中――
メイド姿のヒロ様はすっかりボロボロになって、わたくしの眼前に宙づりにされておりました。
全身にわたくしの細かな触手が這い回り、スカートは半分以上が引きちぎれてほぼミニスカに近い状態。黒ストッキングも至るところに楕円の大穴が無数に開いて伝線しまくり、目の粗すぎる網のようになっております。
膨らんでいた両袖も、何度も攻撃を喰らった結果殆どノースリーブ。
直したはずのリボンは完全にほどけ、端のあたりからボロボロになって垂れ下がり。
純白と深緑のコントラストが美しかったメイド服も、今や全身ずぶ濡れの泥まみれ。
そのような姿で、亀甲縛りで拘束され宙づりにされ、胸元に触手を入れられ喘がされるがままの美少年……
この光景、普段ならば間違いなく滾っているはずのわたくしですが。
どうにも気分は盛り上がらないままです。
マンネリ? いいえ、何とかそれを防ぐ為にわたくしは毎回毎回趣向を凝らし、ヒロ様の衣装を形づくっているのです!!
殊に今回のメイド服はヒロ様の髪と瞳の色にマッチするよう素晴らしい深緑をベースにして、フリルやリボンも可愛らしいものを妄想したはず、ですのに。
「はぁ~……
何だかやっぱり、何かがとてつもなく足りないですわぁ~……?」
「う、う、ルウ~~!!
早く離せよ、バカぁあっ!!」
首を傾げるわたくしに、力なくもがくヒロ様。
簡単にほどけるはずのない触手にがんじがらめにされ、無駄にあがこうとしてさらに身体に触手が食い込んでいく。苦痛と羞恥で紅潮する頬も良い。
そんな様子もまた、触手族の大事な養分であり――
――ん?
「……!!
それです! それですわ、ヒロ様!!!」
「へ?
……って、わ、わああぁああっ!!?」
あまりに突然の閃きに、わたくしは思わず、触手を全部緩めてしまいました。
結果、ヒロ様は真下の泥沼に頭からまっさかさま。
ざんぶと飛沫を上げて落ちてしまった彼を、慌てて触手で救い出します。
「あ、あぁ、ごめんなさいヒロ様!
決してわざとでは……」
「お、お、お前なぁっ! ……げほ、ごほっ」
分かりました。分かってしまいました。
わたくしの、物足りなさの原因が。
同時に、これまでのヒロ様に決定的に足りなかったものが。
沼のド真ん中でガボガボ溺れかかった彼をそっと抱き上げながら、わたくしは尋ねます。
「ヒロ様。
何故、抵抗なさらないのです?」
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