第18話
俺も久々に見てみたいのでついていくことに。
「どうだ。凄いだろう?」
と自信満々に見せたのは大量のプラモデルとジオラマ写真が綺麗に展示されている部屋。
「だからこの部屋が危険って言っていたんですね。凄いです……」
プラモデルの大半がロボットアニメの物であり、女子である雨宮には刺さらないと思っていたが、あまりの完成度に見とれていた。
「何となく分かるとは思うが、ここに展示されているプラモデル達を使用して撮影したのが天井や上側の壁に貼ってある写真だ。一応アニメの名シーンを完全再現したものだが、流石に分からないよな?」
「そこまでは分かりません。ただ、凄く完成度が高いのだけは分かります」
ロボットアニメを殆ど見ていない雨宮でも分かるくらいに完成度の高いこの写真は、実際に横で見比べても違和感がないレベルで完璧だ。
「はははは!そうだろうそうだろう!」
そんな自慢の写真を褒められて嬉しそうな凪咲さんは高らかに笑っていた。
「相変わらず凄い部屋ですね」
「なみこくんから貰った報酬を全て突っ込んでいるからな。なみこくんが連載を続ける限りどんどん進化していくぞ」
「部屋のリフォームだけはやめてくださいね。大家さんに怒られるので」
「まさか!流石にそんなことはしないよ」
現時点でもこの部屋はプラモデルでパンパンなのにリフォームなしでどうやって進化させるのだろうか。
「この部屋の凄さは分かったんですけど、流石にこの部屋で話をするのは難しいので一旦戻りませんか?」
「それもそうだな」
部屋を出た俺たちは幸村が背景を描いている作業部屋へと戻り、各々席に座った。
「とまあ、私がなみこくんのアシスタントをしているのはプラモデルの為だ」
「会長って」
「凪咲ちゃんだ」
「凪咲先輩」
「凪咲ちゃんだ」
「凪咲さん」
「凪咲ちゃんだ」
「あ、えっと……」
是が非でも自分の事を凪咲ちゃんと呼ばせたい凪咲さんに対し、雨宮は後輩という立場上どうすれば正解なのか困っている様子。
「雨宮。諦めろ」
「え?」
「仕方ないよ。諦めて呼んであげて」
「なみこ先生、幸村先輩!?!?」
まさか俺達が凪咲さん側に回るとは思っていなかったらしく、雨宮は嘘でしょ!?とでも言いたげな目をしてこちらを見てきた。
「ほら、凪咲ちゃんと言えばいいだけだ。簡単な事だろう?」
「私、後で新海家から殺されたりしませんよね?」
「そんな事は無いから安心して。流石に殺されはしないから、多分」
「多分!?!?」
「ほら、凪咲ちゃんだよ」
凪咲さんはあと一押しだと言わんばかりに立ち上がり、雨宮の横に立って両手を取って握りしめた。
「凪咲、ちゃん」
もう逃げられないと悟ったらしく、ついに凪咲ちゃんと呼ぶ事にしたらしい。
「うん!そうだ!これからもよろしくな!」
最初は慣れないよな。でもじきに慣れるから安心してくれ、雨宮。
「は、はい。そういえばお二人も日頃からそう呼んでいるんですか?」
あ。
「あ、うん」
「一応な」
俺は慌てて表情を見られないようにそっぽを向く。そして幸村と目が合った。どうやら同じことを考えているらしい。
「本当ですか??」
それを不審に思った雨宮は身を乗り出し、俺達の顔を覗き込んできた。
「二人は言えば凪咲ちゃんと呼んでくれるのだが、最近はそもそも私の事を一人称で呼んでくれないのだよ」
「なみこ先生?幸村先輩?」
「「あっ」」
沈黙でこの場を乗り切ろうとしたが、凪咲さんが全てを暴露してしまった。
凪咲さんの事だからそんな小さなことに気付いていないと思っていたが、きっちりバレていたようだ。
「今日から雨宮さんも来たことだし、2人ともよろしく頼むよ?」
「「はい……」」
凪咲ちゃんの笑顔の圧には敵わず、従わざるを得なかった。
「凪咲さ……ちゃん。本題に戻りましょう」
「そうだったそうだった。雨宮さんは多分私の家が金持ちなのに何故プラモデルの為に働いているのかを聞きたいのだろう?」
「はい。凪咲ちゃんの家位お金を持っていたらお小遣いだけでいくらでも買えませんか?」
「真っ当な質問だな。確かに私は小遣いだけでプラモデルはいくらでも買える。ただ、私にはプラモデルを組み立て、飾るための部屋が無いのだ」
「なるほど。でも、なみこ先生みたいに家を借りれば良いんじゃないですか?」
「そうしたいのは山々だが、その場合家族に私がプラモデルを作っていることがバレてしまう。一応私の家は厳格な家庭でな。女性らしくあるようにと厳しく教え込まれている。だからプラモデルのような男の趣味は固く禁じられているのだよ」
「だからなみこ先生の仕事部屋の一室を借りてまでプラモデルを作っているわけですね」
「ああ。その対価として私は労働力を提供している」
「なるほど」
雨宮は納得してくれたようで、うんうんと頷いている。
しかし途中で頷きは止まり、何かを考えこんだ後、
「ちょっと待ってください。じゃあどうしてその口調なんですか?」
と聞いてきた。
「それは……」
「聞いてくれるか!そうか!」
幸村が慌てて止めようとしたが遅かった。雨宮。その質問はパンドラの箱なんだ。
「はい、気になったので」
俺たちの正体を見抜いたエスパーっぷりは影も形も無く、面倒な方向へ真っすぐに進んでいく。
「では再び私の部屋に来てくれ!説明してやろう!」
凪咲ちゃんは雨宮さんを連れ去り、部屋へと入っていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます