第2部

外界との出会い

第63話 スタンピードの後始末です(上)。

お待たせしました。

第2部スタートです!


   ◇◆◇◆◇◆◇


 ――スタンピードの翌日。


 昨晩は大盛りあがりの宴会だったが、後始末のため朝早くから村人は広場に集合している。

 アレクセイが来てから豊かになったにもかかわらず、誰も甘えたりせず、村人の勤勉さは失われていない。



 広場に集合した村人に向かって、アレクセイが告げる。


「じゃあ、始めよう。気になることがあったら、なんでも尋ねてね」


 また危機が起きても大丈夫なように戦略物資の確保。

 戦闘によって破壊された道の整備と罠の再設置。

 やることは山積みだ。



 村人はアレクセイの合図で散らばっていく。彼らはいくつかのグループに分かれて作業する。

 村長アントンや助祭キリエなど、指導的な立場の者がグループを率いる。スージーもその一人だった。


「僕たちも始めようか」


 いつもスージーがいる場所には、ポーラがいた。

 スージーが右腕なら、ポーラは左腕。

 将来的にはそうなるように育てていくつもりだ。

 彼女には、自分の知識すべてを伝授する気でいる。

 今日はその第一歩――。



   ◇◆◇◆◇◆◇


【魔石回収】


 大人たちが仕事に向かった後、村の前には子どもたちが集まっていた。


「キリエ、子どもたちの面倒よろしくね」

「はいっ! 任せてくださいっ!」


 十数人の子どもたちを引率するのはキリエだ。

 彼女はもともと子どもたちに好かれていたが、最近子どもたちに文字を教え始め、より慕われるようになった。

 親の言うことを素直に聞かない悪ガキでも、キリエの前では借りてきた猫のようにおとなしくなる。


 後始末は村人総動員だ。

 もちろん、子どもにも役目を振ってある。


「じゃあ、行きますよ。ちゃんと分担して仲良くやるんですよ」

「「「「「はーーーい!!」」」」」


 子どもたちの仕事は魔石の回収だ。

 村を出た子どもたちは散り散りになり、あちらこちらに散らばってる魔石を拾い集める。


 モンスターは獣と違って死体を残さない。

 死ぬと同時に魔石をドロップして消え去るのだ。


 昨日のスタンピードでは数百体、あるいは千体以上のモンスターを倒した。

 ダンジョンからここまで大量の魔石が落ちている。

 とくにキングオーガとの最終決戦を行った村の前は、まるで魔石の雨が降ったかの有様だ。


 魔石拾いは子どもたちにとって、ちょっと変わった遊びみたいなものだ。みな、楽しんでいる。

 その光景に見入っているポーラへ、アレクセイが声をかける。


「やる気を出させるには、競争させるのが一番なんだよ。大人から見たら雑用でも、子どもたちにとってはゲームになる」

「キリエさんは文字の勉強も遊びに変えてしまいます」

「ああ、僕がアドバイスしたんだ。そして、やる気を出させる秘訣はもうひとつある」

「それは?」


 アレクセイはポーラの問いには答えず、子どもたちに向かって声を上げる。


「おーい、みんな。頑張った子はナニーのおやつ大盛りだ」


 子どもたちから歓声が上がり、よりいっそうやる気を出したようだ。


「褒美ですか……」

「ああ。頑張ったらその分、得がある。自分の仕事を評価されると分かれば、人はやる気を出す」


 ポーラは感心の眼差しでアレクセイを見つめる。

 それと同時に不安にもなる。


 御領主様は、いったい、どれだけのことを知っているのか。

 果たして、自分が追いつけるのだろうか。


 悩ましげな彼女の頭を、アレクセイがポンポンと叩く。


「焦る必要はないよ。ポーラはまだ七歳だ。僕がその歳の頃は、君ほど賢くなかったよ」


 温かい手と温かい言葉。

 ポーラから不思議と不安が消える。


「ありがとうございます」


 自然と笑うことができた。


「じゃあ、行こうか」

「はい」


 子どもたちの一生懸命な姿を見届けてから、二人は次の場所に向かった――。


   ◇◆◇◆◇◆◇


【街道整備】


 二人は並んで、ダンジョンに向かう道を歩いて行く。

 所々で土がえぐれたり、木がへし折れたり――昨日の戦闘の激しさを物語っていた。


 その中でも最大の被害は中間地点――オーガをおびき寄せ、落とし穴にハメた場所だ。

 村人の半数以上がこの場所の整地に駆り出されている。


 オーガの死体は消えているが、直径数メートルの深い穴は昨日のままだ。

 底には鋭く尖った魔硬竹の槍が剣山のように埋められている。


「マッスルマッスル~」


 穴底から大声が聞こえてくる。

 【怪力】ジロだとすぐに分かる。

 彼は雑草でも引き抜く気軽さで、深く埋まった竹槍をポンポンと抜いていく。


「うん、ジロに任せておけば、今日中に終わりそうだね」


 もし、異世界からやって来た初代が見たら、「まるで人間重機だな」と漏らしそうな働きぶりだ。

 ジロの【怪力】は村人の間でも好評で、なかでも子どもたちに大人気。

 村を歩くと「まっするまっする」と真似する声が聞こえるほどだ。


 ここを整地する目的は、元に戻すことだけではない。

 この中間地点はダンジョンから徒歩で五分もかからない。

 今後のダンジョン攻略を視野に入れて、この場所に拠点を設置する予定だ。


「そのためには、もう少し広げないとだな」


 現在は直径10メートル。

 それだと手狭だ。


「実際にどうするかは、彼らが来てからだな……」


 つぶやくアレクセイの横顔をじっと見つめ、ポーラが話しかける。


「みんな楽しそうです」

「ああ、ジロが盛り上げてくれるからね」


 ポーラはそれだけだとは思わなかった。

 村のみんなが変わったのは、領主様がやって来てからだ。

 領主様のおかげで、みんなが笑うようになった。

 重苦しい空気はなくなり、明日を心待ちにする。

 明るい未来を描けるようになったのだ。

 そして、なによりも自分を生まれ変わらせてくれた。



 ――だけど、領主様は決して自分の手柄にしない。みんなが頑張ってくれるからだよ、と村人の功績にしてしまう。


 だから、みんな彼を信じ、ついていくのだ。

 領主様には感謝してもしきれない――。






   ◇◆◇◆◇◆◇



更新は毎週金曜日20:39を予定しています。


次回――『スタンピードの後始末です(中)。』

11月18日更新です。


   ◇◆◇◆◇◆◇


この度、『ガチムチコミュ障門番』が「第3階HJ小説大賞前期小説家になろう部門」で受賞いたしました。

 それにともない、書籍化決定です!


https://kakuyomu.jp/works/16816927863361233254


 これで書籍化2作品、コミカライズ1作品となりました。

 ご支援いただきました皆様、ありがとうございましたm(_ _)m


 本作品も書籍化・コミカライズ目指して頑張ります!


 書籍化に関して情報公開できるようになりましたら、活動報告(小説家になろう)、近況ノート(カクヨム)、twitterでお伝えします。

 ぜひ、フォローお願いしますm(_ _)m


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