PAGE14 閉店?

 「…とりあえずそこから降りてこっちに来なさい!」

「やだね。」

時刻は深夜12時。場所は都内のとある12階建てマンションの屋上。俺、霧崎と拓斗はとある少女の救出を頼まれていた。…救出というか一時鎮静化か。彼女は、今までに事あるごとに自殺を図ってきた。しかしどれも失敗し、今に至る。

「まだ17歳…人生これからじゃないか!」

「今が辛くたって長い目で見たら…大した事ないぞ!」

「今後のことなんて知らないよ…そんなの分かんないもん…!」

「っ…親も悲しむぞ!」

「第一、こんなとこで君が死んだって世の中は変わらないし君が死んだとこで注目されない!それなら…そんな無駄な事で命を落とすくらいなら生きて人生有効活用しようよ!」

すると彼女はその場で頭を抱えて、ゆっくりこっちを向いた。そして彼女は振り絞るように声を出した。



「知らない…そんなの知らないよ。世間がどうとか親がどうとか…。私の命も私の人生も全部私のだ…!他人のこととか知ったこっちゃないんだよ!私が生きていて辛いから人生辞めるだけ…それだけなの!ほっといて楽にさせてよ!」



~そういうと彼女は頭から地上に降っていった。…彼女が来ていた白いワンピースのせいだろうか、皮肉にもその姿は星空から降り注ぐ流星群に見えたそうだ。~





「…。」

「店長、ここに温かいココア置いておくから…あまり思いつめないでね…。」

「…。」

「霧崎と拓斗さんのせいじゃないからな…。」

「おいおい成功作よ。そんな顔ずっとしてっと俺にばっかパワーが供給されんぞ。」

…事の発端は一週間前。現代世界のニュースで若者の自殺が増えているという特集番組を見たことだ。痛ましい現状を見た俺らはなんとかしてこの現状を変えられないかと、自殺志願者を止めるプロジェクトを開始した。深夜9時から、ティアラのシステムで都内一定区域、10階以上あるビルの監視カメラを経由し、人の出入り、動向を確認する。そして雰囲気がある若者が入っていったら追っかけて止める…。しかし、全員失敗している。救出者0人だ。

「…とりあえず店長と拓斗さんは一回自室に戻って休んできたら?」

と宮下が気を使ってか、提案してきたので大人しく寝ることにした。





「まいったな、店長があんな調子じゃ私たちも調子が狂うわ。」

ポリポリと頭を掻いて悩んでいると横からティアラが書類の束を差し出してきた。

「なにこれ…。」

「今までマスターが救出に失敗した方々の亡くなられる直前に話した内容を全て打ち出したものです。何らかの役に立つ可能性があると判断しデータにして抽出しておきました。」

「どれどれ…。ふむふむ…。」

その書類にはびっしり、それこそ一字一句聞き逃してないのではと思うくらいのセリフが打ち出されていた。とはいえあくまでもただの過去データ。何かに使えるだろうか?いつの間にか背後からのぞき込んできていた飯島が口をはさむ。

「…同じ道を辿る者というのは…何らかの共通点があるはずなんだよな。それさえ分かってしまえば今後は救助できる可能性が上がる…。精神面、生活面…。あ、あと彼らの両親の状況や学校等の普段の生活…全面的に調べ上げてみるか。ティアラ、調査手伝ってくれるか?」

かしこまりましたっとティアラが敬礼をした時、店長の部屋のドアがゆっくり開いた。


「…万事屋霧崎店を…一時閉店とする。」





深夜1時、成修山。眠れずに俺はGC8で山下りコースを走っていた。連日、自殺希望者救出プロジェクトに頭を抱えていた俺は自分でも分かるくらいやつれていた。いつも通り、S字カーブを潜り抜け、国道に出ようとしたその時、一瞬視界に違和感を感じた。よく見ると道沿いにポツンと建つ6階建てオフィスビル。その上に人影が見える。俺は無意識にブレーキを踏んでいた。





あと一歩。一歩踏み出せば…あいつのところへ行ける。茜…ごめんね。今からそっちに行くから、謝らせて。そう願いながら目をつむる。そして踏み出した瞬間、私は身体になんかの衝撃を受けた。つむっているはずなのに目が回る感覚がある。

「った~…。」

目を開けると私は屋上に寝そべっていて。少し離れたところに、1人の男性が横たわっていた。その人はすっと立ち上がり、こっちに向かってくる。

「とりあえず落ち着いて、馬鹿なことはよしてくださいよ。」

そう話しかけてくる彼の眼にはどこか、もやもやとした感情が浮かんでいるように見えた。

「…ほっといてくださいよ。あなたには関係ない。」

「少なくとも、もう目の前で人が命を投げ出すのは見たくないんです。」

「なら一緒に飛び降りる?」

半分、脅しのつもりだった。それはヤダ、と言ってひるんだすきに飛び降りるつもりだった。なのに彼は首を横にも振らない。

「…死ぬの嫌じゃないの?」

「あっ…あぁ…いや、ちょうど良いかなって…。」

…下手すれば私より彼の方が重症かもしれない。





少し一緒に話しましょう?と彼女は微笑み、近寄ってきた。そのまま縁に座ったので俺も隣に腰かける。

「…んで、貴方は何をそんなに思い悩んでいるの?」

思わずギクッとする。極力表情には出ないようにしていたはずだったが…。実は、と絞り出すように話す。意識もしていないのに口から勝手にため込んでいた想いが溢れる。まるで誰か別の人に乗っ取られているようだった。気づけば俺は泣いていた。すると、彼女は俺の肩に手を置き、言った。


「まあ、偽善者には自殺志願者の人助けなんて無理だと思うわ。」





偽善者、という言葉が彼の心を刺してしまったのだろうか。睨みつけてくる彼。でも事実だろうから仕方ない。

「…俺は偽善者なんかじゃない…。」

「いいえ、偽善者よ。貴方たちは私たちの心境なんてわかってないもの。そんなんで呼びかけたって、そんな言葉響かないし彼らに対するブレーキになんてなりはしない。」

「…。」

「親や知り合いが悲しむ、て言うらしいわね?…私らみたいなのはね、家族にも見放され、知り合いには白い目で見られ、はたまた友人にも裏切られ…そういう人間なの。周りにも悲しむ人間なんていない、てね。」

「でも生きてりゃいいことくらい先々に…。」

首を振る。

「みんなにちゃんと良いこと起こるように神様が割り振ってりゃね。みんな幸せ、お花畑ハッピー世界になっているわ。貧富の差とか戦争とか喧嘩とか起こらない。それを分かり切っているから、もうこの先、生きててもしょうがないのだろうと分かっているから逝っちゃうの。」

「…そんな…それじゃあ救いようがないじゃないか。」

「そうね…。でもそれが現実。救えぬものは見捨てられ、影に投げ落とされるのがこの世なの。」

肩を落とす彼に微笑む。

「でも、そういう方々を犠牲に、幸せ、富を得ている人々がいるというのも現実よ。結局私たち人間は、富に自分が割り振られることを祈るしかできないの。」

「俺らにできることは…無いのか。」

「まあ、完全に防ぐことはできなくても最期に想いや恨み辛みを聞いてあげることはできるんじゃないかしら?」

それを聞いた彼は空を見上げた。現実は非情なりってか、と呟きながら彼は立ち上がる。

「ありがとう。良い勉強になったよ。」

「それなら良かったわ。」

「…君はどうするの?」

気持ちが表情に現れないように踏ん張りながら話す。

「気持ちは…変わらないわ。でも…。」

「?」

「最期に…貴方に私の想いを託して良いかしら?」



その日、2人の若き女性がこの世から姿を消した。

そして、入れ替わるように翌日からとある相談窓口が成修市にできたらしい。



~PAGE14 fin~

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万事屋霧崎の不思議な事件簿 万事屋 霧崎静火 @yorozuyakirisaki

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