PAGE11 ~復讐~

 冬にしては気温が12℃いったある日、万事屋霧崎店は栄えていた。


「アズーラの姉ちゃんよ。出来上がった剣、どうですかい?」

「しっかり研ぎ澄まされていて…無駄な負荷をかけることなく斬れる。拓斗さん。どうやったらこんなに剣を磨げるのです?」


「AIティアラ!今日こそはあなたに勝つんだから…魔法少女のプライドにかけて!いざ!」

「ナミカさん…貴方も懲りないお方で…まあ良いでしょう。戦闘モード全開、パワーチャージ完了、いざ、参ります。」


「ソンメイお兄さん今日は何を見に来たの~?」

「やあ優希君、お出迎え偉いねえ。頭を撫でられないのが残念だ。…今日はちょっと弾薬の買い足しにお邪魔したのさ。あと私はもうお兄さんなんて年じゃないんだよね…。」


「「「霧崎店長、お邪魔しまーす!」」」

「あれ、小見原さんに河南さんに君塚さん…。どうしたんです?」

「私たちがぁ、二人で小見原さんの恋愛を支えるというか…。」

「女性として、アドバイスをすることにしてんです!で今日は彼に似合うネクタイとベルトを探しに…。」


「恵那川さん、どうですか?私のアレ。」

「宮下さん…大丈夫、直りそうだから安心して大丈夫だよ。」



__こんな平和がずっと続く…はずだった。…いや、時空の狭間といういつ崩壊が起きてもおかしくないこの空間でそんな思い込みをしていた俺らが愚かだった。__



「ねえ…あれ、だれ?」

ふとナミカが戦う手を止める。発射停止が間に合わなかったティアラの弾幕がナミカに命中し、ナミカは落下する。ナミカが見ていた方向からは、なにか禍々しいオーラをまとった物(者)が来ていた。




「店長。お客様?です。」

ティアラに言われ、玄関を見る。そこには、

「久しぶりだな。{死にぞこないの俺。}」

「…裏人格。」

悪意しか見えない薄ら笑いを浮かべていたのは、昔の…いや、没にされ、不要と存在を消されたはずの俺だった。奴の後ろには同様に存在を削除された、俺の知り合いがずらりと並んでいる。みんな禍々しいオーラを放っていた。

「なにをしに来た。」

「何って…お前を我々同様葬りに来たのさ。」

「そんなの俺らを、俺らの物語を作った者しかできないだろう。」

すると彼はフフッと笑った。

「それはどうかな?ここでお前が死んだという設定にすれば話は別だ。」

「…要求はなんだ。」

「決まっているじゃないか。お前の死だ。」

「…それはできないな。」

「そうか…。」

それなら、と彼は後ろを向き_

「しまった…!」

「お前が考えを変え、俺に店主、主人公の座を譲らない限り宮下は返さないと思え。」

裏人格は、宮下を盾に下がり、乗ってきた空中戦艦で空にできた時空の裂け目へ消えていった。それを追うように他の没キャラたちも消えていく。




 裏人格とは。俺、霧崎が霧崎(偽)を作成したとき、初期に俺に付帯していた人格だ。だから俺も霧崎静火(表人格)となっていた。俺ら二人で霧崎静火1人の人物というわけだ。しかし、彼、裏人格は俺の感情でも怒り、悲しみ、憎しみの感情しか持ち合わせていなかった。

異変はすぐに起きた。裏人格は、毎日怒りの掃き出ししかしていなかったため、ストレスで痩せこけ、とても人格として成り立たなくなった。それを見かねて、霧崎(偽)は…。


「なるほど…。つまり彼には喜びの感情などがないんですね?」

とアズーラ。拓斗が続ける。

「んで後ろにいた奴らも同時期に消された奴らなのか?」

「多少は前後あるだろうがね…。」

「宮下さんを見捨てるという判断が、懸命かつ助かる見込みがあると私は解析します。」

「…ティアラ、それは人情を混ぜたうえで言うなら人でなし、無慈悲、ってもんだ。…宮下は取り返す。」

すると小見原が言う。

「河南さんたちがなんていうかは分からないけど…霧崎さんには助けられた身だから、もし宮下助手を助けに行くなら僕も手伝うよ。」

「いや、お客様を危険な身に合わせるには…。」

「こう見えてモデルガンのサバイバルゲームとかやってるからね。ある程度は役に立つと思うよ。」

すると河南がはあ、とため息を付き、君塚が立ち上がる。

「いいわ、私も居合わせちゃった以上、手伝うわ。」

「ここで逃げるほど私も弱くありません。」

恵那川が続ける。

「店長に恩返し、か。せっかくだから僕も力になるよ。」

「師匠まで…。」

ねっ、と肩を組まれたソンメイはおもむろに通信機を取り、軍部に連絡を取り始めた。

「まいったねえ…。万事屋霧崎店には志願兵がこんなに常駐していたのか…。」

本棚奥に向かい、ある本を取る。

「久しぶりにこの、旧作データの本を取ったな…作戦会議だ。」


~一時間後~

「…ないな。」

「一番大事な裏人格についての情報が書かれていない。」

「いえ、本棚の基礎内容データを全て確認しましたが、その中にも関連情報は一切ありません。」

拓斗ががっくりと肩を落とし、ティアラが捜査を終えてPC内から戻ってくる。そこでソンメイが声をかけた。

「とりあえず、現段階、分かる範囲で向こうの陣営の人物情報をまとめてみましょう。」


没作陣営主体(と思われる人物)


1 霧崎静火(女体化)(後の女静火)

 :能力不明

 :装備不明

 :霧崎の姿をそのまま女体化した人物。しかし、使い道が無いのと振り分けがめんどくさいという理由で没にされた。


2 宮下紗南(初期作没案)

 :相手の能力を奪い、自分または他人にシェアすることが可。

 :怪命刀(短刀)

 :初期作に登場した宮下。血濡れた短刀を握る姿が印象的。この当時、宮下は明るい茶髪のロングヘアだった。


3 宮下紗南(二次段階案)

 :???(不明)

 :初期作案と見た目は変わらないが、この段階の宮下から車を所持していたとされる。


4 宮下紗南(解読不可)(三次段階の可能性あり)

 :???(不明)

 :本棚からこの宮下の案のページだけ切り取られた状態で出て来た。埃まみれ、墨塗りだらけで解読不能。黒髪ショートボブで、右手にはコンパスらしきもの、左手には、短機関銃に箱をくっつけたような物を持っている。


5 沖島康平(二次作没案)

 :コンピュータに秀でており、電子機器を手足のように操る。

 :二次案にて霧崎の右腕担当で出て来た。しかし、飯島大聖やティアラの登場により存在自体が霞み、いつしか消されてしまった人物。


6 ケイラーク・ナイキャス・メイラー

 :???(不明)

 :長い耳、アズーラによく似た容姿から考察するに、エルフの種族。左手には、柄に赤い宝石がはまった剣を握っている。





「ここまでは分かるんだねえ…。」

状況が飲めていないのか、わくわくした様子で言う優希。その横でうつむきながら何かを考えていたアズーラが言った。

「霧崎さん、貴方の大元に会ってみてはいかがでしょう?」

「…その手があったか。」





 暖房が壊れた六畳半では夜が寒すぎる12月。俺、霧崎(偽名)は、部屋の隅にあるPCで小説を描いていた。最近万事屋霧崎店シリーズはさぼっ…休みをとり、新作に手を付けている。もちろん本職の中古車販売業も健全だ。

 小説に夢中になり、気が付けば時刻は夜10時になっていた。

「うっわもうこんな時間か…。」

進展を更新してブラウザを閉じる。ふと物音がした気がしたので、付けていたヘッドホンの音量を下げる。さっきまで作業用BGMは流していたが…。いや、違う。これは外からの音だ。

「はいはい…。」

ヘッドホンを外すとその物音は鮮明に聞こえた。誰かが部屋のドアをノックしていたようだ。慌てて鍵を開けてドアを開ける。そこには見慣れた奴がいた。

「…霧崎?」

「話がある。」




「…つまり、俺が過去に存在を抹消したはずの連中が暴れていて、倒しに行くために情報が欲しいっていうわけか。」

「ああ、特に裏人格についての情報が皆無でな。」

そういうことならば、と言い、彼は部屋の隅にある本棚の前に行き、本の中をまさぐる。そして彼が取り出したのは一冊の黄ばんだノートだった。

「それは…?」

すると彼はページをパラパラとめくりながら言う。

「俺が昔小説を描く時に必ずどこに行くにも持っていたノート。思いついたキャラ設定や兵器、回路、世界線の設定なんかを箇条書きしたりして、後で本チャン描く時に見ながら描いていた奴だ。」

「つまりその中には裏人格の情報はもちろん、その他のキャラ達の情報もあるってわけか。」

「現役のお前らの情報は無いがな…。あれ、おかしいな…。」

「どうした?」

すると彼は怪訝な顔をしながらノートを見せてくる。

「裏人格とその他何人かの情報が書かれていたであろうページが切られているんだよ。」

「なん…だと…?」

ふと、窓に目をやる。違和感に気づいたのか、もう一人の俺が口を開く。

「持っていかれたか?!」

窓辺にはなぎ倒されたプラモデルと、紙切れ、なんかの表紙でちぎられたのであろうカーテンが風で揺れていた。慌てて窓の外を見ると、ちょうどシルバーのスポーツカーらしき車がマンション併設の駐車場からエンジンをかけて急発進していった。

「あんな車普段あの駐車場に無いし、あの車とナンバーは見覚えがある。追うぞ。」

ともう一人の俺が声をかけてくる。

「追うって…どうやって⁈」

「安心しろ。自分の店の在庫から買い取ったとっておきの車がある。」




我々を小説という世界線でベースから創った人物だからと、少し警戒しながら部屋へ侵入したが、さほど警戒しなくても良かった。現に私が運転しているユーノスコスモの助手席にはボスと私の個人情報が書かれている紙がある。右手でハンドルを操作しながら携帯でボスに連絡を取る。2コールピッタリで繋がった。

「私よ。イージーすぎたわ。」

『なら良かった。まあ、イージーとは言え、超えてはならぬ時空間を超えている。戻れるうちにさっさと戻って来い。』

「はいは…ん?」

『どうした。』

不意にバックミラーに眩い光が写る。後続車の物だった。

『なんかあったか?』

「一回切るね。……ちっ…。」




「なんだこの車⁈」

「スバルのインプレッサ…アネシスって前輪駆動のセダンさ。40万で買い取った。」

「この性能で40万⁈」

もう一人の俺は車を持っていた。それも性能がそこそこ良い奴。

「てかお前あの車見覚えあるのか?」

「あるとも。あれは恐らく二次段階で考案したけど途中で完成前に没にした宮下紗南が乗る車…マツダ ユーノスコスモだ。」

「昔の宮下は良いなあ。車持ってるなんてな。今の宮下が聞いたらキレるぜ。」

「……。」

「どうした?」

「何でもない。追い込むぞ、捕まってな!」

次の瞬間、俺らの乗るアネシスは歩道に乗り上げ、コスモの左に並走する。

「おま、道交法違反…。」

「あの情報がそのまま回収されて向こうでナニかされるよかましだ!」

そしてコスモに車体を激突させる。側面がこすれた反動でサイドミラーが吹っ飛んでいった。

「宮下ァ!止まれ!」

すると、コスモのサイドウィンドウがゆっくり開く。

「あいにくね。止まれって言われて止まる奴なんていないのよ。」

「えと…んじゃあ止まるな!」

「いやそうはならんやろ。」

ド正論なツッコミをされて戸惑うもう一人の俺。

「と…止まるんじゃねえz」

「そういうことちゃうわ!」

「ああ、じゃあ良いよ、こっちにも考えがある。」

そう言い、彼は懐から出したのは…。

「け、拳銃…?お。おまそんなんどこから…見損なったぞ!」

しかし宮下は落ち着いていた。ハッと笑い飛ばす。

「そんなんどーせBB弾のおもちゃに決まっているでしょ?」

「…良いんだな?」

「やれるもんならやってみなさいよ。」

俺はごくりと息を飲む。次の瞬間…。



______パァァァァァン______




日本の栄える住宅街に一発の火薬の音が響いた。そして…。

「⁈しまっ…!」

驚いた宮下は反動で誤ってハンドルを右に切り、対向車のトラックに向かって突っ込んでいった。




「おい、大丈夫か⁈」

「ええ…ちょっとサイドミラーがどっか行っちゃったみたいですが…別に弁償とか大丈夫ですんで。」

…おそらく、さっきの宮下含め、キャラクター全員は、俺や霧崎にしか見えていないのだろう。…さっき宮下は轢かれた瞬間、光と共に車もろとも消えてしまった。そして現場には…。

「なんだこの紙は…。」

「あ、サイドウィンドウ開けて走ってたから飛んでっちゃったみたいで。拾ってくれてありがとうございます。」





「みんな、霧崎(偽)から情報もらってきたz…おおっ⁈」

店に帰って玄関を開けるとそこには見慣れた面々がいた。部屋の真ん中にテーブルを持ってきて何やら会議を開いている。優希が俺に気づいて寄ってくる。

「お兄ちゃん、すごいよ!宮下お姉ちゃんがさらわれたから助けに行きたいってみんなに声かけたら沢山いろんな世界から人が来てくれたんだ。」

「そのようだな…原山に江原に岡部に…おいおい…。」

ざっと見ただけでも30人は人が店内に集まっている。そんな人ごみの中からアズーラとカトリーヌ女王、飯島が姿を現した。

「女王様までお出ましかい。」

「霧崎殿、貴方には借りがある。今回は我が国を持って今回の作戦に全面協力致します。」

「ずいぶん大がかりになっちゃって…。国民の意見を聞いてからの判断か?」

するとアズーラが言う。

「国民も誰一人として霧崎さんの恩を忘れている者はいません。ぜひ協力させてください。」

「やれやれ…。」

「おい店長よ。」

「お、なんだ飯島。」

すると飯島はPCの画面をこっちに見せて来た。

「奴らが消えていった歪んだ時空間にドローンを送り込んで向こう側を撮ったんだが向こうは海らしい。」

「…となると艦艇での出撃となるのか。」

「だから、拓斗が早速出来上がった戦艦たちの進水作業をやりに地下に降りて行ったぜ。」

「相変わらずあいつは仕事に取り掛かるのが早いのな…。」

本当に戦争事となると仕事が早くなるのは俺の思い過ごしだろうか。そんな事を考えていると拓斗がエレベーターで戻ってきた。

「今出撃可能な艦艇を全て進水させてきた。戦艦5隻、巡洋艦3隻、雷艦6隻。」

「ちょっと待て、雷艦ってなんだ。」

「ああ、魚雷と対空砲のみを搭載した特攻に特化した艦だ。あと、俺が独自で建造した艦艇もあるぜ。」

「どんな艦艇だよ。」

すると、拓斗は脇に抱えていた設計図を見せてくる。それはなぜか見覚えのあるような構図…。

「航空母艦の船体をちょちょいといじって35cm主砲と戦艦用艦橋を取り付けたものだ。これなら最前線でお荷物な航空母艦を持つ必要がなくなるな。」

「…よし、じゃあこれで艦艇ごとに人員配置を行うか。」

「ちょっとお待ちを!」

ソンメイが声を上げた。

「どうしましたか?」

「せっかくこう一つの軍らしく動くのですから、軍旗をデザインしてみてはいかがでしょうか?」

「…ティアラ、任せて良いか?」

「かしこまりました。」





万事屋霧崎店総戦力配置データ(超機密)

◎…戦艦 〇…巡洋艦 ×…特殊艦 △…雷艦


◎先頭艦 飯岡式弐番艦 後浜 艦長:岡部瀬名

◎2列目左艦 豪虎式壱番艦 竹虎 艦長:ソンメイ

×2列目中心艦 霜鶴式1番艦 赤羽 艦長:ティアラ

◎2列目右艦 豪虎式弐番艦 松虎 艦長:霧崎静火

〇3列目左艦 三号巡視艇 雪雨 艦長:霧崎拓斗

◎3列目中心艦 海虎型7番艦 斗和 艦長:飯島大聖

〇3列目右艦 二号巡視艇木雨 艦長:スタニカ・アズーラ

△4列目左艦 5式雷艦 波凪 艦長:江原千歳

◎4列目中心艦 海虎型6番艦 久華 艦長:ナミカ(原山奏斗)及び守護神ハリネズミ

△4列目右艦 7式雷艦 静凪 艦長:中橋玲

〇5列目 鷹牙型四番砲艦 蒼原 艦長:恵那川圧斗

~以下略~


(艦長が誰か分からない方は前までのお話をどうぞ!…全員出てきています。)




 「今回は私、ティアラは一つの艦に専念しますので皆さんの艦の主要部分管理までは手が回りません。なので乗組員皆さんの連携にかかっています。」

「よっしゃ、頑張るぞ!」

みんなで頑張ろうと各自配置に着くため動き始めた時だ。

「お兄ちゃん…僕はどうしたらいいの?」

優希が俺を上目遣いで見つめて来た。

「…優希。お前は今回ここに残ってお留守番していてくれ。」

「そんな!」

「お前は俺らには変に干渉はできない。しかし、向こうの世界でもそれが通用するかは分からないんだ。奴らの攻撃がお前に通用するかもしれない。ましてやその憑依している61式は一緒に乗せていけないんだ。」

「…。」

「ごめんな。」

「ちゃんと…無事で帰ってきてね?」

約束する、と優希に頷き皆に向き直った。


「総員、戦闘態勢。タービン起動。出撃 開始!」





「っ…。」

背中に触れる冷たい感触で目が覚める。ゆっくりあたりを見渡すと私は鉄板張りの部屋の柱に座った状態で縛られている。

「な、なにここ…?」

「あら、お目覚め?『最新式の私』。」

部屋に声が響いて、入ってきたのは…。

「あ、貴方は一体…?」

「あら、あなたのサボり魔店長からなんも聞いてないの?私は昔のあなたよ。宮下さん。」

後ろ手に縛られている腕に力を入れ能力を込める。しかし縄はちぎれなかった。

「ああ、あなたが寝ている間に能力はいただいといたから。今の私に逆らったらそれこそ骨も残らないくらい木っ端みじんになるわよ?」

そう言い、もう一人の私はボクシングの真似をした。

「…分かった。要求は何よ?」

「そうねえ。大人しく人質になっといてもらうわ。そうしたらボスの目標は達成できる。」

「はいはい…。」





時空の狭間をくぐって歪んだ時空間に着水する。その世界は空が紫がかっていて、暗く見渡す限り海で島や岸は見当たらなかった。

「一番艦、及び最後尾艦レーダー起動。周辺海域を徹底的に探索せよ。」

『その必要は無いと思いますヨ。』

岡部の一言で気が付く。短距離レーダーにすでに何隻もの艦影が表示されていた。

「総員臨戦態勢。後浜偵察員、敵艦隊の位置を全艦に伝達せよ!」

『方位75.3、距離12.8、探知済敵艦数25、以上!』

25隻。俺が知っていて想像していた数の二倍はいる。裏人格はどれだけ過去作から艦を引っ張ってきたのだろうか。しかし、その分俺を始末しようという殺気が強いということでもあるが…。

『敵艦よりミサイル発射された模様。ターゲットは赤羽艦!』

「さっそく俺が乗っている艦を狙ってきたか。」

『我々が対処いたしましょう。』

ソンメイの乗る竹虎が対空砲を起動させ迎撃態勢に入る。ほどなくミサイルは撃墜された。

「さあて、しょっぱな向こうが撃ってきたんだ。応戦するぞ!」





「ちっ…。迎撃されました。」

「ふうん…。所詮旧式の戦艦しかないだろうし、AIが全艦管理しているからセキュリティがばがばかと思っていたが…案外やるじゃんか。」

「まあでもうちらにはかなわないっしょ。」

俺の成功作、そしてあわよくば他の現存連中をも葬るためと俺の軍には大量の艦や人間が集まっていた。その数15000人ほど。もちろん作中に詳しく描写されず消滅したモブ的キャラもいる。

「まあ良い。各自撃ち続けろ。一隻残らずこの海の藻屑にしてやれ。」

「了解!」

そう言い放ち船内の一室に移動する。そこには連れてきた人質と俺らにとって正規の宮下がいた。

「こいつの能力は?」

「しっかり奪ってあげたわ。」

「よくやった。そいつはお前がきっちり見張っておけよ。」

「言われなくても。」

ゆっくりとした足取りで人質に近づき、顔を近づけるとそいつは俺を睨みつけ唾を吐いてきた。

「元気は良いようだな…。」

「こんなことしたって店長らが助けに来るわ…。無駄よ。」

「ああ、たしかに来ていたなあ。レーダーに14隻ほど。ぼろぼろの旧式艦ばっかだからいつまでもつか、ましてや俺らの艦隊に近づけるかさえ怪しいけどな!」

「こっちにはミサイルを搭載したイージス艦もいるから無理よねえ。」

そう言い宮下が笑う。すると人質は目を丸くした。

「イージス艦がいるの…?」

「ああ、最新鋭艦がこっちにいるんだ。」

すると人質は不敵な笑みを浮かべた。

「…もとより今回私の出番は無かったようね…。」

「何を言っている…?」

次の瞬間つんざく様な爆発音とともに窓から光が入ってきた。よく見ると並走していたイージス艦が炎上しながら沈んで行っている。乗組員が海に飛び込んで脱出しようとしているのまで見える。

「なっ…⁈どういうことだ⁈」

「わ、分からない…。」

「ええい、隣にいたイージス艦の乗組員救助に当艦手空き人員を回せ!」

そう無線越しに指令を出す。ふと振り返ると人質は黒い笑みで呟いた。

「まあ、お疲れさんてとこね。」

「なんですって…?」

「宮下落ち着け。」

「せっかくだから宣言してあげる。この勝負は確実にあのサボり魔店長の勝ちよ。」

そう言う人質。その後ろでまた一隻、味方艦が爆発を起こした。




「敵艦炎上、次の目標へ!」

『ワーパー能力発動、酸素魚雷転移!』

戦況をぶっちゃけて言ってしまおう。こっちが圧倒的に勝っている。まあ無理もない。向こうには入っていないであろう戦力がこっちにはいるのだ。対応なんてできるわけがない。特にアズーラ達がいた世界のワーパー兵士の能力が役に立っている。ワーパーの魔力を込めた酸素魚雷を発射。ある程度潜水したところでワーパーによって敵艦の目の前に魚雷をワープさせる。こんなん避けようがない。

「だいぶ片付いてきたな。こちら側の陣営の被害状況を報告せよ。」

「そうですね、現在被害が甚大なのは静凪が敵イージス艦の対艦ミサイル、ハープーンの回避に失敗し、現在弾薬庫及び燃料に火災が発生、消火活動が間に合っていないことかと…。」

「分かった。静凪にも消火応援を向かわせよう…。恵那川師匠、聞こえますか?」

『はいはい、こちら蒼原。どうぞ。』

「貴艦前方にて損傷中の静凪に消火応援を向かわせてほしい。」

『安心してくれ。もう対応済みだよ。君は敵との戦闘に集中しなさい。』

さすがは師匠といったところか。…そういえば敵陣営の沈没艦の乗組員はどうなった。そのまま船と一緒に沈んでしまったか…?ふと気になり双眼鏡を手に取る。さっき沈めた艦のいたところを覗くと驚きの光景が広がっていた。





過去作宮下やその他の奴らはほとんど救助に出て行ってしまった。真面目な奴らだ。…いや、一番くそ真面目なのは…。

「ボス、良い知らせと悪い知らせが…。」

「どっちからでもいい。話せ。」

するとおずおずと宮下が口を開いた。

「沈没した味方艦の乗組員の救助は9割終わりました。しかし…こちらの生存艦が当艦と護衛用戦艦一隻になってしまい…。もう敵側艦隊がすぐそこに…。」

「くそっ、絶対に近づけるな!」

しかし、言った時にはもう遅かった。いきなり鉄がぶつかる轟音が船中に響き、床が横に揺れる。慌てて外を見渡すと後方から一隻の戦艦が突っ込んできていた。挙句前からも正面衝突しようと巡洋艦が来ている。

「第6護衛艦聞こえるか!当艦正面に接近中の巡洋艦を迎撃せよ!今すぐにだ!」

『ラジャー。』

左舷に見える護衛艦の主砲が巡洋艦に向く。

『撃ち方ヨシ、うちーかたはj…』

次の瞬間だった。目を疑うような光景が起きたのは。





『兄ちゃんたちに…手を出すなあ!』

「この声…!」

『霧崎優希様⁈』

よく見ると敵護衛艦らしきものの前甲板に優希の61式が落下していた。いったいどうやって⁈




僕が我慢できずに向かうと、ちょうど敵の戦艦が兄ちゃんの味方を撃とうとしているところだった。でもそうはさせない。敵の主砲の後ろに回る。

「これでもくらえっ。」

61式の砲弾を受けた主砲は爆発を起こして砲の先っぽがひまわりみたいにぱかっと開いてしまった。

「ふふふ…この調子で暴れてやる!」





『優希君が護衛艦で暴れているネ。今がチャンスだよ、敵旗艦に乗り込むなラ。』

岡部に言われてハッとする。今がチャンスだ。

「取り舵いっぱい、機関停止、全乗組員衝撃に備えよ!甲板員は錨を下す準備!」

ほどなくして艦は敵艦にくっついた。すぐに甲板に降りて戦闘準備にかかる。船内では既にソンメイやカトリーヌが連れてきた兵士が待機していた。

「…よし、行くぞ、乗り込め略奪するぞ!」





不意に衝撃が部屋に走り大きく地面が揺れる。外がざわついている。

「…私のお迎えが来たみたいね。」

そういうともう一人の私はキッとこちらを睨み、動くなと威嚇してきた。

「別にいいじゃん。もう私たちの勝ちよ。」

「うるさい!動くとこの怪命刀で叩き斬るぞ!」

「…斬れば?」

「…っ!」

「人質を?叩き斬る?笑っちゃうわよ。人質のおかげで店長ら少し躊躇しながら攻撃してるんだし。その人質がいなくなったらあいつら容赦なく船ごとあんたら沈めるわよ?」

「…。」

「いやあ、おかしいと思っていたのよ。ドラマなんかでよくあるじゃない?人質を盾に『要求を飲まなきゃ人質を殺す!』てやつ。おかしいわよねえ。人質殺ったら犯人ソッコー捕まるのに。なあんであんなこと言うのかね。」

「黙ってなさい気が散る!」

「はいはい。」






「どいつもこいつも使えねえな…。」

「ボス、もうこの船が乗っ取られるのも時間の問題かと…。」

「第6護衛艦はどうした。」

「それが、突如現れた中戦車により兵装の被害が多く、艦橋にて火災も発生しているようで…。船体左舷が爆発、浸水を起こしているようです。」

人質をとらえている部屋に行くと、宮下と人質がにらみ合っていた。

「おしゃべりはここまでにしろ宮下。応戦してくれ。」

「こいつは誰が見張るのさ。」

「縛っていて能力も奪ってあるんだ。逃げられるわけがない。」

「でも…。」

「現実世界に資料を奪いに行った宮下も行方不明…。人手が足りないんだ。」





船内にいる敵キャラたちを蹴散らして奥へ奥へと進む。

「宮下!どこだ!」

「奴を通すな、ボスの命令だ!」

「お前ら邪魔じゃゴルァ!」

抱えていた物を取り出して構えると相手達は我先にと遮蔽物に隠れる。なのでその遮蔽物ごと吹き飛ばす。いつも大胆だと思っていた、宮下が使っていたロケットランチャー。いざこういう時に使うと確かに爽快だ。しかし反動のきつさは想像以上だ。そう考えると宮下の肉体強化能力のありがたみは大きい。なにかの物音に気付き、足を止める。すぐ真上の部屋で音がしていたのだ。そのリズムは…よくテレビや新聞なんかでネタにされている…。

「SOSモールス信号…。宮下そこか!」

天井に向けてロケットランチャーを放つ。すると天井一部が崩落し、上の部屋が見えた。そしてそこには柱に縛り上げられている我が助手が見えた。慌ててよじ登る。

「見張りとかはいないのか?」

「さっき昔の私がいたけど裏人格と出て行った。多分店長を探しに…。」

「俺が近道をしたせいで入れ違いになったってわけか。」

そう話しながら宮下の縄を解く。ちょうどその時、勢いよくドアが開き、裏人格と旧宮下が入ってきた。

「まさか床をぶち抜いて入ってくるとはお前はほんと分からんことするな…。」

「逃げるぞ宮下。」

「そう簡単に行くかな?」

「!しまった…。」

さっき自分で開けた穴を見ると下の階にはすでに敵が集まっていた。じりじりと登ってきている。後ろには裏人格と助手の能力を奪って強くなった旧宮下。これは逃げ場がない…。





「ふふふ…あらかた片付いたぞぉ…おっと…⁈」

兄ちゃんを狙っていた護衛艦でひと暴れしたところで護衛艦のどこかで爆発音がした。そして船体が左に傾きだした。

「うわああやばいやばい…。兄ちゃん助け…。」

無線越しに助けを求めようとしたところで思いとどまる。そうだ、ただでさえこの世界に無断で来て迷惑をかけているんだ。これ以上なんて…。ふと61式の車内に目をやる。そこには適当に積んでいたジェットエンジンがあった。

「これを使えば…あっちの敵のボスの戦艦まで届くかな…?」

考えながら車両後方にジェットをくっつける。

「よおし、行くよ61式!」

ジェットエンジンのロケットを点火するとゴオッという爆音が響く。そして次の瞬間61式はメーター読み120km/hというとんでもない速度で僕ごと宙に舞っていた。しかし喜んだのも束の間、目の前にはボスの戦艦の艦橋が迫っていた。





____ドゴオオオン…___





 目の前で、もう一人の私は何かに激突されて倒れた。一瞬頭がフリーズする。すぐに何かというのが戦車だと理解した。反射的に駆け寄ろうとした目の前でさらに彼女は回転する履帯に巻き込まれて行った。腕、腹、顔と巻き込まれて履帯と転輪に挟まれて引き裂かれる。彼女はもう原型を留めていなかった。

「…うっ…オエエ…。」

我慢できずその場でこみ上げるモノを吐き出してしまう。今まで見てきたモノとは格段に惨さが違った。慌てた様子で店長が駆け寄ってくる。

「…ちょっと刺激が強すぎたな…。」

「もう一人の私…私がぁ…。」





宮下が隣で吐き出してしまう。ちょっとグロすぎたか…。しかしもう一つ気がかりなことがあった。今の反動で裏人格が見えなくなった。まさか同様轢かれたか…?そう思った矢先、人影が戦車の裏の瓦礫から現れた。よく見ると1人の少女が裏人格を片手で抱えている。

「…ほら、こいつ気絶してるよ。」

「あ、ありがとう…。あんたは一体…。」

すると彼女はまあ覚えていなくても無理はないか、とため息をつき背を向けた。

「あんたの今後次第ではまた会えるよ。」

そういうと彼女は透明化して消えた。

「にいちゃん!」

不意にかけられた声で我に返る。戦車から見覚えのある男が這い出て来た。

「優希!…やっぱりお前か。」

優希が俺の胸に抱き着いてきた。…抱き着いてきた⁈

「あ、あれ抱きしめられる⁈」

「なんかね、ここだけ僕もみんなに触ったり攻撃できるようになっているみたいなの!」

そういうと優希は俺の胸に顔を埋めてスリスリしてきた。そうこうしている間に仲間が乗り込んできて裏人格やその他仲間を縛り上げる。仲間の一人が声を上げた。

「なんか綺麗なビー玉みたいなのが落ちているぞ?」

宮下がそれを受け取る。

「…なんか力が流れ込んで…っ!」

宮下が目をつむり拳を握る。すると足元がへこんだ。

「能力が戻ったんだよ…あのビー玉は俺んとこの宮下が持っていた…能力を封じ込んでいた玉さ。」

「お前起きていたのか。」

縛られていた裏人格が目を覚ましていた。

「あーあ、宮下は殺されるし艦隊は全滅やし…俺もデータごと殺されてやるか…。」

「別にそこまでやる必要ねーよ。」

それが甘いとこなんだよ、と鼻で笑って言い放つ裏人格。

「そーやって隙見せっから今回みたいなことになんだろ。」

「そうよ店長。念のためにもこんな人でなしはここで存在を消し去るべきよ!」

宮下が横やりを入れてくる。

「宮下、こいつはそこまで人でなしではないと思うぜ。」

「なんでそう言い切れるのよ。」

横目で眼下の海に浮かぶ緊急脱出用のゴムボート郡を見ながら呟く。



「ほんとの人でなしってのは…仲間さえも簡単に切り捨てるし…仲間とこの世を去ろうとなんてしないんだぜ…。ましてや腐ってもこいつはもう一人の俺だしな。」





「すげえなこのAI!ちゃんと立体化されてるんだな!」

「私にはティアラという名前が…。」

「おい裏人格、はしゃぎすぎて宮下の古本タワーくずすなよ。」

「これもこれですげえな⁈」

「へへん。」

…こうして万事屋にはまた一人(とそいつの手下のべ数百名)、仲間(?)が増えたのだった…。





「ったく霧崎はまたキャラ増やしよって…描く側の身にもなれっての。」

「まあ良いじゃないですか…。私としても同志が増えるのはうれしいし、彼らを見てると子供っぽくて可愛がってやりたくなりますわ。」

「めんどくせえ…。」


~PAGE11 fin??~

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