第131話 うまい……!!
「「おぉぉ〜〜っ!!」」
待ちに待ったこの時がついに……!!
感動に打ち震えるのを感じながら、目の前に並べられた唐揚げ定食を見つめる。
「すげぇ……! わざわざ味噌汁も作ってくれたのか?」
「唐揚げだけじゃ味気ないかと思ってね。定食みたいにしちゃった」
「いやすげーぞ。本当にうまそうだ」
明里は照れ臭そうに言うが、本当にありがたい。味汁一つ付くだけで、唐揚げの魅力も増して見えるのだ。定食恐るべし。
「せ、先輩っ。具材はダイコンにしたんですけど……嫌いとかじゃ……?」
「ダイコン……! むしろ俺が1番好きな具だよ」
明里と笹森さんは2人とも味噌汁を作ってくれているが、その具材はどちらも違う。
明里がワカメを中心にした海藻類なのに対し、笹森さんはダイコンの千切りをたらふく入れた味噌汁だ。
「せっかく作ってくれたんだから、味噌汁も審査に含めた方がいいよね?」
当初の予定では唐揚げの審査会だったが、こうなったら唐揚げ定・食・の審査会にしてしまった方がいい気もする。
「んー……いや、やっぱり味噌汁はおまけなので、唐揚げだけで審査してくれますか?」
「そう? 笹森さんがそう言うなら構わないけど……」
明里はどうなんだろう? と思い、その視線を笹森さんの隣へと向ける。
「私もそれでいいよ。むしろ、唐揚げしか練習してなかったから味噌汁はあんまり自信ない……」
「はっはっは! 明里らしーな。んじゃあ、早く食べてみようぜ。腹減った」
「はいはい、じゃあ俺らは10点満点で点数つけるからな」
待ちきれない様子で箸を片手に唐揚げを見つめる優也と一緒に手を合わせる。
「「いただきます!!」」
どっちから食べるか悩むが……とりあえず、笹森さんの方から食べるか。目の前だし。
そう思い、二つ並んだ定食のうちの1つ、体に近い方に箸を向ける。
……!! 持った瞬間分かる。このしゃくしゃく感……!! 衣の厚みが……!!
箸で持ち上げると、たっぷりの油が煌めきを放つ。かといって、脂身が多すぎるわけでもない……その絶妙な塩梅の揚げ加減がたまらない。
優也に負けず劣らず、我慢のできなくなった俺は、そのまま箸で掴んだ唐揚げを口に運ぶ。
「…………!!」
案の定、口の中でしゃくしゃくと音を立てながら、唐揚げははじける。そしてその中からは、想像だけでは分からなかった、柔らかな鶏肉の味が顔を覗かせる。
決して、衣の味に頼りすぎてはいない。揚げたから美味しくなったんじゃない。
鶏肉のジューシーな味わいもしっかりと残している……!!
衣に確かな歯応えがあった分、この肉はすごく柔らかく感じる。
1つの料理で2つの食感……唐揚げというありふれた料理で、ここまでのことを感じたことがあっただろうか。
間違いない。これは……
「うまい……!!」
「……!! ほんとですか……!? よかったぁ……」
俺がそう口にした直後、笹森さんは安堵したように胸を撫で下ろす。
その姿を視界の端に収めつつ、俺は箸を進める。いつもならじっくりねっとり観察して目に焼き付けるところだが……今は、この味を舌に焼き付けたいのだ……!!
隣でも優也は心からうまそうに唐揚げを口に運び続けている。
どっちの唐揚げを先に食べているのかは分からないが……とにかく、俺も負けてられない。
この唐揚げは間違い無くうまいが、まだ明里の作った唐揚げは食べていない。
そっちにも大きな期待が寄せられているのだ。こんな幸せな料理会は楽しまないと損だ。
そう心に決め、箸休めの味噌汁をすすった。
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