第111話 だからやっぱり、明里さんはライバルです
「どんなポスターになるんでしょうね?」
雄二の家を出た帰り道。奏ちゃんが、私にそう言って目を向ける。
本当は雄二も一緒に来て欲しかったけど……今日は、女子だけで歩きたかった。
「んー、どうだろうね。私なんかは、ちゃんと笑えてたか不安で……」
「あはは、分かります。結構きつい体勢のとかもありましたからね。私も顔、強ばってたかも」
そんなふうには見えないくらいの笑顔を見せてくれる奏ちゃん。
そんな姿に微笑ましい気持ちを覚えながら、雄二の家にいる時から我慢していた気持ちを吐き出すことにする。
「そういえば奏ちゃん……」
「なんですか?」
肩まで伸びた黒くハリのある髪をふわっと揺らす奏ちゃんに、私は前にもした質問をする。
「やっぱり雄二のこと、好きなんじゃない?」
「……!!」
流石にこんな話は雄二の前ではできない。だから今日は、女子だけ。
一瞬、驚いたように息を呑んだ奏ちゃんは、その瞳に私をとらえた。
「……はい。好きになっちゃいました、先輩のこと」
「おぉ……ずいぶんはっきりと……」
この前の花火大会の時は、もっとこう……迷ってるっていうか、自分の気持ちに気づけていないような感じがあったけど……
「すみません、明里さんにはちゃんと伝えなきゃだめなのに……」
「いや〜、私はもう確信してたようなもんだし?」
「うっ……だからあんなにま……笑顔だったんですか」
そもそも教室に来て、雄二のこと放課後デートに誘ってたの見てたんだけど……まっ、いいか。
てか奏ちゃん、"にまにま"からかったの気にしてる……? ……まっ、いいか。
……って!! それよりも、私には気になるとこがある。
「それでそれで? どんなとこが好きなの? やっぱり、意外と優しいとこ? あ、それともたまに情熱的になるとこかな?」
女子が2人以上集まったらこれでしょ!! 恋バナ!!
「え? えっと……? 先輩の好きなとこ……」
「そっ! いやー! ずっと奏ちゃんと雄二の話したかったんだよ!?」
「ずっと!? そんな前から私が先輩のこと好きだと思ってたんですか……?」
「そこまでじゃないけど、もしかして好きなのかなー、くらいには」
「〜〜っ!! そ、そんなぁ……」
肩を落として、紅く染まった顔を隠すように俯く奏ちゃんだけど、見えなくても顔が紅いのは分かっちゃうなぁ。
「でもじゃあ、やっぱり前は雄二のこと好きなのか自分でもよく分からなかったってことでしょ? なんかはっきり、好きだーー!! っていうきっかけがあったの?」
「きっかけ……」
奏ちゃんは、少し日が傾きかけてきた空を見上げ、記憶を辿るように沈黙をつくる。
「……きっかけ、というか……明里さんに、先輩のこと好きなんじゃないかって言われて……私なりに、真剣に考えてみたんです」
「……うん」
花火大会の時だよね……あれから奏ちゃんが何を思ったのか、私は知らない。その続きを今、聞かないと。
自分の気持ちを整理していくように、奏ちゃんはゆっくりと言葉を紡いでいく。
「今まで、先輩と一緒にいて感じた事を思い出してみました。そうしたら……先輩と一緒にいられないのが寂しくて。……先輩と同じ時間を過ごすのが日常になってて。……先輩が、私の事を考えてくれるのが、なんだか無性に嬉しくて……そんな事を考えてる時点で、きっともう好きになっちゃってるなって」
「……そっか」
奏ちゃんの話を聞き終え、私はその言葉の一つ一つを噛み締めるように呟いた。
「だからやっぱり、明里さんはライバルです」
「あははっ、だね。……でも奏ちゃん、意外と独占欲強い?」
ライバル宣言をしてくれた奏ちゃんに、私は早速一石投じる……というか、からかいたいだけだけど。
「どっ!? つ、強くないですよ!! 別に!! ただ、明里さんとか、他の人が先輩と一緒にいるのが、なんかちょっと違うなって思うだけで――」
「雄二の側には自分がいたいってことだね〜?」
「ちっ……がわないですけどぉ!!」
怒ってるのか動揺してるのか、目をぐるぐるさせながら、腕を上下にぶんぶん振っている。
「あはは〜、ごめんごめん。ついからかっちゃった」
「勘弁してくださいよぉ……それより明里さんこそどうなんです?」
「私?」
なんだろう? そう思って聞き返した矢先。
わずかに目尻をあげて、奏ちゃんが口を開く。
「中西先輩。告白されたんですよね?」
あー、そうきたかぁ……!! まさか奏ちゃんに反撃されるなんて……!! 絶対やりすぎたよ……
「んっとぉ……特に何も……?」
「ないわけないじゃないですか」
あ、これ結構怒ってる。絶対怒ってる。だってかなり意地悪な顔してるもん。
「……まぁ、今までとあんまり変わんないかな。優也も告白する前から私のこと……好き……だったみたいだから」
うわ、なんか恥ずかしい。こうして自分のことを好きな男の子の話するのって恥ずかしい……!!
「そ、そうですか……まぁ、結構そんな感じなのかもしれませんね……?」
……聞いてる方も恥ずかしいみたいだけど。
「恋って……すごいね」
「ほんとですね……」
結局、恋バナをして出てきた感想は2人合わせてもこんなものだった。
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