第16話

飲まずとも抗えると思っていた

飲まずとも立ち上がれると思っていた


飲まねば祈ることもできない

飲まねば判断すらできぬ


飲まねば

飲まねば

飲まねば


世界の荒波のなかに居るわけでもないのに

大変といえば大変だし、ブラックといえばブラックなのだが、ここまで沈み込むほどではないはずだが


それでも元から闇を飲み込んでいた

吐き出す物は泥と吐瀉物

窒息寸前の鎮魂歌

飲んでいたものはタールにまみれたワインかと

真っ黒でドロドロとしたものを口にして啜っていた

光なんて見えなかった細胞の一つ一つでさえ酒に溺れていた

酔いどれながら描く景色に光はなく、湾曲した未来に立つ自分は居なかった


ああ、死にたいなあ

生きるために酒を飲む

酒を飲まねば生きられぬ

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