第16話 薬草無限採集


 ラインハルテと別れたあと。

 ローナは光の翼を生やして、空からイプルの森へと向かっていた。


「な、なんだ、あれ……新手のモンスターか?」

「というか、速ぇ!?」

「あれって、例の新人のローナ・ハーミットだよな……?」

「空飛ぶスキルなんてあるんだ……」


 見晴らしのいい草原の上を飛んでいたため、地上にいる冒険者たちがローナを見上げて唖然としていたが。


 ローナ本人は空にいたこともあり、とくに気づくこともなく森の中へと降り立った。


「ふぅ……」


 ローナは光の翼を解除して一息つき、そして――。



「き……ぎぼぢわるい……」



 顔を青くして口元を押さえた。

 飛ぶのに慣れていないこともあってか、飛行中に激しく視界が揺れ、馬車酔いに似た感覚に襲われたのだ。


(空からの移動はすごく楽だけど……これは、もっと安定して飛べるようにならないとな……)


 そんなこんなで、しばらく休憩してから。


「よし、そろそろ薬草を探すか」


 ここに来た目的である、薬草採集を始める。

 本来、薬草採集というのは、薬草を探す手間のわりにそれほど旨味もないため、メインで受ける依頼ではないらしい。

 そのため。


『え、薬草採集ですか……? そんなに実入りのいい依頼ではありませんが……な、なにを企んで……?』


 と、依頼を受けるときに、エリミナからも怪訝そうな顔をされてしまったほどだが。


(インターネットがあれば、薬草の場所も全部わかるしね……)


 とはいえ、ローナが探している薬草は1つだけだが。

 というわけで、インターネットを頼りに、目当ての薬草がある場所までさくさく到着する。

 それから、しばらく辺りを見回して――。


「あった!」


 地面に1つだけ生えている薬草を見つけた。

 これは以前、ヌシ戦の前に採集した幻の薬草マボロリーフだ。



――――――――――――――――――――

■アイテム/【マボロリーフ】

[種別]素材 [売値]5万シル

[効果]なし。


◇説明:魔境の森にごくわずかに生えている幻の薬草。

【万能薬】【エルフの秘薬】など高ランクの薬の材料になるほか、サブクエスト【毒医ドクターザリチェの野望】のイベントアイテムとしても使用する。

――――――――――――――――――――



(ふ、ふふ……この薬草があれば、お金がたくさん稼げる!)


 悪い顔をするローナ。

 この薬草を使ったお金稼ぎについて知ったのは、昨夜。

 冒険者カードを受け取って宿に戻ってから、インターネットをいじっていたときのことだ。


(今日のドラゴン戦は危なかったし……その場で慌てないように、もっとインターネットでちゃんと勉強しとかないと……)


 というわけで、この世界のことについて調べていたのだが。


(へぇ……『冒険者たちの古代遺跡ダンジョンの探索によって、古代魔法文明の王や魔族たちが復活し、世界征服をたくらみます』かぁ。嫌な予言だな……これもいつか、なんとかしないとね。それにしても、いろいろ知らないことが多いし、質問とかできたらいいんだけど……って、ん?)


 そこでふと、ローナは発見した。



(あれ……ここの掲示板って、私も書きこめる?)



 インターネットの掲示板とは、神々の交流の場だ。

 つまり、ここに書きこみできるということは――。

 ――『神の叡智に頼る』という反則技が使えるということだ。


(か、神と直接話せるって……教会に知られたら、やばいことになりそうだね……聖女としてまつり上げられたりして。また1つ、インターネットのやばい力を知ってしまった……)


 しかし、今のローナにはちょうどいい力だった。

 今のローナには知らなければいけないことが多すぎる。


(で、でも、私なんかが本当に神に質問とかしてもいいのかな……?)


 そもそも、ただの1人の人間の悩みに、神々はわざわざ答えてくれるのだろうか。

 そう悩みつつ、20分後――。


「こ、これでいいのかな? うーん……やっぱやめようかな? でも、ここまできたし……よ、よし、書きこむぞぉ!」


 ローナは意を決して『投稿』ボタンをタッチした。

 カチッという音とともに画面が切り替わり、『掲示板』にローナの書きこみが追加される。



――――――――――――――――――――

■掲示板(67件)

[67@ローナです]

いまイフォネの町にいるのですがお金をかせぐほうほうはありまつか?

――――――――――――――――――――



「……か、神々に質問をしてしまった」


 思わず、ごくりと唾を飲みこむ。

 これでもう、後戻りはできない。


(な、なにか知らないとこでマナー違反とかしてないかな? 不敬だとか思われたらどうしよう……しかも、質問内容もお金稼ぎについてなんて……あぁ~、すごい緊張する!)


 いろいろな不安が頭の中をぐるぐると駆けめぐり、心臓がばくばくとうるさく鼓動する。

 そのまま、ローナが画面を見つめること数分――。


「あっ、さっそく返事来た!」


 画面を更新すると、掲示板に新たな書きこみがいくつか現れていた。

 どきどきしながら返事を読む。


 神の叡智によって導き出された答え。

 そこに書かれていたのは――。



――――――――――――――――――――

■掲示板(68件)

[68@名無しのワッショイ]

まず服を脱ぎます

――――――――――――――――――――



「……うぇっ!?」



――――――――――――――――――――

■掲示板(69件)

[69@名無しのNight]

わっふるわっふる

――――――――――――――――――――



「どういうこと!?」



――――――――――――――――――――

■掲示板(70件)

[70@名無しのオタク]

オウフwwwいわゆるストレートな質問キタコレですねwww

おっとっとwww拙者『キタコレ』などとついネット用語がwww

まあ拙者の場合エタリア好きとは言っても、いわゆるゲームとしてのエタリアでなくメタSF作品として見ているちょっと変わり者ですのでwwwダン・シモンズの影響がですねwwww

ドプフォwwwついマニアックな知識が出てしまいましたwwwいや失敬失敬www

まあ萌えのメタファーとしてのルシアは純粋によく書けてるなと賞賛できますがwww

私みたいに一歩引いた見方をするとですねwwwポストエヴァのメタファーと商業主義のキッチュさを引き継いだキャラとしてのですねwwwデザィアの文学性はですねwwww

フォカヌポウwww拙者これではまるでオタクみたいwww

拙者はオタクではござらんのでwwwコポォ

――――――――――――――――――――



「……………………うん」


 ローナは画面から、そっと目を離した。


「神様たちの考えることは、高次元すぎてよくわからないなぁ……なんか、呪文詠唱してる人もたくさんいたし……」


 そんなこんなで収穫なしかと思われたが。



――――――――――――――――――――

■掲示板(71件)

[71@名無しの大剣使い]

やめなよ

ローナですさんは初心者かな?

どうしてもお金が必要なら、イプルの森でマボロリーフを量産するといいよ

――――――――――――――――――――



「マボロリーフを、量産……?」


 そんなこんなで、親切な神から『薬草無限採集法』なるものを教えてもらったのだ。


 薬草が無限に増殖するというのは信じられないけれど。

 これまでだって、インターネットは嘘をついてこなかった。

 だから、きっとこれも真実だろう。


「――よし!」


 というわけで、ローナは張り切ってマボロリーフと向かい合った。


「まずは、じょうろで水をあげて……そうすると、“栽培状態”っていうのになるから、そこで根っこを切らないように葉っぱだけ採集。根っこが残っているかぎり薬草のHPは1残るから、そこに――プチヒール!」


 薬草に杖を向けて回復魔法を使うと。

 ぴょこんっ、と地面から薬草が生えてきた。


「う、うわ……本当だ。いくらでも生えてくる」


 ありふれた薬草なら、MP消費のことを考えると割に合わないどころか、むしろ赤字になりかねないけど。


 幻の薬草マボロリーフのような高価な薬草でやれば見返りのほうが勝るし、世界樹杖ワンド・オブ・ワールドがあればMPの心配もない。


「ふ、ふふふ……お金が地面から生えてくる……」


 笑いが止まらない。

 完全にお金に目がくらんでいた。

 それから、しばらくマボロリーフを集めていき――。


「よし、大量大量♪」


 ローナがほくほく顔をしながらアイテムボックスを確認すると、『マボロリーフ×100』となっていた。


「マボロリーフの買取価格は、ひとつ5万シル……ってことは、これだけで500万シル!?」


 さすがに疲れたが、そのかいはある額だ。


(じ、時給500万シル……ふ、ふへへ……)


 これだけあれば、このググレカース領から出るには充分な資金となるだろう。

 なんなら、しばらく遊んで暮らせそうだ。


「と、とりあえず、換金しに行かないとね……」


 そんなこんなで、にまにましながら【エンチャント・ウィング】で空を飛んで帰路につく。


 それから帰り道の確認のために、インターネットの地図を眺めたところで。


「……ん、このマークって」


 ちょうど、今飛んでいる真下辺りの地点に、見覚えのあるマークがついていることに気づいた。

 これは、たしか……。


「サブクエスト開始場所、だっけ?」


 ローナがそう呟いた瞬間――。



「――きゃあああぁあああッ!!」



 そんな悲鳴が、森の空気をつんざくように聞こえてきたのだった。


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