第372話 氷鏡
「師匠、ミイナ、生徒会長……えっと、それと……」
「マオさん、この方は私の前の生徒会長を務めていたエルマさんです」
「あ、どうも……」
マオはエルマと話すのは初めてであり、前任の生徒会長がどうしてここにいるのか気になったが、今はそんな事を確かめる暇はないので全員に離れているように促す。
「皆は少し離れててください。それと眩しくなると思うので僕が合図をしたら目を閉じてください」
「何をする気だい?」
「叔母様の腕輪を使うの?」
「いや……それは最後の手段だよ」
自分以外の全員を離れさせるとマオは改めてブラクと向き直り、彼は三又の杖を構えた。それに対してブラクは背中から更に黒腕を生やし、今度は腕というよりも触手のように変化させて廊下を覆いつくす。
『殺す、お前だけは殺すぅううっ!!』
「……これで終わりだ」
お互いに向き合った状態でマオとブラクは睨み合い、先に仕掛けたのはマオだった。彼は三又の杖の先端部を高速回転させながら小さな氷塊を次々と生み出して撃ち込む。
「喰らえっ!!」
『ふんっ!!』
『死ねぇえええっ!!』
「……その氷、よく見た方がいいよ」
『何っ!?』
影の触手でマオの撃ち込んだ氷塊を全て掴み取ったブラクは彼に目掛けて突っ込んだが、それに対してマオは余裕の表情を浮かべてブラクに杖を向けて言い放つ。
マオの言葉にブラクは触手で掴み取った氷に視線を向けると、ここで彼はマオが撃ち込んだ氷の正体が弾丸ではない事に気付く。マオの生み出した氷塊は全てが煌めいており、まるで磨かれた鏡のように輝いていた。
『これは……!?』
「もう遅い!!」
咄嗟にブラクは触手で掴み取った全ての氷塊を叩き割ろうとしたが、その前にマオは三又の杖を突き出して魔光を放つ。単純に魔光を放つだけではブラクを倒せないが、マオは事前に鏡の如く煌めく氷塊を撃ち込む事でブラクの周りを取り囲む。
「喰らえっ!!」
『うぎゃあああああっ!?』
ブラクの触手に捕らわれた全ての氷鏡がマオの杖から放たれる魔光を反射し、鏡によって反射した光がブラクの全体を照らす。周囲を取り囲んだ氷鏡によって照らされたブラクは悲鳴を上げ、背中に生えていた影の触手が消滅する。
氷鏡を利用して魔光を有効的に相手に浴びせる方法を編み出したマオだが、この魔法は闇魔導士にしか通じない。普通の魔物や人間に氷鏡で光を浴びせてもせいぜいが目眩まし程度の効果しかなく、そもそも氷に反射させて光を浴びせるぐらいならば直接に魔光を相手に向けた方が早い。
マオが生み出した氷鏡はあくまでも闇魔導士専用の対抗策であり、他の生物には通じない。しかし、逆に言えば闇魔導士との戦闘では大いに役立ち、全身に光を浴びたブラクは床に倒れ込む。
『あがががっ……!?』
「ふうっ……これでもう動けない」
「た、倒したのですか?」
「いや……光を浴びて影魔法が維持できなくなっただけさ」
床に倒れて悶絶するブラクを見て決着がついたのかと思われたが、バルルの見立てではブラクを倒すには光を浴びせるだけでは無意味だった。光を浴びせている間はブラクは何も出来ないが、彼の身体を消滅や焼却しない限りは完全に倒す事はできない。
「マオ、そいつはまだ死んでないよ。どうするつもりだい?」
「大丈夫です、動けないようにしますから」
「動けないようにするって……どうやって?あんたの氷で拘束具でも作り出すのかい?」
マオの言葉にバルルは不思議そうな表情を浮かべると、彼はブラクの元に近付いて魔光を当てた状態で三又の杖を構えた。
「……このまま凍結させます」
『があっ……!?』
「はああっ!!」
三又の杖を構えた状態でマオは気合の込めた声を上げると、杖から魔光の代わりに冷気が放出され、ブラクの身体を凍り付かせる。ブラクは自分の身体が凍っていく事に気付き、慌てた様子で悲鳴を上げる。
『止めろぉおおおっ!?』
「全身を氷漬けにすれば……いくらお前でもどうする事もできないだろ」
ブラクの肉体は徐々に凍り付き、必死にブラクは逃げ出そうとしたがマオは更に作り出した氷鏡を張り付かせる。逃げ場を失ったブラクの身体は凍り付き、やがては氷像と化す。
魔法で造り出した炎や氷は長時間の維持はできないが、今回の場合はマオの魔法から放たれる冷気によってブラクは凍り付いた。今回の場合は魔法の効果が切れたとしても既に凍結したブラクは元に戻る事はなく、氷が解けるまでの間は彼は何も出来ない。
死体に乗り移ったブラクを凍結させる事でマオは動けなくさせ、この状態では如何にブラクでも何も出来ない。身体が凍り付いた状態では影魔法も行使できず、死体に憑依した怨霊ごと凍り付かせる事でマオは勝利を掴む。
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