第371話 闇魔導士対策
――時は少し前に遡り、黒霧が消えた際にマオはミイナと行動を共にしていたが彼女はいち早くに戦闘音に気付いた。校内の黒霧が消えた事で音や気配を感じ取れるようになった結果、ミイナはバルル達とブラクの戦闘音に気付いて先に向かう。
マオも慌てて追いかけようとしたがミイナのように獣人族ではない彼ではすぐにおいて行かれてしまい、仕方なく魔力感知の技能を頼りにブラクの位置を探し出して追いかける。
ミイナのように鋭い嗅覚や聴覚を持ち合わせていないが、ブラクの放つ闇の魔力を感知してどうにかマオはバルル達の元に辿り着く。そして改めて変わり果てたブラクと対峙すると、彼はブラクの姿を見て驚愕した。
(この嫌な魔力、間違いなくブラクだけど……何なんだあの姿!?)
生前の頃と変わり果てたブラクの姿にマオは動揺し、その一方でブラクはマオの姿を確認するとこれまで以上に怒りを抱いた表情を浮かべた。ブラクが自分がこんな目に遭ったのはマオのせいだと思い込み、誰よりも憎悪を抱く相手が現れた事で力を発揮する。
『死ねぇえええっ!!』
「うわっ!?」
「マオ、気を付けな!!その黒腕に捕まったら終わりだよ!?」
ブラクは背中から多数の黒腕を出現させてマオに目掛けて放つと、それを見たバルルが注意を行う。彼女の言葉を聞いてマオは冷静に三又の杖を構えると、氷塊を次々と生み出して氷盾を作り出す。
「このっ!!」
『ぐぐぅっ!?』
黒腕は氷盾によって阻まれ、ブラクは黒腕で氷盾を破壊しようとしたがびくともしない。ブラクの黒腕は相手を掴んで投げ飛ばす事はできても攻撃力自体は存在せず、氷を破壊する力はない。
しかし、空中に浮上した氷盾を黒腕で押し込む事でマオを追い詰めようとする。それに対してマオも意識を集中させて黒腕に捕まれた氷盾を逆に操作して押し返し、しばらくの間は拮抗する。
『ぐぎぎぎっ!!』
「くぅっ……このっ!!」
氷盾と黒腕が押し合う形となるが、マオは氷盾の裏側から杖を構えて魔光を放つ。すると氷盾を掴んでいた黒腕が光を浴びて消え去り、その隙を逃さずにマオは氷盾を押し込んでブラク本体に叩き込む。
「これでどうだ!!」
『ぎゃあっ!?』
「やった!!」
ブラクは黒腕の一部を消し飛ばされると、氷盾が肉体に的中して吹き飛ぶ。それを見たマオは歓喜の声を上げるが、即座にブラクは起き上がる。
『がぁあああっ!!』
「き、効いてない!?」
「マオ!!そいつはもう死んでるんだ!!いくら身体を痛めつけても無駄だよ!!」
バルルの言葉を聞いてマオはブラクの姿を確認し、よくよく観察すれば彼の身体は火傷や血塗れである事に気付く。普通の人間ならば既に死んでいてもおかしくはない重傷だが、実際にブラクの肉体は既に死を迎えている。
現在のブラクは自分の死体に乗り移る怨霊でしかなく、いくら肉体を傷つけられようと死ぬ事はない。ブラクを倒すには死体を跡形もなく消滅させるか、あるいは灰になるまで焼却させるしかない。そうすれば肉体を失ったブラクは黒霧と化し、間もなく訪れる朝日の光を浴びれば敢然に消滅するはずだった。
「マオ、叔母様から貰った腕輪を使えばそいつを弱らせる事はできると思う」
「腕輪?」
「何だって!?あんたも先生から腕輪を受け取っていたのかい!?」
ミイナの言葉にマオはマリアから事前に受け取った腕輪を思い出し、この腕輪に蓄積された魔力を使用すればブラクを弱体化させる事はできる。しかし、あくまでも弱体化させるだけで完全に倒す事はできない。
自らの死体に憑依したブラクは死体の体内に宿る事で聖属性の魔法や光を浴びせても完全な浄化には至らない。まずは肉体その物をどうにかしなければブラクは倒す事はできず、マオはブラクを倒す方法を考える。
(この腕輪を使えばあいつの動きを止められる。けど、その後はどうすればいい?)
マオが生み出す氷の魔法はブラクの肉体を傷つける事はできても消滅させる事はできず、細切れに切り刻む事はできてもブラクは影魔法で再生を行う。しかし、ここでマオは前回のブラクとの戦闘を終えた後に考えた新しい攻撃法を試す。
(……あれを使う日が来たかもしれない)
前回にブラクの戦闘の後、マオは闇魔導士の扱う影魔法がどれほど厄介なのかを嫌と言うほど思い知らされた。だからこそマオは今後もしも影魔法の使い手と戦う場合に備え、彼は影魔法に対抗するための手段を編み出す。
対闇魔導士用として開発した魔法だが、この魔法は基本的には闇魔導士にしか通じないのでこれまでにマオは実戦で使った事はない。だが、今こそが使う時だと判断した彼は三又の杖の先端部に手を伸ばして準備を行う。
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