第366話 怨霊の化身
「はぁあああっ!!」
『うぎぃっ……!?』
勢いを込めてリンダは魔石とランタンを投げつけ、ブラクの身体に当てようとした。ランタンが壊れて火が飛び散れば魔石に当たり、火の熱に反応して必ず魔石は爆発を引き起こす。
バルルの二度にわたる爆拳を受けてもブラクの身体を完全に焼き尽くす事ができなかったが、魔石内に蓄積されている火属性の魔力を全て使い切ればブラクの身体を灰と化す程の火力を生み出す炎が生み出せるかもしれない。しかし、これが防がれればリンダ達には打つ手はない。
(当たって……!!)
心の中でリンダは魔石とランタンがブラクに当たるように祈るが、彼女の投げつけた魔石とランタンは真っ直ぐにブラクの元へ向かう。しかし、直前でブラクは全身に生やしていた黒腕を利用して自分の身体に巻き付かせる。
――あああああああっ!!
まるで蛇に全身が巻き付かれたかのようにブラクの身体は黒腕で覆い隠され、直後に黒腕にランタンと魔石が衝突した。この時に魔石に亀裂が走り、壊れたランタンの残骸に紛れて火が飛び出す。
魔石にランタンから飛び出した火が触れた瞬間、亀裂の内側から赤色の光が放たれて爆炎が発生した。爆炎は階段の上に立っていたリンダの元にまで迫り、咄嗟に彼女は先ほどのように両手を前に出して渦巻状の風圧を放つ。
「くぅっ!?」
「先生伏せて!!」
「あいてっ!?」
リンダの後ろに立っていたエルマはバルルを床に押し倒すと、爆炎は三人を避けるように拡散していく。やがて炎が収まる頃には全身から汗を流すリンダが立ち尽くし、彼女は顔色を青くしながら膝をつく。
「くぅっ……!?」
「リンダ!?平気なの?」
「馬鹿……平気なはずないだろ、あたし達を守って無茶をしたんだよ」
自分だけではなく二人を守るためにリンダは風の魔力を引き出して風の障壁を作り出し、爆炎から見事に守り通す事ができた。しかし、それが原因で彼女は魔力を殆ど使い切ってしまう。
灯りを失ったバルル達だったが、爆発の直後から校内を覆っていた黒霧が消えていく。気付けば窓から月の光が差し込み、それを見たバルルは作戦が成功したのかと驚く。
「どうやら上手く行ったみたいだね……ははっ、まさかあんな作戦が成功するなんてね」
「えっ!?成功する自信なかったんですか!?」
「だから言っただろ、一か八かの賭けだって……」
どうやら先ほどの爆炎でブラクを倒す事に成功したらしく、それが原因なのか校内に広がっていた黒霧が消散した。まだ身体はだるいがどうにかバルルは起き上がると、片膝をついているリンダの肩に手を置く。
「やるじゃないかい生徒会長……あんたの勝ちだよ」
「はあっ、はあっ……」
「リンダ、よくやったわね。貴女は私以上に立派な生徒会長よ」
リンダは先ほどの魔法でまともに声も出せない程に披露しており、そんな彼女にバルルとエルマは褒め称える。しかし、二人の言葉に対してリンダは顔色を悪くしながら首を振る。
「まだ、です……二人とも、早く逃げて」
「何だって?」
「いったい何を言って……えっ!?」
バルルとエルマはリンダの言葉を聞いてどういう意味なのかと顔を見合わせ、彼女が指差した方向に視線を向けた。そして二人が目に下のは階段の下に存在する黒色の繭の様な物が転がっている事に気付く。
最初は何なのか理解できなかった二人だが、すぐに階段の下に存在する眉から放たれる魔力を感じ取って衝撃を受ける。眉の正体は先ほどの爆炎で消し飛んだと思われたブラクであり、しかも上と下の階から消えたと思われた黒霧が流れ込んでいた。
「そ、そんな馬鹿な!?」
「これは……!?」
「奴はまだ……あの中です!!」
二階に広がっていた黒霧は消えたはずだが、まだ上の階と一階に広がっていた黒霧は残っていたらしく、それらを繭は吸収していく。やがて学校中の黒霧を吸い込んだ繭は徐々に巨大化すると、中からおぞましい存在が姿を現わす。
――あがぁああああああっ!!
鳴き声と言うよりは人の悲鳴のような声が学校内に響き渡り、繭から出現したのは漆黒の巨人だった。先ほどマオが倒したミノタウロスを一回り程大きく、しかも頭の部分だけは普通の人間と同じ大きさのままだった。
まるで肉体だけが巨大化したかのようなブラクの変貌ぶりにバルル達は唖然とした表情を浮かべ、影魔法で応用で校内に広がっていた黒霧を吸収し、実体化させる事で巨人の肉体を手に入れたブラクはバルル達を見下ろす。
『ご、ごろすぅっ……ごろじてやるぅううっ!!』
「喋った!?」
「こいつ……本当に化物と化したみたいだね」
「くっ……」
こんな状態に陥りながらもブラクは意識を取り戻し、口調は多少乱れているが明確にバルル達に殺意を抱いていた。皮肉にもバルル達に追い込まれた事でブラクは人としての意識を取り戻す事ができた様子だが、彼は完全に化物と化した。
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