第314話 三人衆
――七影は基本的にそれぞれの勢力を持ち、時には協力しあう事はあっても徒党を組む事はない。だが、今回の作戦の前に三人の幹部が集まって話し合いを行う。
「今回の作戦はリクが主導に行う事にお前達はどう思う?」
「……いきなり呼び出したかと思えば、急に何を言い出す?」
「そうね、こっちは忙しいのよ」
集まった三人の内、小太りの男性が他の二人に話しかける。この男性の名前は「ワン・チャン」であり、名前は可愛らしいが七影の中でも武闘派で彼自身も素手で魔物を屠る程の強さを誇る。
ワンに集められたのは巨人族の中年男性とエルフのように美しい顔立ちの黒髪の女性だった。この二人の名前は「ゴーノ」と「スリン」ゴーノは脳筋が多い巨人族の中では珍しく知略に長けた人物であり、スリンは王都一の娼館の経営を行う。
娼館の主であるスリンがどうして七影に入れたのかと言うと、娼館には様々な人物が訪れ、その中には貴族も含まれている。スリンは客として訪れた貴族から巧みに情報を引き出し、それを他の七影に伝達する情報係を担う。
「今日、ネカの奴が急にやってきてうちの娘達に獣牙団の相手をさせるように頼んで来たわ。けど、あいつら本当に最悪よ。女の扱い方は雑だし、特に団長のせいでうちの看板娘がしばらくは使い物にならなくなったわ」
「なるほど……それは苦労したな」
「ふん、リクの奴め……あのような獣どもを呼び寄せるとは何を考えている」
武闘派のワンからすれば外部から傭兵団を連れ出したリクの行動に不満を抱き、一方でゴーノは眼鏡をかけ直しながらこれからの事を話し合う。
「それで我々はどうする?このまま黙ってリクの指示通りに従うのか?」
「貴方の意見を聞きたいわね、自称七影一の策略家さん?」
「ふっ……」
ゴーノにワンとスリンは視線を向けると、彼は羊皮紙を取り出して机の上に置く。羊皮紙には王都の地図が記されており、そこには各七影の拠点が記されていた。
「リクの作戦通りに動くとなれば我々も腹を決めねばならん。失敗は許されない、もしも今回の計画をしくじれば我々の立場も危うい」
「本当に成功するのか?」
「相手はあの女よ……忌々しい」
今回の作戦は成功すればマリアを屠る事はできるが、もしも失敗すれば必ず盗賊ギルドは報復を受ける。何としてもこの作戦を成功させなければ盗賊ギルドに未来はなく、もしも失敗すれば盗賊ギルドは壊滅の危機に陥る。
このような一か八かの作戦を立てたリクに他の七影は大いに不満を抱いていた。しかし、リクは作戦に参加しなければ自分一人でも行動を起こすと伝えた。彼は既に作戦前から獣牙団を招き、そのせいで他の七影も仕方なく彼の作戦に乗るしかなかった。
「作戦通りに上手くいけばあの女を殺す事はできる。あの女がいなければ我々を脅かす存在は消える……しかし、その後はどうなると思う?」
「作戦を立てたリクがでかい面をする……で終わるわけじゃないんでしょう?」
「当然だ。盗賊ギルドを脅かす存在がいなくなれば……残されたのは七影同士の権力争いだ」
ゴーノが危惧しているのは計画が成功した後の話であり、仮にマリアの暗殺に成功すれば盗賊ギルドは恐れる存在は消える。しかし、それが逆に新たな争いの火種になる可能性があった。
「この作戦が成功すれば盗賊ギルドはこの国を裏から支配する事ができる。しかし、その後はどうなる?七影同士で争う事は目に見えているだろう」
「そうだな」
「それは……そうなるわね」
「リクの奴はきっと我々を煽り、七影同士を争わせて勢力を削るつもりだろう。そして我々が争って疲弊した後、リクは一気に我々を潰して盗賊ギルドを支配するつもりだ。そのために奴は獣牙団を手懐けた」
「ふんっ……その話を我々に聞かせてどうするつもりだ?」
ワンはゴーノの話を聞いて率直に彼が何をするつもりなのかを尋ねる。スリンもゴーノに何か考えがあるのかと顔を向けると、彼は不敵な笑みを浮かべて告げた。
「簡単な話だ。計画が終了次第、我々の手でリクを始末する」
「なんと……」
「リクを殺す……でも、その後はどうするのよ。リクを殺せば奴に従う残党が黙っていないでしょう」
「問題はない。所詮は奴等はリクの手駒に過ぎん、我々の脅威にはなりえん。そして重要なのはここからだ」
計画の途中でリクを始末する事を宣言したゴーノは机の上に置かれた地図にペンを走らせ、彼は三つの円を描く。その円の中心に自分達の名前を書き込み、計画後の話を行う。
「計画を終えた後、残された七影は五人になる。だが、捕まった人間やリクの良いように手駒にされている愚か者など必要ないとは思わないか?」
「まさか貴様……ブラクとニノも始末するつもりか?」
「そうだ、今後は盗賊ギルドはここにいる我々だけで支配すればいい。お前達はどう思う?」
「……面白そうね」
七影のゴーノ、ワン、スリンは手を組んで作戦を果たした後に自分達が盗賊ギルドを支配する計画を立てた――
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