第302話 最強最悪の殺人鬼集団

――獣牙団は元々は獣人族が築き上げた獣人国と呼ばれる国で誕生した傭兵団だった。所属する団員は全員が獣人族で構成され、その力は国内の傭兵団の中でも「最強」と呼んでも過言ではない。


しかし、彼等は戦となると相手を見境なく殺し回り、それを止めようとする者も躊躇せずに殺してしまう。時には自分達を雇った人間でさえも不満を抱いたら相手を脅したり、場合によっては手を出す事もあった。


獣牙団の存在を危険視した獣人国の国王は秘密裏に彼等を始末しようと決意したが、獣人国が派遣した軍隊の追跡を逃れて獣牙団は人間が管理する王国へと辿り着く。そして彼等は盗賊ギルドと接触し、表向きは盗賊ギルドに従う事で安住の地を与えられる。


現在の獣牙団が根城にしている山岳地帯は元々は傭兵ギルドが隠れ家として利用していた場所であり、彼等はそこで自分達の暮らす里を作り出した。山の中に潜む動物や魔物を狩って暮らすだけではなく、時には商団を襲って金や食料や女を奪って生活を送る。



「おら、逃げるんじゃねえっ!!」

「いやぁっ!?も、もう許してぇっ!!」

「許す?何を言ってんだ、お前はもう俺の女だろうが!!」

「ひひっ、またやってやがらぁっ!!」

「おいおい、いい加減にしとけよ。あんまり騒ぎ立てると頭にぶっ殺されるぞ」



山奥に存在する砦に獣牙団は住み着き、元々この場所は盗賊ギルドの隠れ家だったが、現在は獣牙団が我が物顔で暮らしている。砦には獣人族の男達の他に人間の女性が多数捕まっており、彼女達は獣牙団に滅ぼされた村の女たちだった。村以外にも商団を襲う際に攫った女性も含まれ、中には貴族の女性も含まれていた。



「や、辞めて!!離しなさい!!私を誰だと思ってるの!?」

「あん?何だ、この女……」

「昨日捕まえた奴だな。豪勢な馬車に乗っていたぜ」

「い、いや!!離しなさいよ!!私はこの地方を管理する伯爵家の娘よ!?もしも私に手を出せばお父様が許さないんだから!!」



獣牙団が攫った女性の中には彼等が暮らす地域を管理する貴族の娘も含まれ、彼女は必死に自分を解放する様に伝える。しかし、相手が貴族の娘だと知っても獣牙団の傭兵達は態度を変えず、むしろ嬉々とした表情を浮かべる。



「こいつは当たりだな!!貴族の娘ならこいつを人質にして大金を巻き上げようぜ!!」

「な、何ですって!?」

「悪いな、貴族のお嬢様よ……俺達、貴族ってのが大嫌いなんだよ!!」

「あうっ!?」



相手が貴族の人間であろうと男達は容赦せず、腹を蹴りつけて黙らせる。彼等は貴族という存在を忌み嫌い、元々彼等が国を離れる事になったのも獣人国の貴族に手を出した事が原因だった。


獣牙団が国外追放されるきっかけとなった理由は獣人国のとある貴族に雇われ、彼等は護衛のために貴族の元に訪れた。しかし、貴族は彼等の風貌が醜いという理由で追い返そうとした。



『何だこいつらは……まるで獣ではないか!!こんな奴等が我々を護衛するだと!?』

『あ?なんだてめえ……わざわざ俺達をこんな所まで呼び出しておいて何様のつもりだ!!』

『貴様!!その口の利き方は何だ!!私を誰だと思っている!!』



当時の獣牙団の頭は依頼人の貴族の態度に不満を示すと、依頼人の貴族の男は彼の口の利き方に激怒した。依頼人と揉める事は別に珍しくもない話だったが、今回の依頼人はよりにもよって武闘派で有名な貴族だったのが災いし、その貴族の男は獣牙団の頭を交渉の席で捕まえる。



『この無礼者をひっ捕らえろ!!』

『はっ!!』

『な、何をしやがる!!こんな真似をすれば俺の部下が……』

『やかましい!!たかが傭兵の分際で偉そうにするな!!』

『ぐあっ!?』



頭は貴族の男に口答えした事が原因で拘束され、貴族の男に殴りつけられた。しかし、そのせいで頭は逆上して兵士達の拘束を振り切って貴族の男に掴みかかる。



『てめえ、もう許さねえぞ!!』

『な、何をする!?離せ、その汚い手で触るな!!』

『うるせえ、死にやがれ!!』

『ぐあっ!?』

『だ、旦那様!?』



激高した獣牙団の頭は貴族の男を隠し持っていた短剣で突き刺し、腹を刺された貴族の男は倒れる。それを見た獣牙団の頭は慌てて窓から飛び降りて逃げ出した。


その後、今回の一件で獣牙団は貴族に手を出した犯罪者集団とみなされて国から追われる立場となった。刺された貴族の男が実は獣人国の王族とは親類関係で会った事も災いし、獣人国の国王は何としても獣牙団を殲滅しようとした。


獣人国で生き場所を失った獣牙団は他の国に逃げるしかなく、最終的に彼等は人の国に辿り着いた。そして彼等は自分達を追放した貴族という存在を憎み、例え他国であろうと貴族であるならば容赦はしない。

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