第301話 暗殺作戦
――他の七影にマリアの暗殺を実行すると断言したリクは自分の拠点にしている酒場に戻ると、もう後戻りはできない事を自覚して汗を流す。彼はこの約三年の間、七影の中で最も追い詰められていた。
シチが死亡した際に彼女の魔杖が奪われ、その犯人の捜索をリクは任されていた。しかし、リクは犯人の心当たりが見つかった事も報告せずに黙っていたのは理由がある。まずは第一の理由はマオがシチを殺したという根拠が氷の魔法を使うという事だけでは確証性に欠ける点だった。
確かに氷の魔法の使い手は滅多にいないとはいえ、盗賊ギルドの中でも一、二を誇る暗殺者のシチが12才の少年に殺されたと言われても簡単に信じられるはずがない。それに魔法学園の生徒に手を出せば確実にマリアを敵に回す。
魔法学園に魔物を送り込んだ時もシチは他の七影に目を付けられ、不用意にマリアを刺激するような行為は禁じられた。当時はマリアが新しい
リクがマオをこれまで野放しにしていたのはマリアを恐れて手を出さず、その代わりに彼の監視は怠らなかった。そんな事も露知らずにマオは平和な日常を過ごし、魔術師として腕を磨いているのを知ってリクは歯がゆく思う。
(シチ、お前の仇をもう少しで討てる……だからどうか俺に力を貸してくれ)
亡くなった相棒の事を思い浮かべながらリクは酒場にてマリアを殺す手段を考える。この国でマリア以上に恐ろしい存在はおらず、彼女がいなくなればもう盗賊ギルドを脅かす存在は消え去る。
この国一番の魔術師にして国内に暮らす魔術師から尊敬されるマリアは国王よりも厄介な存在であり、特に最近は魔法学園の卒業者で構成された「黄金の鷹」なる組織は盗賊ギルドにとっても脅威と成り得る存在になりかけていた。
「か、頭!!大変です、また奴等に仲間がやられました!!」
「……落ち着け、何があった?」
「そ、それが……俺達が商団を襲おうとした時、黄金の鷹に所属する連中が護衛に付いていて仲間が10人もやられました。幸い、捕まった奴はいませんが……」
「ふざけるなっ!!」
「ひいっ!?」
部下からの報告を受けてリクは怒りのあまりに机を叩き、最近は黄金の鷹の活躍によって盗賊稼業が捗らない。他の七影も黄金の鷹に苦しめられており、今では黄金の鷹は冒険者ギルドよりも厄介な組織と化していた。
(あの女、また厄介な組織を作り上げやがって……やはり早々に始末するしかない)
リクはこれ以上にマリアを野放しにすると盗賊ギルドに未来はないと判断し、彼はどんな手を使ってでもマリアを殺す事を決意する。そのためには彼は魔法学園の生徒の一人を狙う。
「おい、今すぐに奴等を呼び戻せ」
「奴等?誰の事ですか?」
「……獣牙団に決まっているだろう」
「じゅ、獣牙団!?お頭、正気ですか!?」
獣牙団の名前を口にしたリクに部下の男は信じられない表情を浮かべ、リク本人も自分がとんでもない事を口にしている事は理解していた。それでもこの状況を打破するためには獣牙団の存在が必要不可欠だと判断し、部下に呼び戻すように伝えた。
「奴等は盗賊ギルドの中でも最強最悪の部隊だ。奴等を使ってこの女を連れ出してこい」
「お頭、ですが奴等は……」
「分かっている、金はいくらでも用意すると伝えろ」
「へ、へい……」
リクの部下は獣牙団を連れてくるためにその場を後にした。獣牙団は盗賊ギルドに所属する傭兵団だったが、その力はあまりにも危険過ぎて盗賊ギルドさえも警戒している。
シチが盗賊ギルド内の最強の暗殺者ならば獣牙団は最強の戦闘集団であり、彼等はかつていくつもの村を滅ぼす残虐な殺人鬼集団だった。国は彼等を殺すために軍隊を送り込んだ事もあるが、結局は討伐は失敗に終わった。
獣牙団は現在は王都から離れた場所に存在する山岳地帯に暮らしており、彼等は自分達の里を形成している。表向きは盗賊ギルドに服従しているが、実際の所は七影の命令であろうと多額の報酬を用意しないと動こうとはしない。
(あの獣どもを動かすには相当な金を使う事になるが……マリアを殺せるのならば安い話だ)
王都に暮らす盗賊ギルドの人間はマリアの存在を恐れているが、王都から遠く離れて世情も疎い獣牙団は何者も恐れない。彼等の力を借りればリクは魔法学園のある生徒を誘拐し、それを理由にマリアを誘き出して殺すつもりだった。
「奴を殺し、ついでに獣牙団も相打ちになれば最高の結果だがな……」
マリアと獣牙団を衝突させ、双方ともに始末する良い機会だとリクは判断し、彼は計画の成功を祈りながら酒を飲む――
※新作投稿しました。題名は「凡人の俺と幼馴染の勇者」です。よろしければお楽しみください!!
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