第281話 ネカの交渉
「ここ最近は魔物による被害も多発しており、冒険者や傭兵もあまり当てになりません。しかし、貴方様のように若くて実力を持つ魔術師様が用心棒として守って下さるのであればこれ以上に心強い事はありません。もしもよろしければお名前を明かして我が商会のために働いてくれませんか?」
「用心棒ですか……それはちょっと」
マオは魔法学園に通う生徒のため、用心棒など引き受けたら学業に専念できない。下手をすれば魔法学園を退学しなければならず、それだけは避けたい。
将来的にマオが魔術師として働く日も訪れるかもしれないが、今は魔法学園の生徒として他の生徒と共に魔法を学び、まだまだ自分の魔法の腕を磨きたいと考えたマオはネカの誘いを断る。
「すいません、僕にはまだやるべき事があるので用心棒として働く事はできません」
「そうですか……ですが、もしも御心変わりすれば我が商会は何時でも貴方様を迎え入れましょう。もしも私に用事があるときはこれをお持ちください。こちらを見せればすぐに私の元へ通せるようにしておきます」
ネカはマオに一枚の木札を差し出し、その木札には彼の紹介の
「分かりました。じゃあ、僕はそろそろ……」
「もうお戻りになられるのですか?」
「はい、ちょっと急がないといけないので……」
時間帯は夕方を迎え、マオはできるならば急いで魔法学園に戻る必要があった。最後にマオはネカに頭を下げると、部屋を退室して使用人に屋敷の外まで案内してもらう――
――マオが部屋から出た後、ネカは自室に戻って部下からの報告を待つ。彼はマオが屋敷を出た後、何処へ向かうのか部下へ尾行させる。マオを尾行すれば彼の正体が掴めるかと思ったが、戻ってきた部下は焦った表情を浮かべて頭を下げる。
「も、申し訳ございません!!」
「……いったいどうした?何があった?」
「それが……撒かれました」
部下の話によると途中まではマオに気付かれる事はなく尾行ができたらしいが、途中でマオは氷板に乗り込んで空を飛び、建物を乗り越えてしまったので姿を見失ってしまった事を正直に話す。
マオが氷板で移動する姿はネカも確認していたが、まさか彼が建物を飛び越える程の高さまで浮上する事ができるとは思わず、そんな乗り物に乗って移動する人間を尾行できるはずもないと判断して部下達を責めるような真似はしなかった。
「そうか……分かった。お前達はもう下がれ」
「は、はい……」
「申し訳ございませんでした……」
「失礼します……」
部下達を下がらせるとネカは椅子に座り込み、マオの正体を掴む事ができなかったのは残念に思う。しかし、彼の事は既に他の部下にも調査させており、その日の夜には手がかりを掴んだ部下が帰ってきた。
「ネカ様!!あの少年の正体が判明しました!!」
「本当か!?」
「はい、名前はマオといって魔法学園の生徒のようです!!度々、冒険者ギルドに赴いて魔物の素材を売却しているという情報を掴みました!!」
「やはり、魔法学園の生徒だったか……」
部下が掴んだ情報は冒険者ギルドにマオが定期的に立ち寄り、彼が魔物の素材を売って資金を稼ぎ、そのお金で遠く離れた場所に暮らしている両親に仕送りを送っている事まで判明した。
「調べたところ、どうも彼の指導を行っている教師というのが元冒険者で冒険者ギルドのギルドマスターとも古い仲のようです。その教師は黄金の鷹にも所属しているようです」
「黄金の鷹……あの魔法学園の学園長が作り出した組織か」
「どうしますか?正体が分かったのならば勧誘を続けますか?」
「いや……辞めておこう。この時期に魔法学園の生徒と接触するのはまずい」
魔法学園の生徒と判明した事でネカはマオに接触するのは避けた方がいいと判断し、彼としては惜しい人材だが魔法学園に通う生徒と知れば不用意に関わりを持つわけにはいかない。
魔法学園の学園長であるマリアは盗賊ギルドと対立関係にあり、盗賊ギルドが最も恐れる存在である。そのマリアの元にマオがいるとなれば流石にネカも彼を引き込むのは難しい。もしもマリアにマオと接触した事を知られればネカとしてもまずい。
「残念だがあの少年は諦めるしかあるまい……いや、待て。どうして彼は自分の素性を隠した?」
「え?いや、そこまでは……」
「ふむ、わざわざ正体を隠して行動していたという事は何か裏があるのかもしれんな。もう少し彼の事を詳しく調べておけ」
「はっ!!」
部下はネカの言葉に従い、引き続きマオの調査を行う。ネカはマオの実力を惜しみ、彼を自分の陣営に引き込めないかと模索する――
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