第276話 魚人再び
「あの……そういえばここで休んでも大丈夫なんですか?」
「え?どういう意味ですか?」
「だって、こんな場所で休んでいたら魔物に襲われるんじゃないですか?」
「ああ、平気ですよ。魔物除けの香を焚いているので嗅覚の鋭い魔物は近づけません」
商団と共に王都へ戻る事になったマオは彼等が魔物に襲われない理由を聞くと、魔物が苦手とする香りを放つ御香を焚いている事を知る。しかし、その話を聞いてマオはどうしてボアに襲われた時にその御香を使わなかったのか疑問を抱く。
「そんな御香があるんですか。でも、それならボアに襲われた時に使わなかったんですか」
「いえ、あの時も使っていましたよ。だけど奴等は追いかけてきたんです。不思議な話ですよね……」
馬車に乗っていた人間の話によるとボアから逃走中も魔物除けの香は炊いていたが効果はなかったらしく、もしもマオが助けなかったら大変な事になっていたという。
どうして嗅覚が鋭いボアに魔物除けの香は通じなかったのかは不明だが、考えられるとしたら馬車を追っていたボアは野生の魔物ではなく、魔物使いに操られていたので魔除けの香が効かなかった可能性もあった。
(あのボアの群れは魔物使いに操られていたから魔除けの香が効かなかったのかな。でも、また現れたら厄介だから早く王都へ戻らないかな……)
王都に戻る前に先ほどのボアの群れが追いついてきたら面倒なため、マオは早く商団が王都へ向かわないのかとやきもきする。だが、魔除けの香の話を聞いて商団が魚人が潜む川の傍で休んでいても襲われない理由を知れた。
(魔除けの香のお陰で魔物に襲われないか……そんな便利な物があるなら僕も今度からは買っておこうかな。あ、なんか洒落みたいになった……)
自分自身の考えに少し呆れながらもマオは川の様子を眺め、昨日はここで魚人が現れて襲われた事を思い出す。今回は魔除けの香があるので魔物に襲われる事はないはずだが、この時に彼の近くにいた使用人の会話を耳にする。
「そういえば城下町で聞いたあの噂、本当かな?」
「噂?どの噂だ?」
「ほら、あれだよ。実はこの川には魚人が潜んでいるとか……」
「はは、そんな馬鹿なことがあるか。あいつらは海にしか現れないんだよ」
「えっ?」
使用人達の言葉にマオは呆気に取られ、彼等に顔を向けたマオは噂の内容を問い質す。
「あの、それどういう意味ですか?」
「あ、聞こえちゃいました?すいませんね、こいつが馬鹿な事を言い出して……」
「いや、だって本当に聞いたんだって!!この間に冒険者の友達から川の方で鮫か何かに齧られたような巨人族の死体が上がってたって!!もしかしたら魚人の仕業かもしれないって言ってたんですよ!!」
「そんな馬鹿な話があるか。お前はからかわれたんだよ」
「魚人がこんな場所にいるはずないだろ」
「ははははっ!!そりゃ面白いな!!」
友人の冒険者から聞いたという男の言葉に他の者たちは笑い声をあげるが、マオとしては彼の話を笑う事はできなかった。なぜならば男の話は本当であり、この川には魚人が住み着いている。
魚人は本来は海に生息する魔物のため、ここにいるはずがない。しかし、実際にマオは深夜にこの川で魚人と遭遇した。その話を彼がしようとした時に近くで悲鳴が上がった。
「ぎゃあああっ!?」
「な、何だ!?」
「おい、どうし……うわぁあああっ!?」
「えっ!?」
悲鳴が上がった方向に全員が視線を向けると、そこには川の傍で桶を手にした男が腰を抜かしていた。恐らくは水を汲むつもりだったのだろうが、男の目の前には水面から顔を出す鮫の姿が映し出された。
「シャアアアッ!!」
「ぎょ、魚人だぁっ!?」
「な、なんでこんな所に!?」
「どうした、何の騒ぎだ!!」
魚人が出現した事で使用人は悲鳴を上げ、馬車の中に籠っていたネカも顔を出す。彼は魚人の姿を見て驚愕の表情を浮かべ、一方でマオは魚人の前で腰を抜かした男性を助けるために動く。
「早く離れて!!」
「うわわっ!?」
「シャアアアッ!!」
桶を手放した男は魚人から逃げようとするが、腰が抜けたせいで上手く走れない。そんな男に魚人は腕を伸ばし、足を掴んで川の中に引きずり込もうとした。
「シャアアッ!!」
「うぎゃあああっ!?」
「いかん!!早く助けろ!!」
「た、助けろと言われても……」
「ど、どうすれば!?」
商団の中には武器を携帯する人間も多かったが、相手が魚人となるとしり込みして動けない。魚人は恐ろしい容貌をしており、その迫力だけで近寄りがたい。
しかし、他の人間が恐怖で動けない中でマオは即座に捕まっている人間を助けるために動き出す。彼は三又の杖を取り出すと魚人に目掛けて攻撃を仕掛けた。
「散弾!!」
「シャアッ!?」
「うわぁっ!?」
三つの先端から三つの氷弾を同時に発射したマオは魚人の背中に当てた。魚人は氷弾を受けて怯み、この時に掴んでいた男の足を手放す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます