第247話 傷つけられた誇り

「ふざけるな!!」

『っ!?』



床に小杖を叩き付けたリオンに三人は驚き、彼は興奮した様子で床に散らばった小杖の残骸を睨みつけた。それを見たマオは衝撃を受け、魔術師であるリオンが杖を自らの手で壊した事が信じられなかった。



(杖を壊すなんて……)



魔術師にとっては杖はただの武器ではなく、自らの魔力を魔法に変換する大切な道具である。それをリオンは自分の手で壊した事が信じられず、バルトも戸惑った様子で告げる。



「お、お前……いくらなんでもそれはないだろう。自分の杖を壊すなんて」

「……こんな物、今の俺には必要ない」

「な、何だと?」



自ら壊した杖を見下ろしたリオンは鼻を鳴らし、その彼の態度にマオとバルトは戸惑う。しかし、この時にミイナは彼に近付くと腕を振りかざす。



「ていっ」

「うぐっ!?」

「ミ、ミイナ!?」

「おい、何してんだ!?」



唐突にミイナはリオンを平手打ちすると、慌てて他の二人も駆けつけて彼女を抑えた。一方でリオンは自分を殴りつけたミイナに唖然とするが、彼女はそんなリオンに不機嫌そうに伝えた。



「自分の杖を壊すなんて魔術師として失格……今の貴方は魔術師を名乗る資格なんてない」

「ミイナ……」

「……気持ちは分かるけどよ」

「…………」



ミイナの言葉にリオンは言い返さず、殴られた頬に手を伸ばす。彼は改めて杖の残骸を見下ろし、その破片の一つを拾い上げて覗き込む。


小杖は完全に砕けてしまって使い物にはならず、リオンは破片を握りしめるとマオ達に向かい合う。まだ何か突っかかるつもりかとマオ達は警戒すると、リオンは罰が悪そうな表情を浮かべて伝えた。



「強くなったな」

「えっ……」

「……お前はもう魔術師として俺を越えた」



リオンはマオに賞賛の言葉を与えると、そのまま彼は黙って背中を向けて立ち去る。そんな彼をマオ達は見送ると、マオは床に散らばった小杖の破片に視線を向けて呟く。



「リオン……」



破片を拾い上げながらマオはリオンの名前を呟き、彼がいったいどうしてしまったのかと心配する――






――マオ達の元へ離れたリオンは人気のない廊下に移動すると、彼は拾い上げた小杖の破片に視線を向け、力強く握りしめる。あまりに強く握りしめたせいで血が滲み、彼は悔し気な表情を浮かべた。



(負けた……この僕が、あのマオに!!)



リオンは自分が敗北した事に悔しさを覚え、彼は今までに一度も同世代の魔術師に負けた事はなかった。リオンは昔から魔術師の才能を高く評価され、魔法学園に入学した時点で三年生の中では最高の腕を誇るバルトにも勝利した。


同年代の魔術師に敗れた事もショックだったが、彼が負けたのはよりにもよって自分がかつて「落ちこぼれ」と評した相手であるマオだった。最初に出会った時のマオは氷の欠片を生み出す事にも苦労していたが、再会した彼は信じられない程に成長していた。



(まだ一年も経っていないんだぞ!!それなのにあいつは何処まで……)



マオと別れてから数か月の間、リオンも一日たりとも鍛錬を欠かさずに行ってきた。それにも関わらずにマオが自分以上に成長して魔術師として大成しようとしている事実に彼は悔しく思う。



「いったいあいつに何があった……!?」



これまでのリオンはマオが魔術師として自分を追い抜く存在になるとは夢にも思わなかった。バルルからの手紙で彼が成長している事は知っていたが、それでもまさか自分が敵わない程の存在にまで成長しているとは夢にも思わず、リオンは考え込む。



「お前とはここまでだ」



拾い上げた小杖の破片をリオンは見つめ、彼はまるでと決別するかのように窓の外に破片を放り込む。そして教室に戻ると、彼は自分の席に置いて来た剣を取り上げる。



「俺はもう……魔術師にはなれない」



兄の形見である剣を手にしたリオンは刃を抜き、自分は魔術師ではない事を再認識する。今回の一件でリオンは魔術師の道を閉ざし、魔法剣士になる道を選ぶ――

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