第210話 タンの末路
「ふぃ~久々に食ったね」
「師匠、もう大丈夫なんですか?というか起きたばかりでそんなに食べて……」
「平気だって、怪我自体はとっくの昔に治ってたからね」
飯を食べ終わるとバルルはベッドから離れて身体を伸ばす。怪我自体は治ったが、彼女は今まで意識不明の重体だった。しかし、目を覚まして栄養のある物を食べた事で彼女は元気を取り戻す。
「よいしょっと……流石に身体が鈍ったね、しばらくの間は魔物狩りは控えないとね」
「それで何があったのか教えてもらえるかしら?目を覚ましたら警備兵も話を伺いたいそうよ」
「たくっ、面倒だね……」
バルルは自分が倒れるまでの過程を全て話すと、マオは予想通りに自分が倒したエルフの女性の正体が「冒険者狩り」なる存在だと知る。同時に話を聞き終えたマリアは先日に発見されたエルフの女性の死体と特徴が一致している事から冒険者狩りは本当に死んだ事を確信する。
「どうやら発見された死体は貴女を襲った犯人と同一人物のようね」
「死体!?死んでたのかい?」
「ええ、と言っても何者かと交戦した痕跡は残っているけど、死体を検死した結果から自殺した可能性が高いらしいわ」
「自殺……」
「恐らくは何者かと戦闘の際中に自分が勝てないと判断して自殺したのね。捕まれば自分が知るかぎりの情報を吐かせようとされるかもしれない、だから自害して情報漏洩を避けたと考えるべきね」
「……盗賊ギルドのやり口だね。くそっ、やっぱり奴等が関わっていたのかい」
「「…………」」
二人の話を聞いていたマオとミイナは黙り込み、結果的にとはいえ冒険者狩りが自害した理由はマオ達にもある。マオが冒険者狩りを拘束しなければ相手も命まで断つ事はしなかったかもしれない。しかし、あの状況で止める暇などなく、そもそもマオが勝たなければ今頃は二人も殺されていた。
盗賊ギルドに暗殺者に仕立て上げられた人間は任務に失敗した場合、あるいは敵に追い詰められると自ら命を絶つ事で情報漏洩を防ぐ。非情な手段ではあるがこれ以上に有効的な方法はなく、盗賊ギルドが未だに壊滅されない理由でもある。
「先生、盗賊ギルドの動きは何か掴めたかい?」
「ええ、実は教師の中で怪しい動きをしていた人間がいたの。貴方も良く知っているわね」
「まさかタンが!?」
「どうやらあの男は貴女と一部の生徒の情報を盗賊ギルドに流していた様ね。迂闊だったわ、まさかあの男が私を敵に回す度胸があるなんて……」
「タン先生がそんな事を……」
「バルトが知ったら驚きそう」
タンが内密に学園の教師と生徒の情報を流していた事は既に判明しており、現在は行方をくらませている事が判明した。マリアはこのまま彼を逃すつもりはなく、捕まえる事を約束した。
「タンの事は任せなさい。私の信頼する魔術師を既に派遣しているわ。捕まるのも時間の問題でしょう」
「先生がそう言うならあたしから言う事はないよ。ああ、でもあいつを捕まえたら一発ぶん殴ってやろうかね」
「そうね、貴女にはそれだけの権利があるわ。貴方達も師を危険に合わせた相手なのだから遠慮する事はないわよ」
「なら私は爪を剥ぐ」
「い、意外と恐ろしい事を考えるねミイナ……」
さらりと恐ろし気な言葉を告げるミイナにマオは引き気味になるが、タンがバルルの情報を盗賊ギルドに流していたと知って内心では怒りを抱く。盗賊ギルドの暗殺者がバルルを狙ったのはタンのせいで間違いなく、もしかしたら今までの恨みを晴らすためにタンは盗賊ギルドと手を組んだ可能性もあった。
もしもタンがバルルを盗賊ギルドに殺させようとしたのならばマオも許す事はできず、彼に怒りをぶつけるつもりだった。しかし、マオ達の願いは叶う事はなく、この数時間後にタンはあまりにも無残な姿で発見される――
――同時刻、タンは椅子に括り付けられて目隠しをした状態で猿轡もされていた。見る事も喋る事も動く事もできないタンができる事は聞く事だけだった。
「……シチが死んだ。何者かに殺された。これはお前の仕業か?」
「むううっ!?」
タンの耳に届いたのはリクという名前の男であり、盗賊ギルドの幹部を務めている。リクは拘束した状態のタンに話しかけ、彼の膝に容赦なく短剣を突き刺す。
「ふんっ!!」
「むぐぅうううっ!?」
短剣が膝に突き刺さり、更に突き刺した状態から力ずくで引き抜かれた事で血が噴き出す。あまりの痛みにタンは絶叫するが猿轡のせいで音は外に漏れず、リクは短剣から滴るタンの血を彼の頭に振りかける。
「お前の流した情報は偽物だった。あの
「ふぐぅうっ……!?」
「最初からお前は嵌められていたという事だ……そしてまんまと俺達も裏をかかれた」
リクは忌々し気な表情を浮かべてタンの首元を掴み、恐るべき握力で握りしめる。タンは苦し気な表情を浮かべ、必死にもがこうとするが椅子に括り付けられた状態では身動きすらできず、やがて喉が完全に潰されて死を迎えた。
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