第209話 忘れるな

「うがぁあああっ!?」

「それ以上に暴れたら本当に腕が千切れるぞ!!」



腕が負傷した状態で拘束された冒険者狩りの悲鳴が響き渡り、その間にもマオは冒険者狩りが落とした杖を拾い上げる。杖がなければ冒険者狩りは何もできず、腕を拘束している以上は逃げる事もできない。



「ミイナ、大丈夫?」

「平気……さっき、回復薬をかけたから」



ミイナはマオが戦闘の際中に所有していた回復薬を使って怪我を治してたらしく、彼女は脇腹を抑えながらも立ち上がる。ミイナの安全を確認したマオは安堵するが、空中に浮かんだ冒険者狩りを見て冷や汗を流す。



「こいつ、どうしよう」

「多分、もう少ししたら警備兵がくるはずだから引き渡すしかない」

「そうだね」

「うぐぅっ……!!」



大分騒いだので警備兵が間もなくマオ達のいる路地裏に訪れると思われ、その時はマオ達は冒険者狩りを引き渡す事にした。しかし、冒険者狩りは空中に浮かんだ状態でマオ達を睨みつけ、初めて彼等に話しかける。



「これで終わりだと言ったな!?違う、これは始まりだ!!」

「始まり?」

「お前は……盗賊ギルドを敵に回した。覚えておけ、必ず同胞がお前を殺す!!」

「なっ!?」



右腕を拘束された状態の冒険者狩りは左腕を懐に伸ばし、隠し持っていた短剣を取り出す。まさかまだ抗う気なのかとマオは思ったが、何を考えたのか冒険者狩りは自分の首元に刃を突きつけた。



「盗賊ギルドを舐めるな……!!」

「なっ……や、止めろ!?」

「マオ、目を閉じて!!」

「ぐああっ!!」



冒険者狩りは自分の首元に刃を突き刺し、大量の血飛沫が空中に発散した。ミイナは咄嗟にマオに抱きついて彼の目を塞ぐが、冒険者狩りが自害する光景はマオは目にしてしまう。


自害する光景を見た事でマオの精神が乱れてしまい、冒険者狩りを拘束していた氷板の拘束が解除されてが地面に倒れ込む。それを確認したマオとミイナは顔色を青ざめ、運が悪い事に街道から足音が鳴り響く。



「ここから声が聞こえたぞ!!」

「いったい何があった!?」

「探せ!!」



路地裏に徐々に兵士の声と足音が近付き、それに気づいたミイナは顔色を青ざめるマオの腕を掴む。ここに残れば自分達があらぬ疑いをかけられると判断したミイナはマオに逃げるように促す。



「マオ!!しっかりして、急いでここから離れないと私達が殺したと思われる!!」

「えっ……で、でも」

「今は言うことを聞いて!!ほら、早く付いて来て!!」

「……う、うん」



冒険者狩りが自害する光景を見た事で放心状態となっていたマオだったが、ミイナの言葉に従って彼は冒険者狩りを拘束していた氷板を利用して浮上した。二人は警備兵が駆けつける前にその場を後にした――






――翌日、王都では冒険者狩りの被害者がまた現れた事と、しかも今度は冒険者狩りの特徴と一致する女性が一緒に死んでいた事が判明して王都の人々は騒然とする。殺されたのは情報屋を自称する男性と、その男性の傍で死んでいたエルフの女性だった。


男性の方はこれまでの冒険者狩りの被害者と同じく、胸元の部分に十字の傷が原因で死亡していた。しかし、その男性が死んだのと同じ場所でエルフの女性の死体も発見される。こちらの死体は右肩と両足に傷を負い、更には首元に短剣が突き刺さった状態で死んでいた。


これまでの調査から冒険者狩りの正体はエルフの女性だと判明したが、殺人現場に犯人と同じ特徴を持つ女性が死んでいた事で警備兵は死亡した女性の正体が冒険者狩りではないかと怪しむ。


もしも女性の正体が冒険者狩りだとした場合、何者かが彼女を追い詰めた事になる。死体を調べた結果、女性は自害したと可能性が高いと判明した。しかし、そうなると彼女の右肩と両足の傷の理由が分からず、もしかしたら第三者が彼女に傷を負わせ、現場を後にした可能性もある。


警備兵が到着した時には死体の側には人の姿はないが、建物の壁や地面には魔法を使用した痕跡は残っていた。恐らくは風属性の魔法が使用されたと思われるが、現場には他のは発見されていない。


結局は殺された女性が冒険者狩りである証拠は見つからなかったが、この日を境に冒険者狩りの被害は止まった。事件から一週間が経過しても何も起きず、二週間も経過したころには警備兵も見回りを中止させて王都はいつもの日常が戻ってきた――






――事件が発生してから三週間後、意識を失っていたバルルが目を覚ましたという報告がマオ達の元に届いた。二人は学園長に連れられてバルルの元に向かうと、病室にて元気よく飯を喰らう彼女の姿があった。



「師匠!!無事ですか!?」

「バルル、生きてる?」

「んんっ!?ちょっとまひな!!こっちは昼飯を食ってんだからさ!!」

「……元気そうで何よりだわ」



マオ達が訪れたにも関わらずにバルルは飯を喰らう事に夢中でそんな彼女に学園長は呆れた表情を浮かべ、しばらくの間はバルルが飯を食べ終わるまで待つ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る