第208話 氷VS風
「私の事はいいから敵に集中して……しばらくは動けそうにない」
「わ、分かった。後ろに隠れてて」
先ほどの魔法でミイナは身体が切れる事はなかったが、それでも衝撃を完全に防いだわけではなく、彼女はまともに動ける状態ではなかった。恐らくは肋骨に罅が入っており、もう戦う事はできない。
ミイナを後ろに下がらせるとマオは冒険者狩りと向かい合い、相手は折れた腕に小瓶を注いでいた。小瓶の中身は回復薬らしく、マオの氷弾で折られた腕を治療していた。
(あんな怪我をして顔色を全く変えないなんて……)
先ほどのマオの氷弾による攻撃は冒険者狩りに損傷を与えていたが、腕が折られていても冒険者狩りは全く動じず、死んだふりをして近付いてきたミイナに攻撃を仕掛けた。
もしもミイナがいなければマオは最初の攻撃で冒険者狩りを倒したと思い込み、不用意に接近した所を反撃を受けて死んでいたかもしれない。そう考えると背筋が凍り付き、改めて恐るべき暗殺者と戦っている事を思い知る。
(油断するな!!今度は確実に仕留める!!)
マオは先ほどと同じく氷弾を作り出し、今度こそ完全に動けなくなるまで攻撃を仕掛けようとした。しかし、それを予測していたかのように冒険者狩りは杖を構えると、マオが氷弾を繰り出すよりも先に魔法を放つ。
「スラッシュ!!」
「うわっ……
冒険者狩りが魔法を放った瞬間、マオも三又の杖を構えて同時に氷弾を放つ。3発の氷弾が十字型の風の斬撃に触れると、軌道が反らされてあらぬ方向に飛び散ってしまう。
「マオ、危ない!!」
「うわっ!?」
後ろに隠れていたミイナが咄嗟にマオに足払いを行い、それが功を奏して氷弾を弾き飛ばした十字型の風の斬撃を躱す事ができた。二人の真上を通過した風の斬撃は数メートルほど離れた場所で消失した。
(あ、危なかった……くそっ、ただの氷弾じゃ勝てないのか!!)
三つの氷弾が相手の魔法に簡単に弾き飛ばされた光景を見てマオは悔しく思い、やはりバルトとの戦闘の時の様にマオは「氷柱弾」のような魔法でなければ中級魔法には対抗できないと判断した。
一方で冒険者狩りの方は息を荒げた状態でマオ達を見下ろし、ここまでに既に冒険者狩りは3回も中級魔法を繰り出している。しかも先のマオの攻撃で負傷したのは腕だけではなく、両足も少なくとも骨が折れているかあるいは罅が入った状態だった。表面上は無表情を装うが、着実に冒険者狩りも消耗している。
(あんなに苦しそうな表情をして……相手も余裕はないんだ)
次の攻撃で決めなければマオも冒険者狩りも後はなく、マオは立ち上がると冒険者狩りに杖を構えた。お互いに杖を向け合いながらどのように攻撃を繰り出すのかを考え、先手を打ったのはマオだった。
(あの時と同じように!!)
赤毛熊を倒したときのようにマオは氷弾を作り出すと、風属性の魔石を利用して氷弾に風の魔力を送り込む。氷柱弾ほどの大きさはないが魔力の消耗は抑えられ、速射性に優れた魔法に勝負をかける。
「貫け!!」
「スラッシュ!!」
マオが氷弾を放つのと同時に冒険者狩りも十字型の風の斬撃を繰り出す。先ほどは三つの氷弾を受けても全くものともしなかった風の斬撃だったが、今回は回転を高める事で貫通力を増した氷弾が正面から突っ込む。
十字型の風の斬撃に氷弾が衝突した瞬間、今度は吹き飛ばされずに逆に風の魔力を蹴散らしながら氷弾は冒険者狩りの元へ向かう。路地裏内に突風が発生し、氷弾は風の斬撃を打ち破って冒険者狩りの右肩を貫く。
「あうっ!?」
「くっ……ここだっ!!」
右肩を貫かれた事で冒険者狩りは悲鳴を上げると、その声を聞いたマオは続けて杖を構える。マオが生み出した魔法は相手に止めを刺す攻撃魔法ではなく、移動用に使用していた
板状の氷塊が迫ると右肩を撃ち抜かれて自由に動かせなくなった右腕に張り付き、そこからさらにわっかを半分に切ったような形をした2つの氷塊が迫る。冒険者狩りの右腕に張り付いた氷板にわっかが嵌め込むと、右腕が拘束された冒険者狩りは杖を落とす。
「うあっ!?」
「はあっ、はあっ……」
「くぅっ……このっ!!」
冒険者狩りは自分の右腕を拘束する氷板を無理やりに引き剥がそうとしたがびくともせず、拘束されていない方の腕で氷板を破壊しようとするが、今のマオの作り出す氷塊は鋼鉄以上の硬度を誇るので生身の拳で破壊する事は不可能に等しい。
「もう、終わりだ」
「あぁああああっ!!」
半狂乱になって氷板に拳を叩き付ける冒険者狩りにマオは一言告げると、冒険者狩りは彼を睨みつけて隠し持っていた短剣を取り出す。しかし、それを見たマオは杖を振るって氷板を浮上させると、腕を引っ張られる形で空中に浮き上がった冒険者狩りは悲鳴を上げる。
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