第203話 倒れたドルトン

「ドルトンさん!?」

「マオ、窓を開けて!!」



倒れているドルトンを見てマオは驚きの声を上げ、ミイナはすぐに窓から中に入るように促す。彼女の言葉に頷いてマオは窓を開けようとしたが、当然ながら窓には鍵が欠けられていた。


無理やり壊す事もできるがそれだと近隣の住民に窓を破壊した音を聞かれる恐れがある。そこでマオは窓の隙間を確認すると、小杖を取り出して魔法を唱えた。



「これをこうして……よしっ!!」

「おおっ」



以前にマオは氷の魔法で自分の部屋の鍵を掛けた事があるが、今回の場合は逆で窓の内側に氷を作り出し、それを上手く利用して部屋の内鍵を解除した。窓を開くとマオとミイナは建物の中に乗り込み、倒れているドルトンの様子を伺う。



「ドルトンさん!!しっかりして下さい!!」

「ドルト……ン?」



倒れているドルトンにマオは跪くが、部屋の中に入った途端にミイナは表情を歪ませ、彼女は嫌そうに鼻を抑えた。そんな彼女の態度に気付かずにマオはドルトンの様子を確かめようとすると、強烈な酒の臭いを感じ取る。



「うっ!?」

「これは……」

「ふごぉおおっ……むにゃっ、俺はまだ飲めるぞうっ……」



倒れていたドルトンは寝返りすると、彼の顔が真っ赤でしかも空の空き瓶を抱きしめた状態で眠っていた事が判明した。どうやら倒れていた理由は酒に酔っ払って眠り込んでいたらしく、心配していた二人は呆れてしまう。



「泥酔してる……」

「心配して損した」



どうやらドルトンは酒に酔っ払っていただけらしく、ベッドにも戻らずに床の上で眠りこけていたらしい。それを確かめたマオとミイナは呆れと安堵が入り混じった表情を浮かべ、仕方なく彼に肩を貸してやる。



「ほら、ドルトンさん!!こんな所で寝てたら風邪を引きますよ」

「ひっくっ……うるせえ、誰だお前等!?」

「私達の事を忘れたの?」

「ああん?何だって……ああ、誰かと思えばバルルのガキどもじゃねえか。どうした、また新しい装備を作ってほしいのか?」



完全に意識を失っていたわけではなく、ドルトンは二人の顔を見ると朗らかな笑みを浮かべる。普通に考えればこんな夜中に子供達だけで訪れれば少しは怪しむはずだが、酒のせいで正常な判断ができない彼は上機嫌に話しかけてきた。


泥酔状態ではあるがドルトンが自分達を見ても怪しまない事にマオとミイナは顔を見合わせ、もしかしたら都合がいいかもしれないと判断する。今の彼ならば情報を引き出す事は難しくはなく、二人はこの機会を逃さずに色々と尋ねた。



「ドルトンさん、城下町の様子はどんな感じですか?」

「ああん、どういう意味だ?」

「例の冒険者狩り、もう捕まった?」

「けっ、その話か……まだ捕まってねえよ。ぼんくらの警備兵と冒険者共が毎日探し回っているが、未だに進展がねえないらしい。うちの客がそうぼやいていたよ」



ドルトンの店に通う客は殆ど冒険者であるため、調査を行っている人間から話を聞いているとすれば信憑性は高い。二人はまだ警備兵と冒険者が冒険者狩りなる存在を見つけていない事を知り、続いて別の質問を行う。



「冒険者狩りの被害者はまた現れましたか?」

「いいや、まだだ。そういえばお前等、バルルの奴はどうしてる?あいつが簡単にくたばるたまじゃないのは知ってるが、大丈夫なのか?」

「あ、えっと……」

「大丈夫、直るまでは時間が掛かるけど平気だって言っていた」

「そうか……それならいいんだけどよ」



バルルを心配するドルトンに対してマオはどう答えるべきか悩んだが、ミイナが彼の代わりに応える。実際の所はバルルは未だに意識不明の重体だが、必ず目を覚ますと二人は信じており、敢えてドルトンを心配させないように言葉を選ぶ。



「それでお前さんらは何しに来たんだ?いや待て……分かったぞ」

「な、何が分かったんですか?」



自分の元にマオとミイナが訪れた事にドルトンは不思議がったが、彼は何か思い出したように二人から離れる。まさか正気に戻ってこんな時間帯に訪れたマオとミイナに説教するつもりかと思ったが、ドルトンは笑みを浮かべて机の上を指差す。



「バルルに頼まれていた物を取りに来たんだな?」

「え?」

「あいつも弟子思いの奴だな。お前さん達のためにこんな物まで用意するとは……」

「それは?」



机の上には新しい魔法腕輪とベルトが置かれていた。魔法腕輪はミイナの物だと思われるが、ベルトの方は魔石を嵌め込む窪みが存在した。



「お前等が師匠の所に行く少し前にバルルの奴がここへきて仕事を頼んできたんだよ。嬢ちゃんには新しい魔法腕輪と、坊主には魔石を装着できるベルトだ」

「師匠が……」

「どうして……」

「あいつは面倒見が良いからな。お前等も師匠のためにいつかしてやれよ……ふああっ、流石に飲み過ぎたな。俺はもう寝る、そいつは持ち返っていいぞ」



バルルに頼まれていた装備品を託すとドルトンは自分の部屋へと戻り、マオとミイナはバルルが制作を依頼していた装備品を手にして目元を潤ませる。しかし、今は感動している暇はなく、新しい装備品を身に付けてドルトンに怪しまれる前に離れた――





※今日の投稿が遅れたのでもう1話投稿します。

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