第115話 連携

「バルル、もしもマオが魔術痕を刻んだらどうなる?杖無しでも魔法を使えるようになるの?」

「いや……魔術痕は基本的には魔拳士以外の奴が刻むのはお勧めしないね。今まで杖で魔法を使ってきた奴が魔術痕を刻んでも思い通りに魔法を発現させる事はできない」

「え、そうなんですか?」

「魔術師の杖は魔力をさせて先端部から撃ち込む代物だからね。一方で魔法腕輪や魔術痕の場合は身体から魔力を放出させる機能を持っている。杖も腕輪も魔力を操るという点は同じだけど、根本的には違う武器なんだよ」



魔術師の杖は魔力を杖その物に収束させ、それを魔法として放つ。一方で魔法腕輪の場合は体外に魔力を放出させる機能を持ち合わせているため、マオのような魔術師は魔法腕輪や魔術痕を刻んだとしても上手く扱える保証はない。


逆に言えばミイナのような魔拳士は魔法腕輪や魔術痕とは相性は良いが、杖などの武器で戦う事は不得手にしている。ミイナは杖を使用しても上手く魔法は扱えず、バルルでさえも杖を使って扱える魔法は火属性の下級魔法ファイアしか使用できない。



「ミイナ、あんたが魔術痕を刻んで欲しいのなら腕の良い彫り師を紹介してやるよ。あんたならきっとあたしよりも早く魔法の力を扱えるようになると思うしね」

「……遠慮しておく、痛そうだから」

「たく、最近のガキは根性がないね……さあ、そろそろ帰るよ。そうそう、魔物の素材はしっかりと持っておきな」

「これ、どうするんですか?」

「勿論売りに行くのさ。魔物の素材はそこそこの値段で買い取ってくれるからね。これからは毎日外に出向いて魔物を倒して金を稼ぐんだよ」

「ええっ!?」



バルルの発言にマオは驚き、彼女の言っていた「子供でも金を稼げる方法」がまさか魔物を倒して素材を回収し、それを売却する事で金を得るとは思いもしなかった。



「文句を言うんじゃないよ、この方法なら生徒の魔法の鍛錬という名目で金も稼げるんだ。それにあんたらが強くなればもっと強い魔物を倒して金を稼ぐ事もできるんだ。そうすれば両親の仕送りも増やす事ができるだろう?」

「それは……そうかもしれませんけど」

「安心しな、いざという時はあたしが守ってやるさ。オークだろうがコボルトだろうがあたしの手にかかればイチコロだからね」

「頼りになる」



どんな魔物が来ようとバルルは二人を守る事を約束し、そんな彼女の言葉にマオとミイナは安心感を抱く。しかし、この時の彼女の考えた方法が後に大きな問題になる事をこの時の二人はまだ知らない――






――この日からマオ達は授業という名目で休日を除いた日は王都の外に出向き、草原に生息する魔物を倒す日々を送る。最初の内は魔物との戦闘に緊張していたマオとミイナだったが、連日のように戦わされていくうちに戦闘に慣れていく。


最初の頃は二人は順番に魔物と戦っていたが、戦闘が慣れていくと一緒に戦う機会も多くなり、連携して魔物を倒す。バルルも時々だが戦闘に加わる事もあったが、基本的に彼女は二人が窮地に陥らない限りは助けには向かわない。



「ガアアッ!!」

「うわぁっ!?」

「ていっ!!」



コボルトにマオが襲われそうになった瞬間、ミイナが駆けつけてコボルトの背後から蹴りを叩き込む。背中を強打したコボルトは痛みのあまりに攻撃を中断し、その隙を逃さずにマオは顔面に杖を構えて魔法を放つ。



氷弾バレット!!」

「アガァッ!?」

「……終わり」



氷弾を頭部に撃ち込まれたコボルトは地面に倒れ込み、そのまま完全に動かなくなった。それを確認したミイナは額の汗を拭うと、自分達の周囲に倒れているコボルトの群れの死骸を見下ろす。



「ふうっ……流石にきつかった」

「あ、ありがとう」

「気にしなくていい、マオもよく頑張った」

「よしよし、よくやったね。さあ、素材を回収して退散するよ」

「ガアアッ……!?」



少し離れた場所にはまだ生きているコボルトの顔面を鷲摑み、力ずくで押し倒すバルルの姿があった。コボルトは必死に彼女から逃れようとするが、バルルの右腕に炎の紋様が浮き上がり、彼女はコボルトを押し倒した状態で「魔拳」を発動させた。



「爆拳!!」

「ッ――!?」

「うわっ!?」

「にゃうっ!?」



コボルトの顔面を掴んだバルルの右手から「爆炎」が放たれ、コボルトの顔どころか上半身が吹き飛ぶ。その様子を見てバルルは煙を振り払い、上半身が吹き飛んだコボルトを見て頭を掻く。



「しまった……また調整を失敗ミスったね。悪い悪い、こいつから手に入った素材の代金はあたしが払うよ」

「い、いや……気にしないでください」

「相変わらず凄い威力」



バルルはミイナと同じく火属性の魔法を得意とするが、ミイナと異なる点は彼女の場合は腕に炎を纏って攻撃するのではなく、腕から炎を直接叩き込む。それが彼女の得意とする「爆拳」だった。

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