第98話 魔法金属の武器の特性

「もう逃がさんぞ、ガキ共!!」

「しまった!?」

「まさか、さっきの人を囮に!?」



賞金首の男が先ほど盗賊を投げたのはマオとミイナの注意を引くためであり、二人が投げ飛ばされた男に注目している間に賞金首の男は建物を飛び越えて屋根の上に移動を行う。


これまでは追いかけようとしてきた盗賊達が建物間を飛び越えようとした時、マオ達は攻撃して彼等を倒す事に成功した。しかし、賞金首の男は自らの部下を囮に利用して自分が建物に跳躍する事に成功した。



「くくくっ……二手に分かれて逃げようとしても無駄だ。さっきは加減したが、俺が本気で投げれば今度は避けられないぞ」

「なっ……あ、あれで手加減!?」

「……これだから力馬鹿の獣人族は嫌い」



先ほど盗賊を投げた時は賞金首の男は手加減をしていたと語り、絶対の自信に満ちたような態度にマオとミイナは彼が嘘をついているようには思えなかった。改めてマオは手配書に記された男の情報を思い出す。





――手配書に記されていた男の名前は「ガイル」かつて10人以上の冒険者を殺し、その中には銀級冒険者も含まれている。しかもこの男はミイナと同じく「魔拳士」らしく、尾行に気付いて部下達に逆にマオとミイナを追い詰める程の勘の鋭さと頭脳を持つ。





ガイルと向き合ったマオとミイナはそれぞれ身構えるが、この時にガイルは腰に手を伸ばして「鉤爪」を取り出す。彼は鉤爪を右腕に身に着けると、ミイナを見て口元に笑みを浮かべる。



「お前も魔拳士のようだが……奇遇だな、俺も魔拳士だ」

「……知ってる」

「くっ……」



鉤爪を装着した途端にガイルの気迫が強まり、彼は右腕を天に伸ばすと意識を集中させるように瞼を閉じる。視界を封じた今ならば攻撃を仕掛ける好機だが、マオとミイナは彼の迫力に気圧されて動けない。


右腕に魔力を集中させたガイルは笑みを浮かべると、鉤爪に電流が迸る。それを見たミイナは驚いた表情を浮かべ、マオはもすぐにガイルが「雷属性」の使い手だと見抜く。



「雷爪!!」

「マオ、気をつけて!!」

「うわっ!?」



ミイナは咄嗟にマオを突き飛ばすと彼女は炎爪を纏い、鉤爪に電流を纏ったガイルが迫ってきた。ミイナはマオを庇うために炎爪を構えるが、それを見たガイルは笑い声を上げながら攻撃を行う。



「馬鹿が!!」

「うにゃっ!?」

「ミイナ!?」



両手の爪を構えたミイナに大してガイルは容赦なく鉤爪を振り下ろし、彼女の炎の爪は一撃で掻き消されてしまう。ミイナは反射的に後ろに避けようとしたが、鉤爪に纏っていた電流が彼女を襲う。



「ミイナ、しっかりして……うわっ!?」

「ううっ……!?」

「くくくっ……迂闊に触れるとお前も感電するぞ」



電流を浴びたミイナは身体が麻痺して動けないらしく、彼女に触れようとしたマオも静電気のように弾かれてしまう。ガイルの攻撃は彼女の身体に直撃はしていないはずだが、爪に纏っていた電流がミイナの身体を感電させたのだ。


ミイナとガイルは二人とも魔力を爪に変換させるという点では同じ魔拳士ではあるが、ミイナが得意とするのは「火属性」に対してガイルは「雷属性」そして彼の場合は鉤爪自体に魔法の力を宿していた。



(ミイナは自分の既に魔力を纏わせて炎の爪を纏うけど……この男は鉤爪に魔力を流し込んで電流を生み出している。でも、それならどうしてこの男は平気なんだ!?)



ガイルが自分の鉤爪に魔力を送り込んでを行っているのは分かるが、そんな事をすれば鉤爪が熱を帯びてガイルの右腕が焼けてもおかしくはない。しかし、彼は余裕の笑みを浮かべていた。



(あの鉤爪に何か細工がしてあるのか?いや、待てよ……あの爪の色、前に何処かで見たような……そうだ!?)



鉤爪の刃の部分は緑色である事に気付いたマオはこの間に知り合った冒険者達を思い出す。バルルの古くからの知人である「トム」「ヤン」「クン」の三人も緑色の金属製の武器を持っていた。


トム達が所有していた武器は魔法金属の「ミスリル」と呼ばれる代物であり、並の金属よりも頑丈で耐久性も高く、しかもを持つ。恐らくはガイルの装備している鉤爪は魔法金属製であり、それが原因なのか彼は鉤爪に魔力を送り込んでも全く影響を受けていない。



(魔法耐性を持つ武器なら魔法に対抗できると師匠も言ってたような気がするけど、まさかミイナの炎爪が掻き消されたのはあの武器のせいなのか?)



ミイナの生み出した炎爪は鉤爪に掻き消されたのはガイルの雷爪が優れていたわけではなく、魔法耐性を持つ金属製の武器に触れたからだとマオは判断する。そうでもなければミイナが簡単に負けるはずがなく、マオはガイルを睨みつける。



「よくもミイナを……絶対に許さない!!」

「ほう、許さないと来たか。だが、お前のせいで俺も部下を全員失ってしまったからな……必ず捕まえて売り飛ばしてやる!!」

「くっ……!!」



互いに味方を失った二人は向かい合い、ここから先は頼れるのは自分だけだった。マオはミイナの様子を伺い、彼女が電流で麻痺しているだけで命に別状はない事を確かめると戦闘に集中する。

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