第88話 質と量

――その日の夕方、マオはミイナと共に教室に残っていた。バルルにしごかれたミイナは疲れた表情を浮かべてマオに膝枕してもらう。



「ううっ……疲れた」

「だ、大丈夫ですか?」

「大丈夫じゃない、だからもっと甘やかせて」

「ええっ……よ、よしよし?」



この数日の間にマオとミイナの距離は縮まり、今では膝枕も許す関係性になっていた。ミイナは自分の頭を撫でるマオにくすぐったそうな表情を浮かべ、その一方で女子とこのように接する事が初めてのマオは緊張してしまう。



(やっぱり、こうしてみると可愛いな……それに猫耳と尻尾も気持ちよさそう)



頭を撫でる際にマオは猫耳に触れ、試しに触れてみるとミイナはくすぐったそうな声を上げる。どうやら彼女の猫耳は敏感らしく、恥ずかし気な表情を浮かべてマオの顔を見上げた。



「んっ……そこは弱いからあんまり触らないで」

「あ、ご、ごめんなさい……」

「それと無理に敬語で話さなくていい、先輩といっても私達は友達だから遠慮しないでいい」

「う、うん……そうだね」



ミイナの言葉を聞いてマオはこれからは普通に彼女と話す事にした。マオはミイナの相手をしながらも昼間にバルルに言われた言葉を思い出し、これから自分がどうするべきかを考える。


バルルの告げた「質と量のどちらかを選べ」という言葉は文字通りに氷弾の質を上げるか、あるいは量を増やす方法を考えろという事だとはマオも理解していた。質とはを意味し、量とはを意味している。



(魔法の性能その物をあげるか、あるいは氷弾を作り出せる数を増やして対処するか……多分、このどっちかを選べと師匠は言ってるんだな)



魔法の性能を上げる方法は今の所はマオは思いつかないが、数を増やして攻撃する事は今の時点でも可能だった。昼間の戦闘ではマオはミイナに魔法を撃ち破られたが、もしも数を増やした状態で攻撃していた場合は展開は異なっていたかもしれない。



「ミイナ、もしも昼間の時に氷弾を何回も撃ち込んでいたらどうにかできる?」

「多分、できると思う。マオの氷弾は速いけど、次の氷弾を撃ち込む時に間があるから対処できる」

「なるほど……」



ミイナの言葉を聞いてマオは納得し、確かに彼女の言う通りに連続で氷弾を撃ち込む方法は得策ではないと思った。魔術師は一度魔法を使用した場合、次の魔法を使用する時に一瞬の間を置く必要がある。マオの場合も氷弾を一度撃ち込んだ後は次の氷弾を形成して撃ち込むのに多少の時間はかかってしまう。


今の段階ではマオはミイナに魔法を当てるには氷弾を連続して撃ち込む方法は通じず、それならば全く同時に複数の弾丸を撃ち込めばどうなるのかを問う。



「それなら5つの氷弾を同時に撃ち込んでも反応できる?」

「……やってみなければ分からない、無理そうだったらと思う」



深淵の森でマオはボアに襲われた時、ボアの突進を止めるために5つの氷弾を発射させて複数の箇所を攻撃した。このお陰で彼はこの方法のお陰でマオはボアの突進を止める事に成功したが、ミイナの場合は避ければ問題ないと答える。



(そうか、ミイナのように動きが早い相手は弾丸を避けて行動できるのか……)



昼間の時はバルルの指示でミイナはマオの氷弾を破壊したが、そもそも氷弾を破壊できるのならば避ける事も容易いはずだった。マオは相手が攻撃を避ける想定をしていなかった事を思い知らされ、増々悩んでしまう。



(多分、ミイナなら本当に避けられるんだろうな……となると数に拘るよりも質を上げる事に集中した方がいいのかな……でも、う〜ん……)



マオはバルルの助言を考え込み、自分が質と量のどちらを選ぶべきか悩む――






――翌日、考えがまとまらないマオは気分転換のために学園の外に出向く。今日は魔法学園も休日であるため、寮生の生徒は許可を貰えば外に出る事が許されていた。



「この徽章、やっぱり便利だな……」



本来であれば寮生は教師に事前に許可を貰わなければ学園外に出る事は許されないが、月の徽章を持つマオの場合は教師の許可を貰わなくても外に出る事が許された。久々に外に出たマオは今更ながらに自分が王都の城下町の事を良く知らない事に気付く。



(王都へ来てから大分経つけど、城下町の事は良く知らないな……この機会に色々と回ってみようかな?)



先日の試験合格の祝いの時にマオはバルルからお小遣いを貰っており、今の所は金に余裕はあった。しかし、担任の教師から生活費を受け取る事は問題になるかもしれず、この機会にマオは城下町を巡って自分がお金を稼げそうな場所がないのかを探す事にした。



(寮で暮らしている内は生活には困らないけど、いざという時にお金がないと困るかもしれないし……僕でもお金を稼げる方法を探さないと)



学生でしかも12才という年齢では働く場所があるのかどうかも怪しいが、今後の事を考えてマオは金銭を稼ぐ方法を見つける必要があった。もしも魔法を扱う杖が壊れた場合、生徒は自費で新しい杖を購入しなければならない規則のため、万が一の場合に備えてマオは機先を稼ぐ方法を探すために城下町を見て回る事にした。

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