第76話 新しい魔法の使い方
(回転を加えて……!!)
迫りくるオークに目掛けてマオは作り出した氷の塊に回転を加え、その顔面に目掛けて放つ。氷塊に高速回転を加えるのは「氷刃」を生み出した時から慣れており、1秒にも満たぬ時間でマオは回転を加えた氷の塊を放つ。
氷刃のように丸鋸のような形状に変化する余裕はなかったが、彼が生み出した氷塊は弾丸の如く横回転を加えた状態で放たれ、傷を負った状態のオークの頭部に的中した。
「はぁああああっ!!」
「プギャッ――!?」
マオが咄嗟に作り出した氷塊の大きさは数センチ程度だが、回転が加わった事で速度と威力が上昇し、オークの頭を貫通した。マオを襲い掛かろうとしたオークは白目を剥いて倒れ込む。
「はあっ、はあっ……」
「あんた、大丈夫かい!!」
「マオ、平気!?」
「な、何だ今のは……」
「い、いったい何が起きたんだ?」
倒れたオークをマオが見下ろすと、すぐに彼の元にバルルとミイナが駆けつける。その一方でトムとヤンは倒れたオークに視線を向け、彼等の目には急にオークがマオの前で倒れたようにしか見えなかった。
目の前で死んだオークを見下ろしてマオは身体を震わせ、自分の持っている小杖に視線を向けた。オークに襲われた瞬間、マオは無我夢中に魔法を発動させて攻撃を行ったが、その予想外の威力に戸惑う。
「あんた、何をしたんだい?後ろからだとよく見えなかったけど……こいつに攻撃したのかい?」
「それは……」
「二人とも、あれを見て」
バルルの質問にマオが答える前にミイナがオークの後ろにある樹木を指差すと、そこにはマオが先ほど生み出した氷の塊が樹の中にめり込んでいた。それを見たマオ達は驚き、改めてオークの死骸を見下ろす。
マオが生み出した氷塊はオークの頭部を貫通し、さらに後ろに存在した樹にめり込む。その威力の凄まじさにマオ自身が戸惑い、一方でバルルは樹にめり込んだ氷塊を見て冷や汗を流す。
「こいつはまた……とんでもない魔法の使い方を覚えたね」
「凄い……いったいどうやったの?」
「…………」
自分の小杖に視線を向けたままマオはなにも喋らず、そんな彼を二人は心配そうに覗き込むが、彼の表情を見て驚く。マオは小杖を見て笑みを浮かべ、新しい魔法の使い方を覚えた事に興奮している様子だった。
(今の魔法、練習すればもっと上手く使えるかもしれない!!)
先ほどまで死にかけていたにも関わらずにマオは新しい魔法の使い方を覚えた事に興奮し、先ほどの魔法を使った時の感覚を忘れないうちに急いで帰る事を提案する。
「師匠!!もう帰りましょう!!」
「えっ?いや、帰るってあんた……」
「大丈夫です!!もうここにいる魔物は怖くありません!!」
「……急にどうしたの?」
マオの言葉にバルルもミイナも戸惑うが、彼は一刻も早く王都に戻って魔法の練習をしたい事を告げようとした時、後ろの方から大声があがる。
「う、うわぁっ!?」
「て、敵襲だ!!」
「何だって!?」
「えっ!?」
「っ……!?」
聞こえてきたのはトム達の声であり、マオ達は振り返るとそこには武器を構えた二人と、彼等の前に立つオークが存在した。オークは先ほどマオが倒した個体よりは大きく、二人に襲い掛かろうと迫っていた。
「プギィイイイッ!!」
「うわっ!?」
「こ、こいつ!!」
オークの手には棍棒が握りしめられ、トム達に振り払う。その攻撃を後ろに下がって回避したトムがオークに斬りかかろうとしたが、それを見越してオークは右足を放つ。
トムが最初の棍棒の一撃を回避して反撃に移ろうとしたが、オークは彼が不用意に近付いてきた瞬間に蹴りを繰り出す。最初の棍棒の攻撃は罠であり、トムはオークの蹴りを腹部に受けて吹き飛ぶ。
「ぐはぁあああっ!?」
「ト、トム!?」
「馬鹿!?よそ見するんじゃないよ!!」
「プギィイイッ!!」
蹴り飛ばされたトムをヤンが彼の名前を叫ぶが、それを見たバルルが注意する。オークは自分が吹っ飛ばしたトムに注意を引いたヤンに視線を向け、彼に目掛けて棍棒を放つ。
「プギャアッ!!」
「うぐぅっ!?」
「ヤン!?」
「そんなっ!?」
「っ……!?」
ヤンは棍棒で殴りつけられ、頭から血を流しながら地面に倒れ込む。それを見たバルルは見ていられずに駆け出すが、彼女が辿り着く前にオークはヤンの頭を踏み潰そうとする。
「プギィイイッ!!」
「や、止めろぉおおおっ!?」
バルルの声が森中に響き渡り、ヤンの元に駆けつけようとした瞬間、彼女の横を何かが通り過ぎてオークの元に向かう――
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