第32話 入学手続き
「本当に久しぶりね……立派になったわね、色々と」
「どういう意味だい……たくっ」
バルルは差しだされた手を軽く叩いて払いのけ、そんな彼女の態度にリンダは眉をしかめるが、当のマリアは気にした様子はない。
マリアとバルルのやり取りを見てマオは二人がただの教師と生徒の関係には思えず、思っていたよりも仲が良さそうな事に気付く。その一方でマリアの方は改めてマオに振り返り、彼の頭に手を伸ばす。
「貴方の噂は聞いたわ。たった一人で危険な通り魔を倒したそうね」
「あ、はい……一応は」
「そんな貴方がどんな魔法を使うのか気になるわ。早速だけど、ここで見せてくれないかしら?」
「えっ!?」
思いもよらぬマリアの言葉にマオは目を見開き、他の者もマオの魔法が気になるのか彼に視線を向ける。マリアは興味津々な様子で見つめてくるが、マオ本人は冷や汗を流しながら視線を逸らす。
(い、いきなり魔法を見せろだなんて……どうしよう)
自分の魔法を見てマリアがどのような感想を抱くのか分からず、マオは魔法を躊躇ってしまう。そんな彼を見てバルルは助け舟を出してやった。
「……魔法を見せる前に入学手続きを済ませたらどうだい?あんたはこの魔法学園に入るために来たんだろう?」
「そ、そうですね」
「大丈夫よ、手続きはもう済ませてあるわ」
「「「え?」」」
あっさりとマリアはマオの入学手続きを終えた事を伝え、彼女は羊皮紙を取り出す。その羊皮紙にはマオが学園に入学する事を許可する内容が記され、後はマオが署名するだけで彼は魔法学園の生徒として認められる。
「この羊皮紙に署名すれば貴方はうちの学園の生徒として認められるわ」
「じゃ、じゃあ……」
「但し、私も学園長として入学する生徒がどれだけの魔法を扱えるのか把握する必要があるわ。だから魔法を先に見せて貰えるかしら?」
「えっ……」
マリアは意地としてマオが魔法を扱う姿を見なければ認めないらしく、彼女はマオが所有している小杖を取って彼の手に握らせる。マリアの行動にマオは冷や汗が止まらず、このままでは魔法を見せなければならない。
助けを求めるようにマオはバルルに視線を向けるが、彼女は首を振って自分ではどうしようもできない事を伝える。マオはもう魔法を見せるしかない事を悟り、緊張しながらも小杖を握りしめる。
(ど、どうしよう……もしも魔法を見せてがっかりさせたらどうしよう)
学園長は通り魔を撃退したというマオの魔法に興味があるようだが、実際の所はマオの魔法はお世辞にも凄いとは言えない。むしろ普通の魔術師よりもかなり劣るだろう。
(……でも、魔法学園に通うならいずれ魔法を見せる時が来るんだ。なら、やるしかない!!)
ここで魔法を見せなくても魔法学園に通う以上は必ず魔法を見せる機会が訪れるため、マオは覚悟を決めて魔法を発動させた。
「アイス!!」
「こ、これは……」
「……氷の魔法を使えるのね」
気合を込めてマオは魔法を唱えると杖の先端から青色の光が迸り、小さな氷の欠片が誕生した。それを見たリンダは驚き、一方でマリアはマオが「氷」の魔法が扱える事を確かめて頷く。
人間の中で氷の魔法を扱える者は滅多におらず、魔法学園に通う生徒の中でも氷を扱える人間はいない。そういう意味ではマオは珍しい属性の使い手だが、肝心の魔力量が少なすぎて小さな氷の欠片しか作り出せない。
「ふむ、話には聞いていたけど本当に氷を扱えるのね」
「何だい、知ってたのかい……それで魔法を見せたんだから入学を認めるのかい?」
「いいえ、まだ色々と話を聞きたいことがあるわ」
マオの魔法は実はマリアは事前に確認済みであり、事情聴取を行った兵士から大方の話は聞いていた。しかし、この目で実際に見なければ信用はできず、続けてマリアはマオがどのような方法で通り魔を捕まえたのかを詳しく尋ねる。
「貴方はこの氷の魔法で通り魔を捕まえたのよね?それならどうやって捕まえたのか詳しく教えてもらえるかしら?」
「えっと……」
「難しく考えなくていいわ。通り魔に襲われた時に自分が何をしたのかを教えてくれるだけでいいわ」
「は、はい……分かりました」
言われた通りにマオは通り魔に襲われた時の詳細を話し、自分が魔法を利用してどのように戦ったのかを話す――
――マオから通り魔事件のやり取りを聞き終えると、マリアは神妙な表情を浮かべる。話を同じく聞いていたリンダは半信半疑な様子であり、バルルの方は面白そうな表情を浮かべていた。
「なるほどね、氷の欠片をそんな風に扱ったのかい。面白い戦い方をするね」
「そ、そうですか?」
「ですが、少し信じがたい話ですね……」
「…………」
魔力量が少ないマオは自分なりの方法で下級魔法の「アイス」を利用し、上手く通り魔を捕まえた事を話す。その話を聞かされたマリアは考え込み、やがて彼女は何か思いついたのかマオに告げた。
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