146.あなたに伝えたかったの

「あ、あなたとの……結婚は決まって、て……なのに」


 アスティは泣きながら何度も同じ話をする。僕との結婚は決まりで、番だから一緒に暮らすのは当たり前。だけど、僕が告白したから。その先を言わずに、また話が元に戻る。


 混乱しているんだね。僕が告白したことを喜んで、嬉しく感じてくれてるのは伝わった。だから続きを聞けなくても、僕は満足だよ。立ち上がって抱き締めたアスティの背中に腕が届く。それが僕の成長の証だった。


 大人になるまであと少し。告白するのは、成人前と決めていた。だって、成人したら「番だから結婚しよう」とアスティが求婚するもん。先に僕から言いたかったんだ。


「ありがとう、アスティ。僕を見つけて育て、愛してくれて。閉じ込めずに好きにさせてくれたことも、お勉強や稽古を許したことも。いつも僕を好きで信じるアスティがいたから、僕は本当に幸せだよ」


 ボロボロと涙をこぼすアスティの頬を、指で拭う。でも足りなくて、手のひらで受け止めた。充血して赤くなった目が気になって、唇を寄せる。閉じた瞼の上にキスをして、ついでにぺろりと涙を舐めた。塩味で、不思議と甘い。


 嬉しい涙は、悲しい涙より甘いのかも。


「今度は僕がアスティを幸せにするばんだね」


「もぅ、涙が止まらなく、なる……から」


 やめてと言いながら、アスティは僕の頬に頬を寄せた。濡れた頬は冷たくて、でも触れていると温もりが伝わる。ずっと僕の背が低くて届かなかったアスティに、ようやく同じ高さで話が出来るね。


「僕のお嫁さんになってくれる?」


 もう一度確認して、頷くアスティにキスをする。もっと大きく成長して、出来たらアスティを横抱きしたいな。にこにこと笑顔を向ければ、アスティも泣き腫らした赤い目で微笑んだ。


「おい、まだかよ。もう勝手に飲むぞ!」


 酒の匂いをさせたラーシュが、庭に続く扉を開けて叫んだ。びっくりして固まった僕の肩で、アスティが叫び返した。


「感動が台無しよ! 大体、もう飲んでるじゃない」


「ふふふっ、あっちに宴会の準備がしてあるの。一緒に行こう」


 もう飲んでるのにラーシュは変なこと言うし、アスティもいつも通り。なんだかおかしくなって、アスティと腕を絡ませた。習った魔法でアスティの目の腫れを消す。これ、治癒と氷魔法の合わせ技なの。イェルドが絶対に役に立つからって教えてくれたけど、本当に役に立った。


 一緒に廊下に出て、宴会の準備をした大広間へ向かう。開いた扉の先で、皆が魔法の花火や紙吹雪で祝ってくれた。盛り上がる会場を見回し、アスティが苦笑いする。


「謁見が昨日から一件もなかったのは、準備のためだったのね」


 呆れたって言うのに、その口角は持ち上がってる。それに目元も柔らかくて、すごく嬉しそうだった。美味しい食事を食べさせ合い、用意された中央のソファに並んで座る。順番にお祝いにくる皆にお礼を言って、僕達はずっと笑顔で過ごした。

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