129.早く大人になりたいけど

 アスティに相応しくなりたい。ずっと願ってきた。彼女が強いから、ボリスを師匠に剣術や体術を習う。ヒスイの方が上手だけど、最近やっと認められる実力を得た。


 魔法で戦うのが苦手だと聞いて、アスティを補うために勉強する。ラーシュやイェルドにお願いし、必死で魔術を習った。僕は人族と魔族の子だから、魔法はあまり上手に扱えない。魔法陣を使う魔術なら、僕の体内にあるシグルドの魔力を上手に活用できた。


 夢の中で、シグルドとさまざまな話をした。過去のこと、本当は寂しかった子ども時代の話、それから古代魔術について。


 古代の魔法陣はラーシュも研究中で、詳細な資料が残ってないんだ。でもシグルドは知ってる。僕に惜しみなく教えてくれた。許可を得て知識をラーシュと交換する。彼の知る魔術を覚えて、代わりに古代魔法陣の読み解き方を教えた。


 魔術の腕が上がると、魔法陣を省略して魔術が使えるようになる。頭の中に記憶した魔法陣を、表に描かなくても使えるんだ。それが魔法と同じ原理と知った。たくさん知識を蓄えれば、魔法陣なしで色々な魔法が使えるはず。


 覚えることはいっぱいあって、ヒスイと競って勉強する。シグルドに翻訳を頼んだ古代語で、古い書物を読み解いたらアベルが感激していた。


 身を守る強さだけじゃなく、アスティを守れる強さが欲しいの。僕はどこまで行っても弱虫で、いつだってアスティと一緒にいたい。そのために、隣に立てる強さと知識を貪欲に求めた。


「アスティ、まだ番になれない?」


「あと数年よ。我慢して」


 僕の腕の中で笑う彼女は、とても色っぽくて。油断しているのか、豊かな胸元がはだけそう。長生きしてるドラゴンから見たら子どもだけど、僕だって男の子なのに。ぷっと頬を膨らましかけて、我慢した。それって子どもっぽい。


「キスしていい?」


 微笑んだアスティが目を閉じる。それが許可で合図だった。額、頬、鼻の頭、ゆっくり近づいて唇を重ねる。柔らかくて、甘い。何度も触れて、舌を差し入れた。受け止めるアスティの舌に翻弄されて、徐々に息が上がってくる。


 苦しくなる手前で、そっと解放された。もっと味わいたいのに、子どもをあやす様に「終わり」を告げられる。残念だけど、僕はアスティに無理やり何かしたくないから。


 物分かりがいい顔で頷く。ほんのり赤くなった頬や、色付いて濡れた唇から目を逸らした。早く大人になって、アスティの本当の番になりたい。


 明日からアベルの授業がある。ドラゴンの番同士が交わす、愛情の行為を覚えるんだ。それから寿命を溶かして一つになる儀式のこと、ドラゴンの夫婦の作法など。覚えることが待っていた。


 この頃はヒスイも文官の仕事が忙しく、アベルの手伝いばかり。寂しいと口にしたら「これが大人になることよ」と言われた。大人になりたいような、なりたくないような。変な気持ちになった。

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