98.隠せなくてバレちゃった

 アスティは僕の様子がおかしいと言って、一緒にいる時間を増やしてくれた。嬉しいけど、無理してないといいな。


「私はカイのために生きているのだから、そんな心配はいらないわ。一緒にいる時間が増えて、嬉しいくらいよ」


「僕も嬉しい」


 アスティは僕に嘘を言わない。だから信じても大丈夫だよね。僕は首に回した腕を引き寄せた。ぎゅっと距離が近づいて、さらに嬉しくなる。


 ぽんぽんと背中を叩いて落ち着かせながら、アスティは口を開いた。僕は心地よさに目を閉じていたけど、聞いた瞬間に驚いて飛び起きる。だって、知ってると思わなかったの。


「眠れないんでしょう?」


「違うよ、えっと……寝るのが怖いだけ」


「嫌な夢を見るのね」


「うん」


 怖いから寝る時間を少しにした。お昼寝も嫌な夢を見る。だから寝たフリで転がるだけ。そうしたら「顔色が悪いです」とヒスイが心配した。


 アスティは隠していた夢の中身も全部話して欲しいと言うの。迷ったけど、アスティに嘘はつけない。それに頼まれたら叶えたいと思った。だから夢の話をするけど、怖いから言わないでいようとした部分もバレちゃった。


「これで全部?」


「うん」


 全部お話したら気持ちが楽になった。にっこり笑って頷けば、アスティが額にキスをくれる。それから甘い香りのお茶をもらった。これは夢を見ないで眠れるんだって。


「これなら安心でしょう? 抱き締めていてあげる。悪い人が来たら、私がやっつけちゃうわ」


 僕より日に焼けた肌のアスティにしがみ付き、編んだ銀髪を握らせてもらった。機嫌のいいアスティの腕に閉じ込められて、絶対に守ると約束をもらう。僕は目を閉じた。


 久しぶりに夢を見ないで起きたら、すごく気分がいい。眠くないと思ってたけど、本当は疲れてたのかな。起きて最初にアスティの鱗が見えて、首筋に顔を埋めてると気づいた。嬉しくてちゅっとキスをしたら、顔中にいっぱいキスが降ってくる。


「きゃぁ!」


「ふふっ、悪戯っ子に仕返しよ」


 首をすくめて擽ったいと笑う僕に、アスティは加減しなくて。キスをたくさんもらって起きた。ヒスイも呼んでおやつを食べ、夜も同じお茶で眠る約束をする。


 お仕事するアスティのお膝に座り、僕は印章をぺたんと押すお手伝いをした。お名前の横にしっかり赤い色が付くように押すの。アベルにも「上手ですね」と褒めてもらい、僕は嬉しくなった。


 お風呂に入る時、変な赤い印に気付いた。右手のひらが星みたいな形で赤くなってる。でも痛くない。指で押したり擦っても消えなかった。お手伝いの時に、印章の赤いのが付いたかも。


「カイ、早くいらっしゃい」


 呼ばれてアスティのお膝の間に座り、黒い髪を洗ってもらう頃には、手の赤い星はすっかり忘れてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る