57.お日様が飲んじゃうからだね

 布の靴は痛くなくて、お部屋の中が歩きやすかった。そう伝えたら、いくつか作ってくれるみたい。お部屋の中で使う専用にするんだって。そんな話をしていたら、侍女の人の提案で靴を脱ぐことになった。


 お部屋のお掃除も楽になるし、寝転がっても平気になるの。よその国ではお家の中で靴を脱ぐところもあるんだって。侍女の人はそこの国の出身みたい。


 全部掃除して絨毯を交換するからと言われて、僕はお外へ出た。今日はお勉強してないし、お昼寝も先にしちゃった。することがないんだ。そう話したら、庭の奥にある屋根のある場所でお菓子を食べようと提案された。アスティとルビアも一緒に行く。


 僕の靴がないから、抱っこで移動が決まった。


「女王陛下、靴は他にもございますが?」


「また痛い思いをしたら可哀想だろう」


 アベルさんが厳しい声で話すから、もしかしてお仕事があったのかな。


「僕、ルビアと二人でもいいよ」


「私がダメよ」


 ぴしゃんと「ダメ」を言い渡された。そっか、アスティがダメならいけないと思う。納得した僕は、緩めた腕をまたしっかりとアスティの首に回した。ひんやりする鱗が大好き。銀色の綺麗な鱗に唇を押し当てたら、周りから「うっ」とか「これはキツイ」と声が聞こえた。


 顔を上げると誰もが赤い顔をしてる。何でだろう? 僕と目を合わせてくれないけど、アスティは平気だった。目を合わせて真っ赤な顔で僕の頬にキスをする。鱗へのキスのお返しかな? 嬉しくなって笑った僕はまた抱き着いた。


 運ばれて移動した庭はいろんな色の花が咲いている。赤、白、黄色、紫、それからピンクやオレンジも。数えきれないくらいの花と、ひらひら舞う蝶々。大きな木がざわざわと揺れて、日陰を作っていた。その間を進むアスティの右側に、水が吹き出す場所がある。


「アスティ、あれ何?」


「水が出ている場所なら、噴水池ね」


「ふんすい」


 繰り返して覚える。噴水は水を繰り返し吹き出す場所で、下の池のお水をぐるぐる回していた。時々足りなくなるから、お水を足すと聞いて首を傾げた。同じ場所で回ってるお水が足りなくなるの?


「ふふっ、カイは賢いな。よく気が付いたわ」


 進む方向を変えて、アスティは噴水の前まで近づいた。みると、周りにお水がいっぱい零れている。


「風が強いと水は真っすぐに落ちなくて、横に零れてしまう。この水は戻れないでしょう? だから減った分を足すの。それ以外にも理由があるのよ。天気がいいと蒸発して減るわ」


「分かった!」


 ちゃんと決められた場所に落ちなかったお水の分だけ足りない。あとは、お日様が飲んじゃうからだね。僕がそう笑うと、アスティは驚いた顔をしてから笑った。


「詩的な表現で素敵だわ、カイは詩の才能があるのかしら」


 褒められたのが嬉しくて、ぎゅっと抱き着く。噴水の近くは涼しかった。元の道に戻って、僕とアスティは天井がある四角い建物に入る。


「ここ、涼しい」


 屋根があって、周りに大きな木もあった。それに壁がなくて柵だけ。まるでテラスみたい。木で出来た屋根の下は、座るベンチとテーブルがあった。後ろから付いてきた侍女の人が大急ぎでクッションや小さい絨毯を敷いて整える。


 僕はアスティにベンチへ下ろしてもらい、柵に手を掛けて外を見回した。


「うわぁ! このお花大きくて綺麗だね」


 無造作に手を伸ばして触ったら、ちくっとして血が出た。いきなり触ったから怒ったの? ごめんなさい。

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