56.アスティが買ってくれた靴だもん
朝起きて、アスティと支度したらご飯を食べる。お仕事に行くアスティを見送ったら、僕はお勉強の時間だった。前と少し違うの。毎日違う先生に教わって、2日お勉強したら1日お休みで4人の先生がいる。今日は竜族の歴史に詳しいミーナ先生の順番だった。
ここ最近で大きく変わったのは、ボリスの部下の騎士さんが僕の専属になったこと。赤と青のドラゴン二人で、赤髪のお姉さんはルビア、青瞳のお兄さんはサフィー。どっちも髪や目の色と同じ鱗だった。常にどちらかが僕の手を引いて移動する。
手を繋いで歩くのはアスティが反対したけど、また攫われると困るからと許可が下りたの。手を繋いでいたら、魔法陣で拉致されても一人じゃないんだって。拉致って攫われることだよね。もう怖いのは嫌だから手を繋いで歩く。二人とも優しくて、足が短くて遅い僕に合わせて歩いてくれた。
「急いで歩くね」
「大丈夫ですから、ゆっくり歩いてください。お勉強が始まるまで時間がありますよ」
ルビアが優しくそう言ってくれたので、ちょっとだけ足を遅くした。本当はね、早く歩くと靴が擦れて痛いの。でも高い靴だと思うし、アスティが気にするから言わない。ぱかっ、地面を蹴ったら踵で音がした。するとルビアが「失礼します」としゃがんでしまう。
「足が擦れていますね、どうして仰ってくださらないのですか」
「仰るってなぁに?」
難しい言葉を素直に尋ねた。大きな熊のタカト先生は、知らない言葉は聞いて欲しいと言った。知らないまま大きくなる方がいけないのだと。だから尋ねたら、不敬とか聞いたことない単語を呟いた後で、ルビアが大きく頷いた。
「どうして教えてくれないのですか、痛かったでしょう?」
「痛いけど、アスティが買ってくれた靴だもん」
痛いのは我慢できる。でもアスティが痛い顔をしたり、嫌な思いをするのはダメだった。僕が苦しくなっちゃう。だから足が痛いのは言わなくていいの。そう理由を説明したら困ったような顔で僕の頭を撫でた。
「抱き上げる許可は、緊急時だけでしたね。ある意味、緊急事態かな」
すっと僕を抱き上げる。怖くないから大人しく抱っこされた。そのままお勉強用の部屋に入り、ソファの上に下ろされる。室内で待つミーナ先生が驚いた顔になった。
「今日はよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて挨拶する僕の後ろで、ルビアが侍女の人にお願いしている。女王陛下って言った? 振り返る僕は慌てた。アスティの邪魔はダメだ。これ以上お荷物になったら、呆れられちゃう。そう叫んだら、慌てた様子のルビアとミーナ先生に「それは違う」と二人で否定された。
少ししたら駆け込んできたのは、アスティと青銀色のアベルさん。二人でそっと靴を脱がせて確認し、今日のお勉強は靴なしで行うことになった。
「ごめんね、アスティの邪魔しちゃった」
「いいの。気づけなかった私が悪いわ」
「ルビアを怒らない?」
「しないわ。逆に助かったもの。ルビアを褒めなくちゃね」
良かった。僕のせいでお仕事の邪魔をしたから、ルビアが怒られたら可哀想と思ったの。机いっぱいの大きな絵本を広げ、竜族が神様の遣いとしてこの世界に舞い降りた昔の神話を聞いた。お話が終わる頃、たくさんの人が僕の足に粘土を塗っていく。固まったら割って持って帰った。
今日は柔らかい布の靴になり、お散歩は明日に変更。アスティとお散歩する予定がなくなって泣きそうになったら、お昼寝を一緒にすることに決まった。ぬいぐるみがいっぱいのベッドで手を繋いで横になる。ゴロンと転がって、アスティと抱っこし合って眠った。
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