ep8 妖精主の神殿

 ずんずんと進んで行くレオルドの背中に追いつくと、コーロは不安げに話しかけた。

「あ、あの、ここは...どこなんですか?さっきのゲート?を通ってどこに来たんですか?」


 レオルドは前に進みながら軽く振り向いて答える。

「まわりを見てみな。あんちゃん」


「まわりを?」

 周囲を見回すコーロ。

 すると、森がやけにざわついているのに気づいた。


 コーロは目を凝らしてよく見てみた。

 彼は闇の魔力により特別夜目が効く。なので、目を凝らせばどんな暗闇でも視覚による認識が可能である。

 そして...


 コーロはその者どもの存在に気づいた!

「お、おい!ミッチー!」


「どうなさいましたか?」

「ま、魔物がいる!それもたくさん!!」

「え?」


 周りには、いつの間にか三人を取り囲むように大勢の魔物達が群れを成して集まっていた!


 潰れた人間の顔のような面をした蝙蝠みたいな者。

 不必要に尖った耳と鼻をのばした緑色の人型の背の低い者。

 体に悪魔の影のような顔をこしらえた巨大なキノコのような者、動物とも植物ともとれないような者...。


 彼らの周りには、大きい者から小さい者まで、実に奇怪で妖しげな有象無象の輩共がウヨウヨと跋扈ばっこしていたのだ!


「レオルドさん!魔物達がたくさんいますよ!だ、大丈夫なんですか!?」

 コーロは慌てて声を上げた。


「ガッハッハ!安心しな!兄ちゃん達は客人だ!コイツらはバカだがそこまでバカじゃねえ!」


「そ、そっすか...。なあミッチー?これ、ホントに大丈夫なのかな?」

 コーロが不安を露わにしながらミッチーの方に目をやると、なんとミッチーは跋扈する魔物の一体にフワフワと近づき話しかけていた!


「ねえねえ魔物さん、貴方言葉わかります?貴方かなり味のある顔してますよねぇ?ねえねえ?」


「社交的過ぎだよおまえ!?」

 コーロはぶったまげた。


「ほらコーロ様、この方かなりブサイクですよぉ?」

「それ社交的通り越して失礼だわ!やめろオイ!」


 ミッチーの底抜けのコミュ力は健在だった。


 しばらくすると、三人は森が開けた広い場所に出る。

 そこは不思議と、先ほどまでの夜の森の風景が嘘のように、春の昼間のように明るかった。

 視線の先には、石でできた大きな神殿の如き建物が、おごそかに、だが穏やかに佇んでいた。


「ここは...なんでこんなに明るいんだ?それにあの建物は......」

「雰囲気のある建物ですねぇ」


 森の魔物達はその場所には出ていかずに、木々の影から引き続き三人の様子を眺めていた。

 レオルドは振り返り、おもむろに右腕を軽く上げ、その手で建物を指し示した。

「ここが森の妖精主の神殿だ」


「じゃあここに森の妖精主が!?」


「フフ。いよいよラスボス登場ですね」

 なぜか自信ありげなミッチー。


「いや違うだろ...」

 コーロは眼前の神殿を重々しく眺める。


 レオルドは、いよいよという風な塩梅で、二人に呼びかける。

「二人ともオレと一緒に中について来てくれ」


 広く解放されている入口から、レオルドはゆっくりと神殿の中へ入って行った。

 それに従い、二人もおそるおそる神殿の中へと入って行く...。


「あれ?コーロ様、今度は躊躇しないのですねぇ?」


「そろそろ慣れてきたっていうか...それに、妖精って、やっぱ興味あるっていうか」


「あらコーロ様、スケベですね」

「そういうのじゃないし!」


 石柱に囲まれた神殿の通路は、レオルドが十分通れるぐらいの広さがある。

 静寂の神殿に、彼らの足音だけが響く。

  

 緊張の面持ちで周りを見回しながら歩くコーロ。

 しばらく中へと進んで行くと、やがて三人は、何とも言いえぬ荘厳な雰囲気を醸し出す、神聖な広間に辿り着いた。

 壁を奥にして一段高くなっている所の中心には、美しい宝石のような石造りの寝台がある。

 そこには、人の大きさの、人の姿をした、人ではない何者かが静かに横たわっている。

 コーロとミッチーはそれに目をやると、すぐにそれが何かを察した。


 レオルドは神妙に口を開く。

「ここに寝ているのが、森の妖精主エルフォレスだ」


 神殿内には、言葉のない言葉があり、風のない風が吹き、音のない音が鳴いていた......。

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