第27話 放射線治療は音楽と共に?
さて、抜糸が終わったら次のフェーズ。放射線治療だ。放射線科の先生から呼び出しがかかる。確か、キャンセルするなら、◯◯日までと言われたっけなぁと思い出す。つか、今何日か忘れたけど。
放射線科までは車椅子で連れて行かれる。エレベーターに乗り、ゴゴーンと。放射線科はやはりというかなんというか、地下にあった。でもって、入り口からしてやはり他の科とは雰囲気がまるで違う。中に入るとすぐに受付があって、二人の事務員さんが立ち上がり挨拶を受ける。リストバンドを確認され、氏名を口頭で言わなければならない。患者間違いなどの医療事故防止の為だ。
診察室前に並んだソファーからはテレビが見られるようになっている。その時流れてたのは昼の芸能ニュースだった。ほぼ合わせたことのないチャンネルなので、へぇ〜と新鮮に眺める。ふと奥を見れば、分厚いドアの治療室がある。治療中とランプが付いてる。
内心ハァと重くため息をついた時、なんか音楽が聴こえてきて、そのドアが大きく開いた。そしてガラガラと出てくるベッドとその上に横たわる年配の患者さん。ベッドをガラガラと引いているのは細身の女性看護士さん一人。
——ギョギョッと驚いて後ずさろうとしたが、へっぽこは車椅子の上。動けずに見守るしかない。ベッドを引いてる看護士さんは何てことない顔してガラガラと通っていく。すごい力だ。白衣を着た男性二人が重い扉をギギーバタンと閉じて、また何処かへ消えて行った。シーンとなるかと思ったら、でも何処からか音楽が聴こえてくる気がする。テレビとは違う方角。んん?なんか聞いたことあるようなないような音楽。リラクゼーション音楽かしらん。診察室からかな。治療室じゃないよね。
やがて診察室から呼ばれて中に入る。が、音楽は流れてない。じゃあ、さっきの音楽は白衣の人たちの休憩所からかな。
放射線科の先生は割とフランクな感じの先生だった。
「放射線治療と聞くと怖がる人も多いんですが、痛くないですし、思ったより短時間だとびっくりされたりするんですよ」
「はぁ」
とりあえず曖昧に返すへっぽこ。
「では、これからへのさんの特注マスクを作成しますので」
と言って、ベットの上に仰向けに横になるように指示される。
「特注なんですか?」
「はい。先日のMRIの結果から、定位での照射ポイントと回数が決定しましたので、へのさんの頭を固定する為のマスクを作成するのです」
特注。なるほど、それでキャンセル出来ないと言ったのかと納得。その後、なんか顔にペタペタ塗られ、ドロッと冷たいものが当てられて、暫し硬直。だったような記憶があるけど、細かくは忘れてしまった。マスクというとチャーリーズエンジェルとかトムクルーズがバリッと剥がしたマスクが思い浮かぶのだけど、アレらも同じように型取って作るんだろうか?と思ったりした。
それから簡単に照射の説明を受ける。
「何か質問はありませんか?」
そう聞かれて、うーん、と暫し悩んだけど、今更何言っても言われてもレギュラーセットは変わらないだろうしな。と、ふとさっき音楽が聴こえてきたのを思い出した。
「音楽かけながら治療受けるんですか?」
手術中にクラシックのCDをかける外科の先生もいるとか何かの本に書いてあった気がするし、もしや。
すると先生は頷いた。
「はい。リラックスして受けていただく為に音楽をかけています。もしお好きな曲などがあればかけられますよ」
「え、好きな曲?」
「はい。ここにあるのでもいいですし、レンタルしてくることも出来ますよ」
そう言って、CDのラベルを幾つか見せてくれる。
なぬ、レンタルとな?わざわざ患者の為にレンタルして来てくれんの?太っ腹だなぁ。
「何か聴きたい曲はありますか?」
聞かれてへっぽこはしれっと素直に答えた。
「はい。じゃあ。『風の谷のナウシカ』で」
「わかりました。探しておきますね」
え、マジ?
本当にリクエスト応えてくれんの?
そうして、へっぽこは放射線治療から完全に逃げられなくなった。
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