第16話 余命、いや余意識半年牌をツモる
——はい?もう一回って?手術を?
「嫌です!」
即答するへっぽこ。
冗談じゃない。手術終わって抜糸も終わって、やっと帰れると思ったのに、何でまた手術しなきゃなんないのよ?
「だって先生言ったじゃない。抜糸終わって落ち着いたら退院出来るって」
そんなこと言われたかどうか今となっては記憶は定かではない、っつーか、多分はっきりとは確約されてなかったのだろうけど、へっぽこは楯突いた。
ひと昔前は、お医者の先生様サマだった。先生の言うことは絶対という風潮が強かった。今はかなりマシになっているらしいが、年配の人、また男性はどうしてもその傾向にあると思う。
で、当然のようにへっぽこを押さえにかかるダンさん。
「でも、先生がこう仰るんだから」
「おっしゃろうがさつしゃろうが、嫌なものは嫌!」
「でもねぇ」
弱り顔のK田先生。
「とにかく手術はしません」
じゃあ、出て行け!と追い出されても当然の状況。でもK田先生はあくまでも大人で優しく丁寧に話をしてくれた。
「それでも手術をしないとまずい状況なんですよ」
その時、ノックの音がしてEらい先生が入ってきた。K田先生を追い出してバトンタッチする。U村先生は黙ってその場にいるだけ。
「へのさん。手術したくないお気持ちもわからなくはないのですけどね。このままだと大変なことになるんですよ」
「大変なこと?」
「少し前なら、医者の判断のみで手術を強制的にすることも出来たんですがね、今は患者さんご自身の同意が一応必要なんです。でも、それを圧してでも手術しないといけない。そのくらいの状況にあるということです」
「そのくらいの状況って?」
流れでへっぽこが聞き返したら、Eらい先生はPCに向かってマウスをカチカチやった後にダンさんに向き直った。
「ご本人に直接詳しくお話していいですか?」
するとダンさんは意外にも首を横に振った。
その時はよく考えなかったけど、あれは多分、へっぽこが、「告知NO!」としていたから止めてくれたのだろう。Eらい先生は困った顔はしつつも、それ以上は続けずにへっぽこに向かった。
「あのね。へのさん、こまかくは言いませんが、今手術をしないで放っておくとね、あと半年でこうやって話が出来なくなってしまう可能性が高いんです」
「話が出来なくなる?それ、どういうことですか?」
「えーと、簡単に言うとね。自分で動いたり話をしたり食事をしたりが出来なくなるということです」
「へ?」
「最初に倒れた時のように意識を失って、そのまま目覚めなくなる可能性が高いということです」
「意識をなくして、そのまま目覚めなくなるって、それ◯◯人間じゃないですか!」
「だからそうならないように手術しましょうとお話ししてるんです」
——チーン。
なんか終わった、と思った。ツモって言葉が浮かんだ。パチンコはやったことないけど、麻雀は子どもの時に父がPCに入れててやり方を教えてくれた。まだ、起動がFDの時代だ(笑)当然ながら窓なんか影も形もなく、黒い画面にやりたいプログラムのある場所とプログラム名を打ち込んで起動させる。それで上海とかのパズルから教え込まれ、麻雀もなんとなくは覚えた。でも麻雀センスはなく、パズルかトランプゲームばっかりやってた。ただ、画面に「ツモ!」とか「ロン!」とか出て来てゲームが終わったのだけ覚えてた。それで出て来た言葉だった。
つまり、なんか知らないけど、当たり牌、いや特大外れ牌を引いてしまってゲームセットってこと。
というわけで、やっとこの話の序文に辿り着いたが、へっぽこは余命ならぬ、余意識半年宣告を受けてしまったのだった。
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