第15話 抜糸って痛いってホント?
その後、へっぽこは順調に回復していき、一週間程経って抜糸の日が来た。U村先生が一人で現れて、ちょっとドキドキする。まだ研修中なんだよね、大丈夫なんだろか。なんか大きなハサミだかペンチだかを持ってるように見えるし。
「じゃあいきますよ」
ややして。頭の上の方でバチンバチンと何かを切る音。
——来る、来る!
でもへっぽこは出産体験者。痛みには呼吸での逃しが効くのを知ってるのだ。ヒッヒッフーを開始する。
ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」
無我夢中で繰り返す。
ん?
今なんか引っ張られたような。抜かれたっぽい?
「はい、終わりましたよ」
「え?」
「抜糸は終わりました。大丈夫ですか?」
「はぁ。もう?」
ぼんやりと答えるへっぽこ。
「痛くなかったんですか?」
「うーん。そう言われると痛かったような気もしますけど、呼吸に集中してたし、思ったより早かったしで、痛みを味わう暇もなかったような。先生、抜糸お上手ですね」
さっき、研修中だからと怯えてた癖に、無事に終われば掌を返したように褒めるへっぽこ。
U村先生は、そうですか?と言いつつ、何気に嬉しそうだった。もしかしたら彼にとってもへっぽこに当たったのはラッキーだったのかもしれない。
痛いだろうと警戒してると、それは相手にも伝わるし自分の身体も固まってしまう。でもバカみたいに呼吸法を繰り返すへっぽこに、U村先生も呆れて程よく力みが抜けたのかもしれない。
ま、単にへっぽこが超鈍感で、痛みを感じにくい体質だったたのかもしれないけど。
ま、何はともあれ、抜糸は無事に終わった。
さて、退院はいつ?
ウキウキと聞くへっぽこに、U村先生はもう少ししたら検査の結果が届くのでお待ち下さいね、と言った。
もう少しってどのくらいかなぁと思いつつ、確かにまだ頭のガーゼは外されてないし、やっぱりもう少しなのかなぁと大人しくベッドでスクワットに勤しむへっぽこだった。
ベッドの脇には、ダンさんと息子が買ってきてくれた100均のサンタさんのスノードームとトナカイの人形が、クリスマスの雰囲気を盛り上げてくれている。
遅くともクリスマスには帰れそうだ。良かった。今年のケーキは白かな、チョコの茶色かな、と妄想を広げる。我が家ではクリスマスはダンさんがケーキを焼いてくれて、それに息子がフルーツやクリームを乗っけて白い粉砂糖を雪に見立てて降らせるというイベントを息子が幼稚園の時からやっていた。当然今年もその予定。プレゼントは既にダンさんが手配してくれてるし、何がなんでも帰らなきゃ。
が、ある日の夕方、院内アナウンスが流れてくるのがが耳に入ってきた。
普段はあんまり気にしないそれが、何故かその時だけは妙に耳についた。脳外科のスタッフを緊急で呼び集めて会議を行うみたいな内容だった。
へっぽこの検査結果がそろそろというタイミングで。
でも、まさか自分のこととは思わない。いや思いたくない。
そう言えばダンさんがいない。息子は隣で読書してるけど。うーん?
やがて、ダンさんが帰ってきた。K田先生と一緒に。そして話があると言う。
なんか嫌な雰囲気。
でもへっぽこはまだ呑気なもんだった。
何か他に怪しい所が見つかったのかもしれないけど、とにかく退院して家に帰るのだ。脱走してでも。
そんな決意で戦闘態勢満々のへっぽこはダンさんと息子と共に別室に連れて行かれる。そこで言われたのは、
「もう一回手術しないといけません」
という一言だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます