第19話 近いのはやめてください
デ・ブライネ辺境伯領を巻き込んだ事件は王子二人が表舞台から、退場することで幕を閉じました。
しかし、そんな辛い事件の記憶も徐々に人々の中から、消えつつあります。
それが人の強さでもあるのでしょう。
「エル様。本当によろしいのですか?」
「ああ。問題ないさ、ミーナ」
問題はあると思うんですよ?
まず、その距離感がおかしいと思う。
エルヴィン殿下とお呼びするのは嫌だと仰る。
それなら、エル殿下ではと提案してもそれも断られるんだから。
仕方なく、妥協してエル様。
そして、家族からしか呼ばれたことの無い愛称であるミーナ呼び。
婚約者だったリューク殿下すら、ミナだったのです。
距離が近い!
物理的にも近いのであまり、心臓によくないのですよ?
「エル様。近すぎませんか?」
「大切な聖女様を守るにはこれでも遠いと思うんだが」
だから、顔が近いんです!
無駄にいい顔が間近に迫ってこられると困るんです。
ユリとブランカの顔を見てください。
目つきが悪くなっていて、今にも人を殺しそうな顔になっているんです。
気が付いてください。
「ですが、もう少し、離れてくださいませんか?」
「仕方ないな。聖女様がそう言うのであれば」
半歩だけ、引いてくださいましたか。
それくらい離れてもほぼ変わらないのですが……。
思えば、エル様も大分、変わられたものです。
事件終息後は私が声を掛けただけでも頬を赤らめ、近づくと三歩以上は離れていたました。
話しかけてもどこか上の空のようで私と目を合わすことさえ、なかったんです。
もしかして、何か悪い物でも食べたのでしょうか?
それとも……分かりました。
ヨハンナ殿下の仕業ですね?
彼女が私の反応を見て、楽しもうと思って何かをしたのではないでしょうか?
「ヨハンナ殿下はどこにおられるのですか?」
「うん? ハナはいないが。何でかな?」
「そうですか。おかしいですね」
違ったようです。
それにしても困りました。
はっきりと肌で感じるくらいにユリとブランカからの殺気が止まりません。
これだけの殺気を浴びながらも全く、動じないエル様はやはり、只者ではないですね。
「買い物を終えて、すぐに帰りましょう」
「俺はゆっくりでもかまわないんだが」
「私が困るんです!」
無駄に美形のエル様と買い物をするだけでも心臓に悪いのにユリとブランカのあの表情です。
折角の可愛い二人にあんな顔をさせたままでいるなんて、私には出来ません。
それにまだ、調子が戻らないクラシーナも心配ですし、目当ての物を買って帰りましょう!
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