第24話 正体
パンクの言葉に、周囲から音が消えた。吹き荒れる風の音さえも聞こえなかった。
アースが邪魔などと言葉に出すのはガウトリアに存在しない。ガウトリアを襲った災害獣を討伐した実績と探索者に知識を伝えた信頼がある。他所者だとしても邪魔と言うには余程の理由が無ければ言わないはずだ。
「邪魔、だと?」
パンクは他所者であり、尚且つ明確に邪魔だと言った。それらが示す事実は一つ──パンクはガウトリアの敵だ。
「そうだとも。随分と昔から邪魔をしてくれていた。ガウトリアの中心、そこまでしか攻め込めなかった。足掻きとしても発展を遅らせるのが精一杯だった」
パンクの言葉に絶句してしまう。パンクはお上の一人であり、ガウトリアでも建国辺りから携わる者なのだ。発展を遅らせていたなど、余りに手が込まれている手段を用いており災害獣などとは到底思えない存在だ。
発展を遅らせる、何故だかその言葉が引っかかった。発展から連想する言葉、進歩、能力、鍛える、歩む、学ぶ、教育……教育?
「まさか、魔法教育がなってないのも」
「ああ……そんなこともやったよ。成長されては困るのでな」
プツンと何かが切れる音がした。身体強化を解かないままにパンクへと拳を固め走り出す。
「てめぇぇぇぇ!!」
「ベクト!」
「遅い」
アースが手を伸ばしパンクとベクトの間に割り込むも、それより速くパンクは駆け抜けた。パンクの懐に持っていた杖を思い切り突き出し、ベクトの心の臓向けて貫くように放たれた。
「ガッ!?」
余りの衝撃と勢いに、ベクトは地面と水平に吹き飛ばされた。ギルドの受付まで吹き飛ばされ、テーブルを壊しながら勢いは衰え、訓練場に繋がる手前の壁で止まった。
身体強化されていたベクトだ、強度はギルドの壁よりも硬い。吹き飛ばされはしたものの、致命傷となる傷までギリギリでしていなかった。傷は貫こうとされかけた胸の傷から流れる血、そして全身に衝撃を受け、回復無しでは動けないことだった。
「貴様ぁ!」
アースの怒りが直情からの拳という形でパンクに降り注ぐ。五十メートルの巨体による拳は三メートル程はあろうものであり、人ならば地面の染みにならなければおかしい。そうでないなら地面に埋め込まれる形だろう。
目の前の光景は、そのどちらでもなかった。地面にひびが入り、右腕で受け止めるパンクの姿がそこにあった。
「……こんなものかね?我が友ダイガードを屠った時とは随分と弱くなっているな」
腕を振り払い、アースの拳を弾く。勢いが大して無かったためアースの態勢は崩れることはない。二人の様子に、周囲の探索者達が一般人の避難誘導を始めていた。
ギルドの奥にすら聞こえる深みを帯びた渋い声。声の主に聞こえないと思うも、疑問がベクトの口から出ていた。
「友……?」
「おや、死んでいないのか。だが戦えまい?」
魔力で強化しているのか、地獄耳でベクトの声を拾うパンク。マトモに動けないと分かっているからか、ベクトへの興味は既に消えたような瞳をしていた。感慨深そうな声を、周囲に聞こえるようにパンクは口を開いた。
「ああ、私の親友ダイガードだ。共にガウトリアを堕とそうと張り切っていたのだよ。……残念な結果になった」
ベクトは視線だけをパンクへと向ける。ダイガードと結託していたというだけでベクトには怒りの対象だ。アースに助けられたものの、何もされなければ殺されていたのだから。
友が殺されたから怒りに燃えることだけはベクトにも理解できる。が、ガウトリアにそれ以上の被害をもたらしているパンク達には、討伐してやるという憤怒しか抱かない。
ベクトの視線に気づきながらも無視するパンクは、勝ち誇った表情になっていた。既に搭乗者を無効化した以上、アースの脅威は無くなったといっていいからだろう。
アースの無力化と災害獣がガウトリアを敵視したこと、それが意味することは一つ。
「故に策を講じた、私もアースより弱いのでね……。そして君が負傷していれば問題は無いと情報も得た。これで私の勝利と言っていい」
ガウトリアが壊滅する始まりだ。ベクトにできるのは、探索者達に起き上がらせられながら怒りの視線を向けることだけだった。
「宣言しよう、この私、災害獣パンク・エルレ―ドが今よりガウトリアを襲うと!」
全てを成功させた災害獣パンク・エルレードは高らかにそう宣言した。同時にパンクの身体が破裂し、数えきれない程の三メートル近い蜘蛛がうじゃうじゃと身体の破片から現れてきた。その勢いは火山の噴火を思わせるものであり、探索者ギルドをも押し流していく。
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