楽観と不安

 ギン達は現在、プレツの港町であるニリを目指し、船で航海中だ。


 船の甲板に一同が揃っており、ジエイがルルーに声をかけていた。


「ルルー殿、そろそろプレツに帰還後に我々はどのように動くかの方針を決めておいた方が良いのでは?」

「そうね、と言ってもまずはスップの教会に戻って、どれほど魔族の情報を得られたか次第ね」

「仮に根城が見つかったとしても遠征軍の編成には時間がかかるでしょうから、比較的自由に動ける我らの動きだけでも決めておかなくては」


 ジエイの発言に対してギンが自身の考えを話す。


「魔族の中でも比較的高い地位にいると思われるブリック、ピッキー、そしてアルドという魔物はギガスを殺害した後は表立って行動している様子はないな」

「ええ、グラッスの件も、ミッツ教団の孤児院の襲撃も部下に命じただけで彼ら自身が作戦指揮は執っていなかったわね」

「恐らく奴らはもっと大きな作戦の実行を計画しているかもしれない」

「大きな作戦⁉まさか全世界に宣戦布告でもするというの?」


 ルルーは魔族が全世界に宣戦布告する事を危惧するが、ギンは更に自分の考えを話し続ける。


「それだけの戦力があれば既にしていてもおかしくはない、奴らはまず俺達か帝国のいずれかを潰す事を考えていたようだった」

「確かにそうね、でも私達と帝国が休戦を結んだ事でギガス皇帝の殺害にその場はとどまったわね」

「奴らは帝国の持つ強大な軍事力とギガス自身の武神の力を排除する事に成功すると満足して去っていったな」


 ギンの話を聞いてからヨナも言葉を発し、話に加わる。


「その直後だったね、魔族がグラッスを裏から操って帝国に対して戦争を仕掛けようとしたのは」

「あの時の帝国なら、勝敗は別にしても他国との戦争はダメージが大きかったはずだ、奴らにとっては人間同士が戦力を削り合ってくれるのは都合がいいからな」


 ギンとヨナのやり取りを聞いて、ブライアンも自分の考えを話す。


「それじゃあよ、結局あいつらの目論見ははずれまくっているって事じゃねえか、俺達はまた帝国とも休戦したし。後は奴らが潜んでいる場所を見つけて勝てば平和はすぐそこじゃねえか」

「ブライアン、まだ楽観するのは早いわ。彼らがこの状況をただ指をくわえて見てるだけとは思えないわ」


 ブライアンとルルーの発言を聞いてムルカも言葉を発する。


「何かしらの動きはあるであろう、そしてそれが魔族との戦いの幕開けだ」


 魔族の動きが見えず、楽観する者、不安に感じる者がいる中、ギン達を乗せた船はニリへと到着する。

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