魔術師アビィ

ブロッス帝国の帝都に今、凱旋帰還した者がいた。


 その者が城に入るなり、1人の魔術師が声をかける。


「アビィ様、お帰りなさいませ」

「出迎えご苦労」


 彼女の名はアビィと言い、ブロッス帝国の魔導師団に所属する魔術師であり、団内でも地位が高いことがうかがえる。そのアビィに魔術師があることを伝える。


「アビィ様、エンビデス様がご命じしたいことがあるとのことにございます」

「エンビデス様が私にか?して、エンビデス様はどちらにおいでか?」

「現在執務室におられます」

「ならばこのまま参上する。お前は下がってよいぞ」

「はっ!」


 そう言ってアビィは魔術師を下がらせ、エンビデスの待つ執務室へ赴いた。


 執務室の前に到着すると扉越しからエンビデスに呼びかける。


「エンビデス様、アビィ、ただいま戻りました」


 アビィの声が聞こえ、エンビデスが返答をする。


「うむ、入れ」

「はっ!」


 エンビデスに促されアビィは執務室へと入っていく。


 まずエンビデスより称賛の言葉が投げられた。


「ミナリス領を荒らす蛮族共の討伐ご苦労であった」

「はっ!お褒めにあずかり光栄にございます」

「うむ、遠征で帰還のところ悪いが、お前に新たな任務を命じる」

「はっ!」


 エンビデスはアビィに任務の詳細を話す前に昨今の帝国軍とギン達との戦いの事を話す。


「プレツの特使、ならびにその護衛共により我が軍の精鋭ですら敗走を余儀なくされているのはお前も知っておろう」

「軍内ではギンとかいう魔法剣を使う剣士がそやつらの中心的存在である事が話題になっておりますね」

「確かに奴の魔法剣は強力だが、もう1つの戦力の中核にエイムという魔術師の少女がおる」

「魔術師の少女?」


 ここからエンビデスはエイムについて思う、自身の考えをアビィに話す。


「あのエイムという少女はあの者達の娘やも知れぬ」

「あの者……まさか⁉」

「そうだ、かつて私に仕えていた魔術師フィズ、そして妻のユアのな」

「そして私の父であるエーブルと共にエンビデス様をお支えになっていましたね」


 エンビデスの話を聞いて、アビィは疑問が生まれエンビデスに尋ねる。


「ですがエンビデス様、フィズ殿らの娘という見当をどのようにおつけになったのですか?」

「最初のきっかけはバンス隊との戦いで並みの魔術師では扱うのが難しいという魔法を扱ったという報告を受けた時だった。その後プレツに間者を送り、ギンと接触した経緯を探ってみた。その過程で彼女はコッポの魔術師の村の生まれたということになっているのを知った。これで合点がいったのだ」

「まさかあの時の……」

「そうだ、ボース王によるフィズ達の謀殺事件だ」


 なんとエイムの実の両親はボース王により謀殺されていたのだ。


「あの時に私が遠征中だったこともあり、彼らを謀殺する計画が進んでいた情報を掴むことができなかった……」

「エンビデス様……、ですがなぜ今になり彼女のことを気にかけるのですか?」

「この私ですら習得できなっかたを彼女なら習得できるかもしれんからだ」

「まさか、いくら何でもそれは……」


 アビィが何かを言わんとするが、遮るようにエンビデスが話す。


「とにかくまずは魔力の波動で確証を得ねばならん、お前ならフィズ達の波動も分かるだろうから、この任務を現在ピトリにいる魔導騎士団と協力し臨め」

「はっ!お任せください」

「すでに文は送ってある、お前が合流し次第作戦を決行せよ」

「はっ!」


 そう言って、アビィは執務室から出ていき、出立の準備に向かう。


 アビィが出ていくと、何かに呼びかけるように呟く。


「フィズ、ユアよ、お前達親子が引き裂かれたのは私の責だ。だからせめてお前達の娘に授けたいと思っている。魔族に対抗できる魔法をな」


 エンビデス、彼の胸の内は一体?

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