聞こえる兄妹

 ギン達よりブロッス帝国軍の補給拠点を無力化する為に船を貸してほしいとの依頼を受けたボガードであったが、過去の負傷で渡航は難しいと判断し、息子であるウィルをギン達の作戦に加えることを提案する。


「それでボガードさん、息子さんが海の声を聞くことができるっていうのは?」

「こいつは海、いや水の精の声を聞き、水の術っていうのを使うことができるんだ」


 ボガードの話を聞き、ムルカがあることを思い出す。


「ボガード殿、もしやウィル殿は風水使いなのですかな?」

「そういうこったな、その能力はまさに海の男の為のものだな、肝心のこいつ自身がヘッポコだがな」


 ギンが風水使いという言葉についてムルカに尋ねる。


「ムルカ殿、風水使いとは?」

「古来より、魔法とは別で自然の力を扱う為の術を使う者だ。精霊との契約の必要はなく、生まれつき、精霊の声を聞ける者がその術を扱える素養があると聞く」


 ムルカの説明にウィルが補足を加えた。


「まあ、聞けるつっても、会話ができるわけじゃなくこっちの意思を汲んで、頭の中で声が聞こえるんだ。例えば渡航している時にどの道が安全かとか早く着くとかを教えてくれるんだ」

「こいつがダメなのはそれに頼りっきりで、肝心の操舵の腕前がそこそこ止まりってのが困りもんだがな」

「うるせえよ!それより親父、俺が船に乗ってまさか帝国と戦わなきゃなんねえのか?」

「別にお前が無理して戦う必要はねえ、だがお前の精霊を聞く能力がないと帝国軍を避けながらその島に行くのは大変だろ」


 ボガードの説明を受け、ウィルが意思を示す。


「俺は親父すら超えた海の男になりたくて親父の仕事を手伝いながらいつか海に出る機会をうかがっていた。今回の作戦を成功させれば少しでも海の男に近づけるんなら、やってやるぜ」


 ウィルの話を聞いて、別の所から声が聞こえる。


「ちょっと待って、兄さん!」

「何だよミニル⁉」


 声がしたのはボガードの娘で、ウィルの妹であるミニルだ。そのミニルがウィルに話す。


「兄さん、私も兄さんやミッツ教団の方に力を貸すわ」


 ミニルの言葉に疑問が生まれたギンが尋ねる。


「待ってくれ、君も何か能力が?」

「はい、私は兄同様精霊の声が聞こえます。もっとも私の場合は風の精の声ですが」

「兄妹で精霊の声が聞こえるのか⁉」

「はい、私はそれを活かしてこの街の観光案内の仕事をしています。ですが帝国と開戦してから訪れる人も減っています。観光の街を取り戻すために私も皆さんに力を貸します」


 ミニルの言葉を聞いて、ボガードが止めるよう言う。


「ちょっと待てミニル、お前までする必要はねえだろ」

「父さん、兄さんを危険にさらして黙って見ていることはできないの。お願いだからやらせて。それに……」

「それに、何だ?」

「ルルー様やムルカ様が同盟交渉先で帝国軍と遭遇し護衛の人と一緒に戦って勝っているっていう話をよく聞くの。この人達が守ってくれるなら安心して私のやるべきことに専念できるわ」


 ミニルの話を聞いてギンが言葉を発する。


「俺達の話を知っていたのか、分かった!2人は俺達が守り抜く」

「お願いします、兄さんは少し頼りないので」

「おいおい」


 精霊の声が聞こえる兄妹、彼らの協力の元ギン達はいよいよ作戦に移る。

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