互いの理解

村長、アルより見送りを受けたギン達はそれぞれが馬車を御し一路スップへと向かっていた。


 ループの馬車を御しているギンが馬車の後方からムルカに話かけられている。


「ギン殿、2人共よく眠っている。やはり昨晩の睡眠だけでは不十分であったのであろう」

「ですね、まだ帝国がプレツへ向かっている段階とはいえ急いで戻って対策を練らないといけませんからね」


 馬車の中でエイムとルルーは魔力回復の為の睡眠が十分ではなかったが、急いでスップまで戻る必要もある為、馬車の中で睡眠をとるという手段をとったのである。


 そんな中、ムルカはギンにある事を聞いて見た。


「ギン殿、貴殿は対魔族の為に帝国との停戦や終戦は可能だと思うか?」

「それはプレツの王族や貴族が決めることなのでは」

「私は貴殿の考えが聞きたいのだ。貴殿はよく帝国の将軍や士官と剣を交えておるから何かしら感じるものがあるのではないかと思ってな」


 ムルカの言葉を受け、ギンは少し間をおいてから話し始める。


「剣を交えて相手の考えが分かるほど俺は賢くありません、ただ……」

「ただ、何だ?」

「唯一戦う前にまともに話せた魔導騎士団長のカイスという男ですが、奴は騎士道精神というものを重んじているように感じました。ですがルルーが話していたように帝国軍の武装集団や軍事拠点しか攻撃しないという規律を遵守しているだけかも知れないので、まだ決められません」

「なるほど、確かに判断の難しい所だな」


 さらにギンは別の懸念材料を話す。


「他にもプラナという女士官のように帝国の者以外を見下すような態度をとる者が多数いるようでは停戦すら難しいでしょうね」

「私はそのプラナという士官と交戦はしておらんからよく分からぬがギン殿の言う通りだとすれば帝国そのものがそういう考えだと思わざるをえんな」


 ギンの考えを聞いたうえでムルカは自らの考えも話す。


「ギン殿ばかり言わすのも不公平だろうから私も話そう。これは私個人の考えだがバンス将軍と話していると彼らも1人の人間であることを実感した」

「どういうことを話したんですか?」

「まず私が妻を戦争で亡くしたことを話した。すると彼も戦争で奥方を亡くされたようだ」

「バンス将軍もですか⁉」


 ギンの言葉を聞いて、更にムルカは言葉を続ける。


「無論、彼らが敵対行為をやめない限り我らは戦う他ない」

「結局そこに落ち着くんですね」

「だが私と貴殿が話したことは無駄ではないと私は思う。互いの考えを理解することが大事だからな。人でも国でも」

「互いの理解……」


 互いの理解。それはもしかしたら戦いに勝利することより難しいことなのかもしれないとギンは思うのであった。

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