捨て身の攻撃

バンス救援の為にバンスの所に向かおうとしたブリードであったが、ギンに追い付かれ、部下の兵士が足止めしている隙に再度バンスの所へと向かうこととした。


 遠くから包囲部隊が崩れているのを確認したブライアンとルルーがなにやら話をしている。


「包囲部隊が崩れているわ。誰かが攻撃しているの?」

「もしかしてギン達が来てくれたかも知れねえ、やっぱ俺達は旦那を助けに行くぞ」

「そうね、いくらムルカ様でもバンス将軍は手ごわい相手よ」


 ブライアンとルルーがムルカの救援に向かおうと決断をしたころムルカ、そしてバンスが最後の決着に臨んでいた。


「じゃあそろそろ終わりにさせてもらうぞ!」


 そう言ってバンスは手持ちのハルバードをムルカに対して振り回し攻撃をし、ムルカはそれを紙一重でかわすが、バンスはムルカにわずかの隙が見え大きく振りかざす。


「隙を見せたな、終わりだ!」


 バンスが振りかざしたハルバードはムルカの右肩を斧の部分が食い込みムルカの右肩より出血があるがバンスはそれ以上の手ごたえを感じられないことに違和感をおぼえる。


「どういうことだ?これ以上何故切れない?はっ⁉」


 バンスが何かに気付いた時ムルカがバンスに対し何が起きているかを話す。


「気付いたか、そうだ私の肉体強化魔法でこれ以上は私を切り裂くことはできんという事だ」

「まさか、隙を見せたのも……」

「そうだ、魔法発動のわずかな集中と貴殿の攻撃を誘発するためだ」


 ムルカは肉体強化の魔法を発動をするためにわずかな隙を見せ、バンスの攻撃を誘発し、斧が自らの体に食い込むことを計算し、そこからの攻撃が目的なのである。


 そしてムルカは左腕に魔法を集中しバンスに対して拳を放つ。


 ムルカの拳をくらったバンスは後方に吹っ飛び、意表を突かれたのか防御する間もなく拳が体に直撃しそのまま動けないでいた。


「ぐ……こ、このわし……が……ここまでやられるとは」


 次の瞬間ムルカはバンスのハルバードを右肩から抜き、投げ捨てる。更なる出血があるが治癒魔法をかけ抑える。だがルルーほどの治癒魔法は使用できない為、完治とはいかなかった。


「貴殿らの負けだ。私はこのまま立ち去らせてもらう」

「待て、わしにとどめを刺さんのか?」

「私はもう同じ過ちは繰り返したくない」

「どういうことだそれは?」


 バンスに疑問を投げかけられムルカが答える。


「あの時、妻を失った戦争で私は多くの敵を斬った。だが憎しみのあまり、大怪我を負い、もはや戦うこともできない者をも殺した。私の戦いは戦争の為でも、妻の為でもなく、ただの人殺しと化していた」

「……まさか騎士団を抜けた真の理由とは……」

「そうだ、その瞬間すでに私は騎士ではなくなった。だから今はせめて同じ過ちを繰り返さないようにだけはしたい。それだけだ」

「ふっ、どこまでも不器用、だが誇り高くありたいという事か、……訂正しようお主は腑抜けなどではない、腑抜けにあの拳は放てまい」


 バンスは敵ではあるもののムルカの力、そして誇りを認める。そういう心境であった。

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