求める理想
スップの教会からミッツ教団が提供してくれた馬ループが引いている馬車に乗り込んだギン達はスール国を目指していた。ループの手綱をとって馬車を御しているのはギンだ。そんなギンに後方からエイムがなにやら話掛けている。
「あのギンさん」
「何だ?」
「私もループと仲良くなりたいので、今度馬車の御し方教えてください」
「教えるのは構わないが、それとループと仲良くなるのは別の問題だと思うが」
よほどループが気に入ったのか馬車の御し方の教えをエイムがギンに懇願している。ギン自身はループと仲良くなるには他にもあると言いたげだが、教えること自体に抵抗はないようだ。そんな2人の様子を見てムルカがルルーに話す。
「ルルーよ」
「はい、何でしょうか?」
「ギン殿の魔法剣、そしてエイム殿が膨大な魔力を秘めている点。帝国と我らの戦いにおいて非常に重要な点であるな」
突如、ムルカがギンとエイムの持つ能力のことを強調したのでルルーも自身の見解を話す。
「はい、私もそう思います。ですが司祭様は2人を軍の戦力に組み込むのをよしとしませんでしたね」
「元々司祭様には軍事に口出す権限はないが、進言もしなかったな」
「私は傭兵のギンはともかく、エイムはこういった形でも戦争に巻き込むべきではなかったと思います」
ルルーの発言に対しムルカが軽い反論をする。
「ルルー、私はそれも違うと思う」
「えっ?」
「本来誰であっても戦争などすべきではないのだ。無論、我らやブライアン殿もだ」
ムルカの発言に感服したルルーは、表情を緩めて話す。
「さすがです、ムルカ様。私の負けです」
「私を理想主義者だと笑う者もおるだろうが、戦争などしなくとも生きていける。そういう世を作るのが我らの使命なのだ」
「はい、我らは本来そうあるべきでした」
次の瞬間少し寂しそうな表情でムルカが語る。
「だが、悲しいが今は我らも戦う他ない。少々申し訳ないがそのためにギン殿らの力が必要なのだ」
ムルカにとって今の状況は不本意以外の何物でもない。本来は聖職者として平和や命の尊さなどを伝道していかなければならないのに世界がそれを許さない状況になっている。だがそんな中でも理想を信じて覚悟を持って戦いに身を置くこととしたのだ。そしてそのムルカはギン達について思うことをルルーに話す。
「しかし、なんというかギン殿は傭兵というには気高さみたいなものを感じる」
「お言葉ですがムルカ様、それは考えすぎではありませんか」
「ぬうっ、そうなのか?」
「ギンはブライアンの言い草にあわせてケンカしたりするし気高さとは程遠いと思いますよ」
この言葉が聞こえたブライアンが思わずルルーに抗議する。
「ちょっと待て!何でさりげなく俺のことまでバカにしてんだ!」
「私は実際に起きたことをいってるだけよ。それにあなただって私のことバカにしてたでしょ」
ルルーが言いたいのは自分のことを手当係だと疑問形でブライアンが言ったことだ。
「な、まだ根に持っているのか。ねちっこい奴だな」
「あんたが悪いんでしょう。人のことを手当係だなんてとってつけたように言うから」
言いたいことを言い合ってるブライアンとルルーを見て若者達の危うさと逞しさを感じるムルカであった。
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