第17話 「全部、省吾くんが悪い!」

7月30日



 今日も朝から暑い、雲一つない快晴だった。


「あっ、おはよう春斗くん!」


 今日の陽葵ひまりも朝は早い。


 あのあと、そのまま陽葵と一緒の布団で寝てしまった。

 なんとも消化不良だったので俺が寝付けたのはしばらく時間が経ったあとだった。


 その陽葵はというと、今日も元気いっぱい! とばかりにニコニコとキッチンで朝食の支度をしていた。


「俺も手伝うよ、ご飯よそえばいい?」


 俺もキッチンまで行き、陽葵の手伝いをすることにする。


「えへへへ、ありがとう春斗くん」


 朝からご機嫌の陽葵を横にして、炊飯器からご飯をよそう。


「佳乃さんって起きてくるのかなぁ、省吾くんと雅文さんは食べるだろうけど」

「とりあえずみんなの分は用意しとこうよ」

「オッケー」


 陽葵とそんなやり取りをしながら全員分の朝食の用意をする。

 

 約一名、気分的にご飯抜きにしたい人物がいたが、そんなことするわけにはいかないのでちゃんと用意する。


「くそぉ、起きてきたらクレームだクレーム」


 そんなことを思いながら、恨みを込めて茶碗にご飯をよそっていると陽葵が急に接近してきた。


 チュッとほっぺにキスをされる。


「えへへへ、狙ってました~」


 精一杯、背伸びをしている姿がとても可愛らしい。


「今のはずるい」

「へへーんだ、ずるくないよ」


 陽葵が悪戯顔でまた朝食の作業に戻る。


「春斗くん、また昨日の続きしようね」


 朝からそんな破壊力抜群のセリフを陽葵が言ってきた。




※※※




「全部、省吾くんが悪い!!」

「はぁ?」


 省吾くんと雅文さんが起きてきて、4人で食卓を囲んでいた。

 佳乃お姉さまは爆睡しているらしく呼んでも起きてこなかった。


「昨日はゲロるわ、夜中に大きな音は出すわ! どうなってるんですか!!」


 昨日とはうって変って、調子の良さそうな省吾くんに絶賛クレームをつけていた。


「ゲロは悪かったって言ってるだろ。つーか夜中の話ってなんのことだよ」


 ぐぅ……あくまでもしらを切るつもりかこの人。


「昨日、夜中にドォン! って大きな音が省吾くんの部屋から聞こえました! 壁ドンされてるのかと!」

「はぁ? んなことしてねぇよ」


 正々堂々と真正面から省吾くんに聞いてみたが、本当に何のことを言っているか分からない様子だった。


「あー、もしかしたら今日起きたらベッドから落ちてたからそれの音かもな。すげー昨日ぐっすり寝れてさ」

「さ、左様でございますか……」


 いざ聞いてみれば、全然大したことない内容だった。

 っていうかこの人そんな寝相悪かったんだ。


「……ん? 壁ドンを気にするってことは」


 黙って聞いていた雅文さんが急に声を出す。

 雅文さんはピコーン! と頭の上に電球が出て何かを閃いた様子だった。


「えっ? まさか」


 省吾くんも同様に閃いた様子で、ニヤニヤしてこちらに詰め寄る。


「ヤッたの?」


 ゲス顔でド直球に省吾くんが聞いてきた。

 隣で朝食を食べていた陽葵は赤くなってうつむいてしまった。


 陽葵よ、今その反応はあかん。

 この人たちに隙を見せたらいかんのだ。


「……やってません」

「ほーーーーー」


 めちゃくちゃムカつく顔で省吾くんがそんな声をだした。

 雅文さんもひっそり笑っているのが見えた。


「は、春斗くん、なめこの味噌汁どう?」


 まだ顔が赤い陽葵が、話を誤魔化すためにみそ汁の感想を求めてくる。


「美味しいよ」

「よ、良かった」


 ずずずーと味噌汁をすする。

 二日連続のなめこの味噌汁だったが、味もちょうどよくて相変わらず安心する味だった。


「はぁ、毎日リア充を見せつけられる俺たちの立場にもなってみろって。なぁ雅文」

「……ほんとそれ」


 全然嬉しくない男二人の熱い視線がすごく痛かった。




※※※




「省吾さーん、そろそろ冷蔵庫の食料なくなりそうなんですけど」


 朝食後、片付けをしていたら陽葵が省吾くんに声をかけていた。


「あーー、そろそろ買い出し行かないとなぁ。この前はバーベキューの食材だけだったし」

「いつも誰が買い出し行ってるんですか?」

「俺か雅文」


 陽葵と省吾くんの話を聞きながら、やっぱりなと思う。

 絶対に佳乃お姉さまは行かないと思った。


「じゃお願いしてもいいですか? そろそろすっからかんになりそうで」

「いいけど――あっ、おい春斗」


 急にこっちに話をふられる。


「お前、買い物行って来いよ」

「……嫌ですよ、みんな何食べるか分からないし」

「いいんだよテキトーで、どうせ陽葵ちゃんに作ってもらうんだからさ」


 ぐぬぬ……、絶対この人買い出しに行くのめんどくさいからこっちに話をふってきたな。

 

「あっ、じゃあ私も一緒に行こうか春斗くん? 本当に何でもいいんですか?」

「いいよいいよ。いつもご飯作ってくれてありがとね」


 何故か陽葵には優しい省吾くん。

 くそぉ……ていよく面倒事を押し付けられた気がする。


「金はカンパだから、あねごと雅文さんにも言ってくるな。何買ってくるかは任せたから」

「はーい、じゃあちょっとお出かけの準備してこないと」


 陽葵が出かける準備をするのに部屋に戻ろうとする。


「ねぇねぇ、春斗くんは今日何食べたい?」


 そう言えば、子供のときに本物のオカンにも毎日そんなこと聞かれていたなぁと少しだけ懐かしくなった。

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