第15話 「水着持ってくれば良かったかなぁ」

 シェアハウスの住人で近くの川辺に向かっていた。


 雅文さんは叩き起こされ、省吾くんはいまだに顔色が優れない。

 昨日、ほぼ徹夜で騒いでいたものだから全員疲れが出ていた。


 一名を除いて。


「久しぶりだなぁ、川で泳ぐの!」


 元気いっぱいの佳乃お姉さまがその川に向かって意気揚々と歩を進める。


「大丈夫ですか、省吾さん。酔い止め持ってきたんでよかったらどうぞ」 

「あぁ……ありがとう」


 顔色が悪い省吾くんに、陽葵ひまりが二日酔いの薬を差し出す。


 なんでお前が二日酔いのクスリ持ってるねんとツッコミたくなる。

 陽葵オカンの準備はなぜかいつも万端なのだ。


「ほらー、着いたぞ」

「えっここですか?」


 陽葵となんやかんやあった川辺をもう少し奥に行くと、ひらけた場所についた。



ざっぱーーーーん!



 えぇえええええ!

 いきなり佳乃さんが水に飛び込んでいた!

 服もそのままで!

 

「ほらー!ショーゴもマサフミも早く!」

「ちょっ、ちょ!」


 びしょびしょの佳乃さんは二人に詰め寄り、そのまま二人の背中を押して水に飛び込ませる。


バッシャーーン!


「つめてぇええええ」

「げほっ、げほっ」


 大声を出す省吾くん。

 むせる雅文さん。


 引きました。今のはさすがに引きました。


「だ、大丈夫なんですか服のままで!?」

「ダイジョーブだって! どうせすぐ乾くから!」


 ぷかぷかと浮かんでいる佳乃さんに声をかけると、全然気にしてない風に声を出す。

 いや、それもあるけどそうじゃない!!

 重さとか危ないとかそっちだ!


「陽葵はどうする?」

「わ、私はさすがにいいかな。着替えもってきてないし」

「だよなぁ……」


 ぷかぷか浮かんでいる三人に目をやり、俺と陽葵は水場すぐ近くの岩に腰をおろしていた。


「!!」


 よく考えたらこれは佳乃さんのすけすけチャンスなのではと思い、お姉さまのほうによーーーく目を凝らす。


 ――が、水にいるものだからよく分からなかった。がっかり。

 ただ、張り付いた衣服が体にペタッとしてるのは大変いい光景だと思いました。


「今、変なこと考えてなかった?」


 ぎくっ!

 隣の陽葵が声を出す。

 こいつエスパーか何かか! 相変わらず勘が良い!


「水着持ってくれば良かったかなぁ」


 陽葵がぼそっとそんなことを呟いた。

 陽葵の白い足がちゃぷちゃぷと水辺で遊んでいた。


「陽葵の水着かぁ」

「春斗くんのエッチ」


 間髪おかずに陽葵にそんなことを言われる。

 な、なんだか考えること全てこの子に見透かされているような気がする……。


 仕方がないので、素直に思っていることを口にすることにした。


「陽葵の水着見てみたいなぁ」

「えー、いっぱい見たときあるじゃん」

「子供の時と今は違うだろ」

「そ、そっかな? けど可愛いの持ってないから恥ずかしいし……」


 陽葵が恥ずかしそうにうつむいてしまった。



「お前ら何いい雰囲気だしてんだ!!」

「……逃がさない」


 そんな話をしていたら、省吾くんと雅文さんが水辺からゾンビのようにいつの間にか近くにきていた!


 いきなり二人に体を抱えられて、ぽいっと水に放り込まれる。



バッシャーーン!!



「つ、つめたぁあああ!! 何するんですか!!」


 真夏の川辺だったが、山の水はひんやりとしていてやたら冷たかった。


「ざまぁみろ! 天罰だ!」

「何も悪いことしてないのに!」

「……リア充罪」


 あははははと省吾くんと雅文さんが大声で笑っている。


「ちょ、ちょっと春斗くんにあんまりひどいこと――」


 陽葵がそう言って立ち上がると、今度は陽葵の近くに佳乃さんがいた。


「ほらー! ヒマリも!」



バッシャーーン!



 陽葵も背中を押されて、水に飛び込まされていた。


 ……全員仲良く、服のままで泳ぐという謎の集団ができあがってしまっていた。

 だれも近くにいなくて本当に良かった。


「ケホッケホッ冷たい!」

「冷たくて気持ちいいだろー!」


 陽葵と佳乃さんがそう言って水をかけあって遊びはじまった。


 も、もしかしてこれは二人のスケスケチャンス再到来なのではと思いこっそり二人のほうに目をやる。


「んっ?」


 陽葵の透けたTシャツの中から黒いものが見える。

 もしかしてあれって……スクール水着?


「やっぱり準備万端じゃん……」


 さすが陽葵だなぁと思った。

 スクール水着にぺたっとTシャツが張り付いていてとても良いと思いました!

 佳乃さんのほうも、透けるような服は着ていなかったっぽいが濡れた髪がやたら色っぽかった!

 いいです! どっちもすごくいいです!

 

「あ、あれ? そう言えば省吾くんと雅文さんはどこに」


 そんなことを考えていると、ちょっかいをかけてきた二人がいなくなっていた。

 周りに目をやると、雅文さんはすぐに見つかった。


「な、なにやってるんですか雅文さん」

「……ちょっと筋トレ、ふっふっ」


 雅文さんは何故か上着を脱ぎ、スクワットなどをして筋トレをしていた。

 割れた腹筋とむきむきの二の腕がやたらこの川辺でサマになっている。


「と、ところで省吾くんは……」

「おぇええええええええ」


 大きな声が聞こえてきたのでそちらに目をやったら、省吾くんが口からきらきらしたものを川に吐いていた。

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