第25話 オーパーツ

 ラサの商人ギルド、ギルドマスター室。


「先ほどの物をもう一度見せていただきたい」


 レオスさんの真剣な声に言われるがままに手鏡を差し出した。純粋にこの鏡やキド・Oについては気になってたからここで情報が得られればありがたい。素性の知らない人間からの個人依頼とか怖いからな。ある程度知っていれば報酬を踏み倒されたときに家に突撃できるし。


 レオスさんは手袋をはめた手で丁寧に鏡を観察すると重苦しい生真面目な雰囲気のままなにも言わずにそっと俺に返した。


 その指が少し震えていたのは見間違えではないはずだ。


 盗まれた物だったらまた無実の罪を着させられたことになるんだけど。もう憲兵に追われるような生活はごめんだね。


 危ないってわかったら何か理由をつけてここに置いて帰ろう。俺が勝手に押し付けたとすればここにも迷惑は掛からないし、シュウたちも現物を手に入れたら追うことなんてしなくなるだろう。俺自身はただの冒険者なんだし。


 沈黙のあまり貴族みたいな保身に考えが染まっていた間、レオスさんは難しい顔で押し黙ったまま机の一点を見つめ続けていた。


「なにかわかりましたか?」


 俺のほうにチラッと視線を向けると覚悟を決めたように口を開いた。


「そうですね。ですがそのことをお伝えする前にギルドマスターとしてではなく一人の大人として忠告しておきたいことがあります」


 もはやうつむいてはいなかった。


「これをできる限り人に見せないようにしてください。もしあなたがトラブルに巻き込まれたくないのならば」


 彼によるとこの手鏡はただの鑑定魔道具ではなく神話の時代に製造されたオーパーツだそうだ。同じようなものはここヴォルガ王国と隣国ハザールで確認されているらしい。レオスさんは王家とギルドの晩餐会の時に実物を見ていたためこの手鏡がオーパーツだと気づいたそうだ。


 なんでもオーパーツには特有の渦巻き模様があるんだってちょっと自慢気に話してくれたよ。そんな貴重なものを雑にバックの中に突っ込んでいたことに悪寒がはしる。


「わかりました。心得ておきます。あともう一つ聞きたいのですが、キド・Oという人物に心当たりはありませんか?この鏡は彼から譲り受けた者なんです」


「そうですね、心当たりはないです。他のギルドに聞いてみましょうか?商人たちのネットワークなら大抵のことはわかるはずだと自負しておりますから」


 連絡が早くなるからと言われたので商人ギルドへの登録もした。無料っていう言葉にひかれてしまった。どうもこの言葉に弱いんだよな。


 もろもろの手続きを終えると一階でアリバとじゃれていたルルを連れ戻してギルドを後にした。


 アリバからは「定期的に手紙を送りますからね!」と半泣きで送り出された。少しの間しか一緒にいなかったのにここまでなついてくれるとは思わなかったな。


「ルル、ハザールでもおとなしくしといてくれよ?」


「わかっておるわ。我をなんだと思っておる」


 軽口をたたきながら久しぶりの平和を楽しむ俺らの背後に復讐のゴミがこびりついていたことを俺はまだ知らなかった。

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